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空など飛べないと刑事は言った 1-2

 きゃははっと妹亜は大げさに笑った。
『まさか!』
『……この仕事着は俺の希望でもありません』
 リュンが初めて口をきいた。思ったより低い落ち着いた声だった。 
『わたしの趣味に決まってるじゃな~い! リュン君見映え悪くないでしょ。日頃の妄想を現実化するいい機会だから着せてるだけよ。似合うでしょ』
『私には、似合うとは思えませんが』
 やっと声を絞り出す。
『うちの「めいど」だからわたしのそばにいるの』
 妹亜は平然と言い、頓田はこの問題を棚上げしたまま、部屋に来た目的を話し始めるしかなかった。

 「捜査相談室」は昨年新設されたばかりの新しい部署だ。捜査に疑問がある時、上司を通さずにそれを訴えることが出来、必要なら再捜査をする。
 身内の捜査に異を唱えるなど後が恐い。こんな部署を作ってどうするのだ、と思った自分が一年も経たないうちに訪れるとは、思いも寄らなかった。
「とりあえずこれ……捜査本部から取ってきた経過報告。ホントに大事なことは教えちゃくれてないとは思うけどね。持ち出しは禁止だから、ここで読んでいって」
 ある程度目を通した頃に、捜査相談室長、喜屋武妹亜警視は黄色のクッションの敷かれた椅子に座り直して話し始めた。
「頓田さんには今さらかもしれないけど、情報の共有も兼ねて事件のアウトラインしゃべっとくね」
 左手の書類をぱさりと振る。どうも仕草が子どもっぽい。
「七月六日十八時十分過ぎ。パート帰りの母親が自宅近くの児童公園を覗いたが、待っているはずの与謝《よさ》あすみちゃん(五歳)の姿が見えなかった」
 公園には誰一人いなかった。
「トイレや遊具の中、公園回りまで探した母親は、次々と子どもの友だちの家を訪ね、その母親たちと一緒にあたりを探し歩いた。十九時十分に警察に通報。同三十八分、N交番の折口《おりぐち》巡査長と早見《はやみ》巡査が、近所の民家の庭に血まみれで倒れているあすみちゃんを発見」
 頭を強く打ち付けられてのショックと出血により既に死亡していた。
「で、六日後の十二日、その民家の住人で、あなたの恩人だっていう土蜘蛛裕《ひろし》が逮捕された―」
 そう。いくら被害妄想で怒鳴りつけられ、手柄自慢の思い出話を繰り返しては、「薫陶」への感謝を期待し鼻の穴をふくらませるのに仕方なく愛想を言わされても、彼のに叩き込まれた仕事のやり方が、その後役立ったことには違いない。そばにいることが忍耐の連続だったとしても、やはり土蜘蛛は恩人だ。
「……決め手は被害者から採取した繊維が、土蜘蛛の勤務先の警備会社『東帝《とうてい》セキュリティ』の制服に使われているものだったこと。家に一人でいたと主張するだけでアリバイもなく、先月公園で遊んでいた被害者たちをうるさいと怒鳴ったあたりが動機かと追及されているーってとこかな?」
「……被害者の服装が乱れていた、という報道があったように思いますが……」
 自分の子より多少大人に近い程度の「娘」にどう言えば、と頬が赤くなるが妹亜は構わず続けた。
「ああ、あれはそれだけね。この子は『いたずら』はされてない」
「そうですか」
 土蜘蛛はそんな行為はしない、と請け負おうとした頓田はまた気抜けした。
「じゃ、わたしがここにいても落ち着かないだろうし、隣の広報課に行ってるね」
 手早く机上をまとめる。
「うち、今日まで仕事なかったから、ずっと広報の手伝いしてたの。この後は『早生まれ撲滅連盟』とやらが無能な早生まれを警察から追い出せ~!とか熱演するのをてきとーに聞くんだって」
「はあ」
「午後は、どこぞの女流作家がスーツと眼鏡が似合うエリートを取材したいとかで……そんな普通の格好どこが楽しいのかな。男はやっぱりメイド! 次にエプロンよ!」
「ご主人様。他人《ひと》の好みに文句を付けるのはいい趣味ではありませんな」
(ご主人様?!……)
 ここは天下の警視庁。日本有数の堅い仕事場、のはずと頓田は心中繰り返す。
「確かにね。もしみんなが男メイド萌えになったら、リュン君なんかあっという間に引き抜かれちゃうもんねー」
「それはないと思いますが。それよりご主人様。頓田様に何かお伝えしている途中では?」
(頓田「さま」?!)
 止めろ!!
「そう、頓田さん。あなた、いつからこの仕事に手を付けられる?」
「は?」
「ここわたしと、うちのめいどしかいないのよ」
 頓田はあんぐりと口を開けた。
「わたしは室長で、兼お茶くみコピーにワープロ係!」
「コーヒーは居れば俺がサーブしますがね」
 呆然とついたてで仕切られた小スペースに目をやる。机は三つあるが、よく見れば上に物が乗っているのは一つだけだ。
(確かに)
 実動部隊いないのよねぇ、と妹亜はしらっと言って胸を張った。
「一時的にうちに籍を動かしてもらいたいの。必要なら今の署の刑事課と兼任でも構わないけど」
「上司と相談しますが、一時出向で大丈夫かと……あの、家庭の事情で出来れば火曜日は定時で上がらせてもらえれば。もちろん緊急時は別で」
「OK。じゃ、そっちの上に話通しとくわね」
 人は空を飛べない。組織の人間である以上方針には従う。
 なのに、かつて警察の仕事を教わった「恩人」土蜘蛛の逮捕がどうしても納得がいかなくて、ここに来た。
(やっぱり間違えただろうか)
 飛ぶ前に氷を踏み外して溺れた鳥になった気分だった。



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テーマ : ミステリ
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