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少女探偵団 大阪戦争? 福あり! 6-11

 H点社会への復讐を決めたから、八橋はキティーポニークラブでボランティアを始めたのだ。
「トラウマってホントにすごい。ちょっとそれを思い出すだけで体の調子が狂うんだ。気のせいじゃない。ホルモンのバランスが崩れたり、血圧が上がったり、潰瘍が出来たり。立ち直ったって思っても、事件と関係のある音楽とか、似た建物とか、似たような湿気だけでも膝ががくがくして立ってられないって子もいたよ」
 座談会の様子に聞き耳を立てながら、八橋は計画を練った。
 アンドレアの中学生に殺人のトラウマを与え、悦に入ったのもつかの間。叩き落としたのはたった一人だが、八橋を踏みつける「人柄のいい」連中はまだまだうじゃうじゃしている。
「岩室先生は口うるさくて、いつも不機嫌で、そばにいるだけでトラウマが増えそうな人。あれで心とか愛とかよく言えるもんだよ。けど、ボクはただ我慢して通った」
 犯罪で心にダメージを与えるために。
 聖蓮女学院、領事館……どんどん続けた。続けるほど上手くいかないような気がしてきたが、それでも続けた。逮捕されても死刑になっても、構わない。
「ボクが死んだ後でも、連中はずっと苦しみ続けるんだから。ボクの勝ちだ」
 偶然の悪魔に遭い、「八橋竜臥」という人生も捨てた。
「……事件や事故に遭った連中なら助ける。DV被害者はもう大歓迎。だけどボクみたいに、何の『得点』もない人間を岩室先生は救おうとしない。むしろ見下してた。だから、ボクはキティーポニークラブにも復讐したかったんだ」
 自分が手を下した事件の「被害者」だったから、桜谷美弥のことはとりわけよく覚えていた。
 学校の廊下を歩くのも恐い、事件に遭う前とは世界が全部変わってしまった。細い声で言うのをついたてごしに聞きながら、八橋は恍惚と酔ったものだった。
 まだまだ苦しんでほしかったので残念だが、クラブへの行き来の時間やルートまで一番確実に覚えていたのは桜谷だった。


「美弥ちゃんはどうして……って言いながら死んでったよ」
 八橋は明るい笑みを見せて言った。少しの間、誰も何も言わなかった。
「……ボクはただ、性格のねじまがった親父と、文句ばかり言って何もしない母親の子どもに生まれただけだ。物心ついた時からあいつらに、お前みたいな駄目な奴はいないって言われ続けてきた。呪いだった」
 真顔で香南たちを見る。
「やっと頑張って入った中学校の同級生は、お母さんもお父さんもまともな人ばかりだった。一緒にテニスやったり、買物したり、それが楽しいって言うんだ。わかったよ」
 H点の高い人間の子どもはH点も高く。低い人間の子どもは低く。
「あんな家に生まれて、どうやって心優しく思いやりのある人間になれるってんだ」
 ずきり。香南の胸が音をたてて締まる。痛い。
「親は選べない。なのになぜボクだけが苦しんで、連中がH点エリートとしてのん気に大学に行くのを許さなきゃならないんだ。キティーポニークラブの連中にはH点加点条項があるのに、なぜボクには何も配慮されないんだ。これは、弱者であるボクの、強者への正当な権利だ。復讐するは我にあり」
 思わず香南は八橋を凝視した。
 狂った男はいなかった。静かに、そして暗く澱んでいた。
「それがあのおかちめんこソースのメッセージだ。そこまでは君たちも気づかなかっただろう」
「そうね」
 香南は大人のように丁寧に返した。真執が眉を寄せてこちらを見る。
「……彼の犯行現場には、必ずラベルのあの顔が切り取られて別に置かれていたそうよ」
 沙月が後ろから小さく付け加えた。警察の得ていた連続殺人の証拠だ。
「そう。あのソースの顔を見て、これだって思ったんだ。あれは、小さい時おじいちゃんの家で遊んだ福笑いの顔に似てた。『復讐するは我にあり』、略して復あり、で福笑い。フクアリがフクワライ。似ているだろう」
 がくん、と香南はすべった。
「……んなもん誰もわからんわ」
 思わず大阪弁で突っ込む。
「何がおかしい」
 八橋は真剣な目で見返した。
「ボクは世界中を憎んでいた。だからボクは世界に復讐した。ボクは駄目なんかじゃない! 誰も考えなかったプロジェクトを実行したんだ! ちょっと結果はズレちゃったけど、やったんだぜ! ボクはやったんだ!!」
「……外れまくりじゃん馬鹿」
 一緒にしないでよー心の中でつぶやいて続ける。
「そんなのただのへ理屈! だって、だってあたしだって世界中を憎んでたもの!!」
(そうだったんだ)
 頭の上が押し付けられたままの感覚。いつも自分を牢獄に押し込める灰色の雲。自分もこの世界を憎んでいた。
 自分が生きることを許さない大人たちの社会を、暴れてぶち壊して回りたかった。
 親も、H点の素質を持っていないことも、自分じゃ選べない。
 八橋の気持ちはよくわかる。いや。
(これは、あたしの気持ち)
「だけどあたしはそんな、連続殺人なんかしたいなんて思わなかったもの! だからあんたはただ、人殺しがしたかっただけの変態野郎なんだって! 決定!!」
「終わったね」
 真執が紳士的な微笑を見せた。
「八橋さん。彼女はH点偏差値三十切りの記録を持っているんだよ。その彼女にこう言われたらな」
「ちょっと真執っ……!」
「……ボ、ボクでも四十は切ったことないのに……」
「な…………!!」
 八橋と香南はそれぞれの席で、思いっきり落ち込んだ。

 しばらくして香南は思った。
(そっか。殺人って手もあったのか)
 ……司令?


 最初の異変は沙月のICレコーダーだった。
「やーね。動かないじゃない」
 続いてラーダが悲鳴をあげた。
「サンヴリヤちゃん! あう!」
 慌ててノートパソコンをいじりまくり、だが間もなく電源を落とした。
 次に鳴った電話は携帯ではなく護送車備え付けのものだった。府警刑事から沙月に替わる。
 だからこの先は、香南たちには後から教えられた会話である。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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