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空など飛べないと刑事は言った 1-4

「ご主人様にお仕えする前からの知り合いですから」
「ああ」
 この少年の父親は、矢辻若の友人だったという話だった。
「ますますたまらないな」
 まあいい。自分と矢辻若のような大物が同席することはない。
「……さすがですな。よくああいう男から『恨んでいるかもしれない人間』を聞き出せるもんです」
「的を射ているかはわからないがな。で、これからどうすればいいと思うかな、鳳羽君?」
「まずは全員に当たってみるしかないでしょう」
 自分が思っていたのと同じ返事。かえって気に入らない。
「ところで頓田様は、警察内には真犯人はないとの読みですか」
「当たり前だ」
 土蜘蛛が上げた名前の中には、警察時代の者は居なかった。
 警察にも彼に我慢ならなかった人間は居るに決まっている。山のように。
 けれど彼らは殺人の濡れ衣など着せない。根こそぎ調べ抜き、科学力を極める捜査の実態を知っていたら、恐ろしくて出来ない。
 リュンは表情なく頷いて、言葉を続けなかった。
 素人の子どもだから仕方がないが、不愉快ではある。
 自分たちの組織、警察を信用出来ないのならー百歩譲って「喜屋武警視のメイド」なるものを認めるとしてもー家で料理を作ったり掃除をしたりしていればばいい。
 何であの格好で庁舎に出入りする?


 取調室から二つ上の階の会議室で、妹亜は捜査本部の山浦《やまうら》警視と話した。
 頓田よりまた十ほど年上の、やたら髪がぺたりと張り付いて頭頂の尖りがよく見える男だ。
「資料ならそっちに送っただろ」
 人の捜査引っかき回しやがって、とでかでかと顔に書いてあるが、妹亜は取り合わずにっこりと笑った。
「不愉快なのはわかりますが、こちらも仕事ですから。まず、動機はあすみちゃんたち子どもの声がうるさかったから、というもので変わりはないですか」
 山浦は肯定した。
 土蜘蛛は変わらず否認しているが、
「昔うちで一緒に仕事した奴からも、土蜘蛛は神経質で、作業中近くでちょっと話し声がしただけで怒鳴り散らしたとの証言が取れている。今回も頭がブチ切れたんだろう」
「なぜあすみちゃんを。他にも公園常連の子は居たでしょう」
「狙いやすかったからだ」
 あの公園では、普段六時のチャイムを合図に子どもたちは帰宅する。被害者を除いてだ。近所のスーパーでレジ係をしている母親が、六時に上がり、公園に寄るからだ。小学生の姉と一緒に母親を待つのだが、木曜日だけは姉が英語教室に行くため一人になる。
「……こういうことを知っているのは現地の事情に詳しい、つまり近所の人間だという証拠だろう」
「土蜘蛛は公園の子どもの出入りを気にするタイプの人間でしたか?」
 山浦は返事をしなかった。
「それと、殺害現場の公園トイレから発見場所への遺体の移動には、何を使ったか判明していますか」
「いや」
「土蜘蛛の車は調べたんでしょ?」
「一応。だが当日、車は女房が仕事場の編み物教室に持って行っていて、あいつには使えなかった」
「じゃあ何を使ったんです。まさか頭血まみれの女の子を抱いて歩いた訳じゃないでしょう?」
「だから今、いくつか当たってるところだ」
 頭の悪い女だと言う目で山浦が見た。
「物証となった繊維片は、すぐに警備会社制服のものだと割り出せるほど特殊な糸だったんですか?」
「あれは銀糸。銀の糸だ。うちの制服にもあるようなここのワッペン、その刺繍に使われている」
 ぼそっと肩を叩く。
「銀糸ならわりと珍しいんでしょうか」
「多少特定はしやすい、程度だ」
「で、それが東帝の制服の中でも土蜘蛛の物だって鑑定は出ているんですか」
「押収した土蜘蛛の制服のワッペンには、引っかいたようなささくれはあった。ガイシャから検出された繊維片と、容疑者の制服の糸が全く同一のものかは鑑定出来なかった」
「じゃあ他の警備員の制服からという可能性はあるわけですね」
「近所には土蜘蛛以外、東帝セキュリティの従業員はいない」
「では他の服からという可能性は? その銀糸は東帝のワッペンにしか使われていない訳じゃないんでしょう?」
「んな訳ないだろう。手配の最中だ」
 簡単に言うが、一種類の糸が、どのメーカーのどの服に使用されているか追跡するのがどれだけ大変かわかっているのか、と頬をふくらます。妹亜は再びただにっこりと笑った。
「結果を期待してますね。それから、その銀糸の繊維片はあすみちゃんの手の爪から出たんですか」
「知らん。こちらも忙しい。そろそろいいだろう」
 半分向けた背中に声をかけた。
「そうですか。爪から出たんではないんですね」
 黒革靴の足が止まる。
「被害者の爪は、皮膚片を始め重要な証拠が出やすい箇所です。調べないはずないですよね。山浦さんなら、出ていればそう言ってくださるでしょう」
 ぼんと向き直ると妹亜を一瞥する。
「ガイシャの爪からは何も出とらんよ」
 銀糸の繊維片はシャツに付着していたと明かす。
「一つ教えようか、喜屋武警視。被害者の服から取れた繊維片は二片。双方同じ銀糸で、念入りに水で洗った跡があった。水道水と思われる水でだ」
「水で……」
 呟いた妹亜に、
「あまり手間かけさせるな」
 と言い捨てて山浦は部屋を出て行った。
「あ!」
 立ちつくしていた妹亜は、やがてチッと指を鳴らした。
「ちきしょー! その場でわかったら、もっとあのおやじから引き出せたかもしれないのに!」



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