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ピンクのイルカが夢を見た 1-3

「またイルカか」
 歩きながら慶がつぶやいた。

『イルカみたいに海で自由に泳ぎたいから』
 西田の問いにまつみは恥ずかしそうに答えたという。
 脳裏に浮かぶイルカの思い出を封じて有人は耳を傾ける。
「泳ぎたいとかそういう話は僕は全然知らないんだ。だけどあいつ、水族館に行った時、イルカの水槽からなかなか動こうとしなかった。僕の話なんか聞いてるんだかいないんだか…はいいんだけど、いや、よくはないんだけど。ま、女の子ってそういうもんだから……」
「何それぇ」
「男ってのは女の子の話を聞いてやるもんじゃん!」
「えー? いつもまつみが慶君の話聞いてる方じゃないのぉ?」
「それはそれってことで頼むよ羽美ちゃん!……あいつ、イルカの水槽の前でなんかすっごく真剣で―」
 言葉を止める。
「……西田さんが言ってみたいに、そうしなきゃいけない感じで、イルカが泳ぐのをずっと目で追ってた」

 わかるのは、慶がまつみと水族館でデートをしたということ。
(何話したんだろ)
 羽美子が言う通り、慶がしゃべりまつみがにっこりうなずきながら付いて行く様子が目に浮かぶ。
(違う、そうじゃなくて!)
 わかったのはまつみが「イルカ」にこだわっていたということだ。
(でも、イルカが家出に誘うわけもないしね)
 ため息をまじりにあたりを見回す。
 夏至も近い時期の夕刻は明るい。他校の高校生が楽しそうに話しながら歩いている。自分たちも表向きは同じ様に見えるだろうが―
(!)

 先ほどから梨々香がずっと一人で後ろを歩いているのに気付いた。今日はほとんど話していない。
 すっと足を遅める。
「楡崎。どう? 何か気付いた?」
 オリーブがかった濃い色の肌に深い目元。きちんと梳かせばさぞかし見事だろう漆黒の髪。いつもの憂鬱そうな表情は、エジプトの女王が膨大な借金にぼう然自失って感じかな?―と有人は勝手に例えた。スタイルもあの時代の壁画のように上から下まですとんとしている。

 今時どこで入手したのか不思議な、黒く大きなフレーム眼鏡の向こうから梨々香は一瞬有人の方を見た。すぐにかくんと首を落とし顔を伏せる。
「えっと……おまえ、なんかモノ良く知っているみたいだから、何かわかったかな、と思ってな」
 ごめんなさい、と口の中で言ったらしい。
「責めてるわけじゃねえよ。オレなんてまして何もわかってないんだから。情けないよな。あ、オレがだぜ」
 もう一段階首を落とした梨々香に慌てて加える。
 ちゅんちゅん、とシャツの袖を引っ張っられた。羽美子だ。
「気にしないでね、あの子暗いんだけど」
 半分無理矢理、前に引きずられながらささやきを聞く。

 羽美子のことは有人は「白うさぎ」と名付けていた。ピンクがかって健康的な白い肌に、まぶたのあたりの珊瑚のような赤み。いつ見ても同じだから化粧でなく地なのだろう。少しだけ茶味がかかった髪は、学校にいる時は左右の高い位置でさくらんぼやら星やらで留められている。
 今日は休みなのでふわっと流しているのが新鮮だった。片側の耳上だけを編み込んでピンクのリボンを付けているのが可愛らしい。
 笑顔がいつも幸せそうなのも梨々香とは対照的だ。
 ほどよい丸い膨らみの胸も、話すたびに持ち主と同じように楽しそうに揺れる。

「なんか複雑な家の子なんだって」
 小さな声に泡のような好奇心があふれている。
「ホントのお父さんお母さんと連絡取ってないとか……でもぉ、機嫌悪そうな顔してなくてもいいと思うんだけどぉ。塩矢君、ごめんね」
「おまえが謝ることじゃねえって。訳ありなら、色々辛いことだってあるだろう?」
「わかんない! そういうの」
 ぷいと横を向かれ有人はきょとんとする。構わず羽美子が付け加えた。
「寮でもトラブルメーカーなんだって。いきなりおんなじ部屋の子に殴りかかったとかで、まつみのとこに部屋替えになったの」
「んでも、まつみとは仲良いじゃん? オケ部でも同じヴァイオリンだし、CDの貸し借りとか色々聞いてるけど」
 慶が振り返って割り込む。
「まつみなら大丈夫だと思われて押し付けられたのよ! 優しいから我慢してんの。まつみ、忍耐強いし」
「そこはすごいよあいつ。僕もそう思う」
「そーよねぇー。まつみだから慶君のおしゃべりにも我慢してんのよねぇ」
「何っ! いいか? 男は黙ってこうなー」
 上着を脱いで空に回す。
(……ジョークなんだろうけど)
 ポーズの決まり方に有人は目を見張った。
 まつみにも、あの手の仕草を見せているのか。

 成績も上位、おまけに容姿と如才なさで―友人としてというにしろ―慶は女子に人気がある。だから一年の時、当時同じクラスだったまつみと付き合い始めたことは結構話題になった、と後から聞いた。
 おとなしく孤立しているようにすら見えるまつみと、人の輪に囲まれる慶。攻撃されてもおかしくなかったのだが、それにすらまつみはおとなし過ぎたようだ。
 有人は結局、彼らの付き合いについて好意的な意見しか聞いたことがない。

 有人自身もそうだ。
 食堂で、門限までは自宅生が入るのも許されている寮の談話室で、楽しそうに話す二人の姿を何度も見た。弓道部の胴着姿の慶を見上げる瞳はうれしそうで、いつもと違う光があってー見ている有人すら思わず微笑んだ。
 だから、この思いは恋じゃない。
 気になりだした時には、もう慶のことは知っていた。奪おうとするほど激しい感情もない。
 ただ、懸命にノートを取る横顔に幸せになるだけ。
 水色のシャツから覗く首元に、動揺しつつ暖かい気持ちになるだけだ。
 慶をおいて、あの子はどこへ行ったのだろう?



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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