TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 1-1TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 1-1

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 1-1

「……土蜘蛛《つちぐも》さんは頑固で、人の話は聞かず、ことを勝手に解釈して火を吹いたように怒り出し、しかも多少被害妄想気味で何についても自分が非難されたと思って反撃し、あまりにも合理性がないので仕方なく相手が譲ると正しいことを教えてやったと満足し、自分は面倒見が良いから目下から慕われていると勘違いして―」
「それが、無罪だと主張する理由?」
 娘のような若い警視に突っ込まれ、頓田道二郎《とんだどうじろう》はうっと喉を詰めた。
 がすぐに落ち着きを装って上官に返す。
「ですが正義感は確かです。頑固だからこそ正義からぶれません」
「独善的な正義が犯罪の動機になるなんて、腐るほどあるじゃない!」
 今度は返せず、不快さを額に力を入れて耐えた。
 そう、耐えれば良かったのだ。
 いつもそうしてきた。
 警察という厳しい職場でおよそ二十年、おかげで年相応の分別はある。与えられた仕事を拝受し、給料を貰う以上結果を出す。畑を耕すように、旋盤で部品を削り出すように、地道に刑事の仕事をする。それが自分だ。
 ならばどうして、この「捜査相談室」に来たのか。
 行こうか止めようか、ラブレターを渡す中学生のように迷いながらなぜ訴え出た?
「ごめんなさい」
 と、少女めいたーまたは単なる童顔のー女警視はすっと真面目な顔で謝った。
「わたしはそんな突っ込みをする立場じゃないよね」
 素直な調子に拍子抜けした。詰まっていた不快感はいきなりすぽんと落ち、消えるしかない。
 肩下で切りそろえた黒い髪。同じ色のスカートスーツにスレンダーな身を包んだこの女、は別にいい。捜査相談室の責任者がキャリア、つまり幹部候補生の一人であることは確認済だ。
 問題は、この女の後ろの事務椅子にふんぞり返っている「アレ」だ。
 純白のエプロンがのった黒地のロングワンピースから出た足を、大股開き。短く刈り込んだ黒髪の上に白いティアラ―頓田はその言葉は知らなかったが―をぽそっとのせ、ずっと無表情で話を聞いている、がしりとした顎を持つ若い男ーいや少年だ。
 つい十数分前、部屋に入った頓田はこの異様なモノを見た途端叫んだ。

『あ、あ、あ、警視! こ、この………』
『うちの男めいど。知らなかった?』
 喜屋武妹亜《きゃんせのあ》警視は平然と返した。知る訳はない!
『……お子さん、ですか?』
 苦し紛れの失言。妹亜はきっと睨んだ。
『頓田警部補。わたしがこ・ん・な! 大きな子どもを持つように見えますか?』
『い、いえ! 失礼しました』
 見たところ二十代後半。十代後半の息子は無理に決まっている。
『赤の他人のめいど君。でもよく働くのよ』
 今度はにっこりと笑って胸を張る。
『って、いったい何をやっていらっしゃるんですか! この子は未成年でしょう!』
 十六歳の高二だそうだ。
『子どもにこんな倒錯的なことをさせていいと思っているんですか。女装なんて……』
『女装?! 変態さんみたいなこと言わないでよ』
 思わぬ逆襲だった。
『うちのめいど君をよく見てくれる? 女装なんかしてないわ。化粧はしてないし、髪もこう。むしろ男らしいでしょ』
 少年は平均に少し足りない頓田より頭一つほど背が高そうだ。肩はがっちりしているし、顔立ちも…いやそんな問題ではない!
『男は男らしく! ほら』
 と傍らの革バッグから持ち出した雑誌をこちらに開く。
 小説雑誌らしく、色刷りの三段印刷の文章の横に、漫画めいた挿絵が入っていた。男性にしか見えない人物がメイド服を来て直立不動。ページをめくると―頓田が何と言っていいのかわからないことに―やはりメイド服の男がM字に足を開いて床に座り込んでいて、ひらひらのスカートの中まで書き込まれていた。パンツは女性物のようだーそこまで見る方も見る方だが。
『何ですかこれは?』
『ボーイズラブ雑誌』
『やっぱり倒錯してるじゃないですかっ!』
 ばさっ!
 思わず雑誌を手で払った。直後、上官の持ち物だと気付いて冷汗。慌てて拾って机に置き、それでもすぐに手を離す。
 実態を知っていれば、触っていたい物ではない。
『…よく知ってますね。たいていの人はわからないんだけど』
 妹亜は気にした様子もなく叩いた雑誌をバッグに戻した。
『前に、娘から取り上げたことがありますので』
『娘さんに読んでほしい本じゃないとは思うけど……。何も取り上げなくても』
 と苦笑い。
『成人向けだったんです!』
 ぶっきらぼうに返した。
『娘さんはおいくつですか』
『中二です』
 妹亜が小さく吹き出した、のと同時に初めてメイド服の少年が笑った。
(なんだ。結構いい顔するじゃないか)
 能面のようにしていなければいいのに。
『それはちょっとまずいわね。大丈夫! この本は全年齢向けだし、わたしは大人だし!』
『いいわけないでしょう!』
 そもそも天下の警視庁本庁舎内に、どうしてこんな高校生のガキがいるのだ?
『彼ね、矢辻若《やつじわか》さんからの預かりものなの』
 その言葉は、頓田をパキリと硬直させるのに充分だった。
 矢辻若警視監、別名日本警察の影の主。警察内で知らぬ者はない。
『警視監とは学生の頃からちょっと知り合いでね。お子さんが大学の同級にいたから』
(東大か)
 二年前に友人夫妻が事故死し、残された一人息子―名前は鳳羽《おおば》リュン―を心配した矢辻若が、妹亜に声をかけたのだという。
『矢辻若さんの所で預かったらかえって危ないし』
(確かに)
 どんな裏の魑魅魍魎が出入りしているかわからないがーその手のことは、一介の刑事の前では言わないでほしい!
『家事が得意だっていうから。わたし、そっちは駄目なんで、大歓迎で家に来てもらったの』
『……では、この格好も警視監のご指示と?』



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。