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空など飛べないと刑事は言った 1-5

「どういう意味だと思う?」
 捜査相談室に戻った頓田たちに、妹亜が捜査本部での話を伝える。
「制服は水洗いしませんよね」
 また気に入らない。
 リュンと声を合わせて同じ主張をする羽目になったからだ。
「普通、ドライクリーニングに出すのではないか、と」
「警察のだってそうじゃないですかい?」
 構わず妹亜はパチリと手を鳴らす。
「そっかー! 自分につながる手がかりを消そうとしたのかなー、とはわたしも思ったけど。後からだけどね。クリーニングまでは気付かなかったな」
「山浦様たちも、本心では土蜘蛛以外の犯人の可能性を、捨ててないってことじゃないでしょうか」
 紅茶の香りがわずかに鼻腔をかすめる。
 お茶の準備が手早いのは良いが、メイド服に素早く着替えたのは余計ー横目でリュンを見ながら頓田は思う。それはともかく。
 捜査本部も、土蜘蛛は犯人ではない可能性を考えていた。
(違う!)
 逮捕の後でそれに気付いたのだ。
(まずいな)
 本部は密かに捜査を軌道修正している最中だ。捜査相談室《ここ》に駆け込んでしまった自分は、思った以上に厄介で複雑な存在、かもしれない。
 かなり気分が重い。
 土蜘蛛のことより先にそちらを考えてしまう自分は、その程度の人間ということだ。自嘲も悲嘆もなく、ただの事実として頓田は認める。
「さすがですね! 頓田さん。あなたが思った通りかもしれない」
 リュンと似た世辞を言う妹亜に、愛想笑いの一つも出来なかったことには自己嫌悪。それでも習い性で今後の計画を練り、妹亜に諮る。
「いいんですか?! 北は秋田、南は福岡まで散らばっているんですが」
 呆れたことに妹亜は、土蜘蛛が名前を出した各人に当たる計画に、あっさりとOKを出した。
「うち仕事なかったから予算余ってるの。ぱーっと行って来てね」
 もの悲しい部署だ。
 ともあれ出張計画書を妹亜に提出し、頓田は早々と家に帰った。
(しばらく出歩くから、「夢」も見に行けないな)


「あ、このサラダおいしい!」
「黒酢と胡麻油のドレッシングです」
 妹亜の自宅のダイニングがよく整頓されているのは、リュンの職務能力の証明だ。なぜなら住人当人はあたりに物を投げ出すや否や、それを忘れる才能があるからだ。
「後は納豆があれば完璧なんだけど」
「お断りします。俺は納豆と機銃掃射だけは勘弁なんでね」
 妹亜が満足そうに食べ進めるのを眺め、斜め前の席でリュンも箸に手をつける。
「……久々の客だったのになあ」
「頓田様に何か問題が? 真面目そうな方じゃないですかい」
 女学生のように真面目ーとリュンは値踏みしていた。
 太平洋戦争中に勤労動員に行ったり、戦後地方から集団就職するような、歴史の遺物レベルというイメージだ。
 努力して警部補にまでなった普通の刑事。自分や妹亜とは正反対で、好きになれるタイプではない。
(ご主人様は見失ってるだけだが、俺には、最初から何もないしな)
 ーただ砂漠の夢ばかり見る。
(だが、あのオヤジ……)
「だけど、ただのオヤジ」
「……当たり前でしょう。どんな依頼者が来るのを期待してたんですかい?」
「小動物系ナイスミドル」
「何ですか、それ?」
「リス」
「はあ」
「それかハムスター。キュートで、しかも渋いイイ男なの」
「それは希少、というより存在自体に無理があるようなー」
「そんなことないって。トニー・レオンでしょ? ジャッキー・チュンにアン・ソンギ!」
「韓国の芸能人は知りませんな」
「香港。最初の二人はね」
「ジャッキー・『チェン』なら知ってますが」
「うーーーーーーーーーん?」
 一分近くうなった挙げ句に妹亜は指を鳴らした。
「ギリギリ許容範囲!」
 メイド服の肩をこれまた大げさに落とす。
 そう、これは全て芝居。
「仕方ないか。そんな上物、警察《うち》に転がってる訳ないもんねー!」


 夕食後のお茶までがメイドの仕事だ。
「……どう思う」
 ソファーに移った妹亜の注文に従い、五年前のダージリン・ファーストフラッシュをカップに注ぐ。妹亜が人から貰ったまま仕舞い込んでいた代物だ。香りが命の紅茶、貯蔵は勿論間違いである。
「一本足りませんな」
「動機がってこと? 土蜘蛛さんじゃなければ誰が、どんな理由でって?」
「他もです。 第一、普通犯人が自分の家の庭に遺体は転がさないでしょう」
「それぐらいはわたしも思ったって。隠す暇がなかった、って始め捜査本部は考えてたみたいだけど。マスコミとかでも突っ込まれてるんじゃないの?」
 知りませんが、と二杯目を注ぐ。
 本当は、ネットでは多少叩かれているのを知っている。だが警察の仕事とはいつも世間に叩かれるもの。この程度は許容範囲と判断中だ。
「この事件、肝心な糸がまだまだ表に出てきてないって感じがします。俺はね」


 夕飯の片付けを全て済ませると、バニエでふっくらと広がったスカートを優雅に持ち上げる。どんなメイド喫茶の女よりも完璧、なつもりで。
「ご主人様。本日は下らせていただきます……てどうして後ろに回ってるんです!」
「これよこれ!」
 理由はわかっている。
「セクハラですな」
「見せパンだからセクハラじゃないし! とにかく、黒いスカートと白いレースの向こうに『コレ』が見えることに意義があるの!」
 スカートの奥には生成り色のアンダーウェアが見える、だけの筈。くしゅくしゅっとした提灯形のそれの下、筋肉質で毛だらけの自分の足があることの何が面白いのか。
(人の好みに文句を付けるのは、悪い趣味か)
「というわけでー。今回も期待してるわよ、名探偵君!」
「止めた方がいいですぜ。期待とは、しゃぼん玉のようなものです」
 いつものセリフの応酬。妹亜は目を細めてにこにこしたまま。
「おやすみなさいませ」

 マンションの外廊下、すぐ隣のドア。
 妹亜と同じ間取りの隣室一室が、与えられたリュンの自宅だ。
(……ご主人様は、俺が探偵ごっこを好きだと思ってんだよな)
 事件なんぞ、解決しようがしなかろうがどうでもいい。
 どうせ殺された人間は戻ってこない。
 ー最初は一発。
 続いては何発だったか。
 背中のファスナーを開くと、レースのエプロンと黒いワンピースがさらりと足元に落ちる。
(道化だな)
 唇を歪める。
 胸元に大きくレースのあしらわれた白いシャツの下、青いトランクスから毛ずねをさらして、リュンはベッドの脇にしばらく立ち尽した。
(『男めいど』って存在自体、ギャグだからな)


 この日の午後、「第三」の犯行が決行されていた。



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テーマ : ミステリ
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