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空など飛べないと刑事は言った プロローグ

〈第一の犯行〉
 光る黒。冷たい灰色、ざらつくベージュ。
 色こそ違えど、この通りの塀の共通点は見上げるほど高く、かつ長く続くことだ。
 塀によって外界から隔絶されたお屋敷町の間に、場違いなほど小さな神社がある。道路に面した二本の石柱が町の「江戸」からの由緒を主張するが、間の小さな鳥居から続く細い参道は曲がりくねりやたらと不格好だ。
 参道に入ってすぐの所に月音《つきね》は自転車を停めた。指定された時刻の五分前。
 午前七時十五分。住宅街には人影はなく、とりわけ珍しいものもない。
「退屈だ」
 月音は思った。

 月音はずっと退屈だった。
 毎日学校に通って、同じように席に座っているのが悪いのかと登校拒否をしてみたこともある。だが、家で自分の部屋にこもっている方がもっと退屈だと気付き、半年で止めた。
 その後は人並みに受験勉強をし、高校には今のところ無遅刻無欠席で通っているがやはり退屈だ。
 だから月音はこの「仲間」に入った。

 左から右へブルーグレーの車が通り過ぎた。
 知らされていた通りだ。
 向かいの邸宅前のミラーを覗くと、車は少し先で止まり、すぐに走り去った。
 女が、立ち尽くしたまましばらくその車を見送っていた。
 後ろからでも月並みな笑顔が見えるように思った。
 女が身を翻して塀の中へ向かうのを見て、初めて月音は慌てた。参道から飛び出し、朝の静けさを破って音を立てて走り女の背に追いつく。気配に振り返った女は、彫り模様のある高い門に手をかけてすぐ表情を変えた。肩からぶつかって女を敷地内に押し込み、胸に握った包丁を突き立てる。
 女はうなっただけだった。もう一度胸、三回目は首を刺すと女は重く転がった。素早くあたりを見回す。
 相変わらず人影はない。
 血の飛んだレインコートと手袋を脱いで丸め、急いで参道の自転車に戻る。前かごの紙袋にそれらを詰めると、開け放たれた門扉の前を通り過ぎて自転車を走らせた。突き当たりの遊歩道を左折し、指定の駅近くで降りる。紙袋を片手に、前かごに結びつけられていた鍵をポケットに入れ、改札へ。誰か追って来たら途中で乗り捨てても逆に駅を通り越してもいい、と言われていたが、その心配はなかった。
 鍵に付いた汚い字のメモに従い、一駅先の改札を出てすぐ横のコインロッカーを開ける。
 約束通り新幹線の切符が入っていた。
(あーあ)
 やっぱり退屈だ。
 先ほどまでは追われているかも? というスリルが少しだけあった。手足末端の血が泡立つような感覚もあったが、今は普通だ。明日からはあと少しの夏休みまで、いつものように学校に通うだけだ。
 久しぶりの新幹線は新型車両かもしれないが、それでも退屈だ。
 この日、月音が得た教訓は、「殺人もまた退屈だ」ということだった。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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