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ピンクのイルカが夢を見た 1-7

 羽美子は白雪寮の談話室前まで来てから、足を止めて動かなくなった。
「もう止めようよ……」
 つぶやいたのに梨々香はくっと眉を上げたが慶は違った。
「羽美ちゃん。羽美ちゃんはもう引いてもいいよ」
(桐生)
 当たりのいい優しい声に笑み。慶がもてるわけだと納得してから、そっと首を振る。
「推薦のこともあるよね。ごめんな」

 生徒の九割は学院の大学にエスカレーター進学する。成績と素行によって選べる学科が決まるため、三年になってから回りが教師の評価にぴりぴりし出したのに有人は気付いていた。成績はいくら悪くても―噂では足し算引き算が出来なくても―進学出来るが、素行が原因で推薦がされないことはままあるという。吉沢が有人を恫喝したのもここだ。
「わかってる。僕の立場で出来ることは限られてる。男は黙って合理的に行動するべきで必要なのは結果を出すことじゃん? 頑張るだけ頑張って、ひとりで満足する頭筋肉系の発想は僕は好きじゃない。人間頭を使わなくなったら終わりだって! 学校で先生に楯突いたって、いいことないし意味もないのもよ~くわかってる。なんだけどさ。どうにもならないな、今度だけは」
 まつみを探さずにはいられない―笑みを残したまま深く息を吐いた。
「僕は探すからさ。見つかったら真っ先に羽美ちゃんに知らせるよ!」
「それはないよお……」
 羽美子は泣きそうな目をする。
(羽美ちゃんも、親友を見捨てられないんだね)
 まつみを探してくれ―慶の叫びに先生たちは応じなかった。彼らが調べたことについて一応まつみの親に連絡するが、二度と学外で活動しないように―厳命の上解放されただけだった。

 今日の成果はただ一つ。
 あの日の七時過ぎ、学校から一つ海側の駅で、まつみらしい制服の少女がモノレールに乗り込んだのを車掌が見た―とまつみの両親に連絡があったことを中川が教えてくれた。
 最寄り駅を避けたのだろうか。三十分ほどで歩ける距離だから、七時過ぎなら有人が見てからの時間ともちょうど合う。生徒の八割は上り終点でJRに乗りかえるため、その時間の下り海側なら他の生徒と顔を合わせる確率はひどく少ない。
 それは彼女が自分の意思で姿を消したことへの傍証にしかならなかった。

(まつみ。君はそんなにまでして、どこへ行かなくてはならなかったんだ?)
 駅から海側へ下る雑木林脇の寂しい道を思い出し、ぞっとする。
 あの子は今、苦しんでいる。まず間違いない。なのになぜ助けようとしない?
 中学の時、同級生がヤクザがらみの男にひっかかって学校に来なくなった。先生たちと警察の人が総出で彼女を探し、連れ戻した。その子はひどい目にあったらしく結局転校し、有人は詳しいことは知らない。だがあの時先生たちがどれだけ真剣だったか、どれほど心配していたかはよく覚えている。
 大人は子どもを守るものだと有人は信じている。実際自分の母も、何もかも投げ出して自分を助けてくれた。父も「きっと」そうするだろう。
 もっとも利害が対立すれば子どもを助けないこともある。大人にはビジネスというものがある。仕方がない。
 だが生徒を守ることは先生のビジネスそのものはずだ。
 なのにどうして学校は何もしない? 名門校の体面? そんなものとまつみを引き換えに出来るものか!!

「違うな」
 結局入った談話室内で、慶は首を落したまま、だがあっさりと言った。
「私立の学校の先生の仕事は、学校の評判を維持することだよ」
 評価の高い学校にはレベルの高い受験生が集まり、ますます教育内容が充実する。
「僕らもその恩恵を受けてる。学校経営はまずは学費を集めなきゃ始まらない。だから、学院からしたらまつみのしたことは最低ってこと」
 学院の売りの一つは寮生活だ。だからこそ在学中に必ず寮に入ることが義務づけられている。その看板の寮から女子生徒がいなくなればかなりのダメージだ。
「『有人』、向こうには向こうの事情ってもんがあるんだって」
 初めて名前で呼ばれてはっと見上げる。にこやかに笑んだ慶の眉は神経質に寄せられていた。
「うちは親が経営側で、僕たちには見せたくないみたいだけど、それでも苦労は見えるからさ……あ、僕は継がないけど。兄貴いるから」
 慶の親は小さな建設会社を経営していると聞いた。
「わかるけど、だけどよ……」
 理屈はわかるが。
「先輩だって、さっき先生に向かって言ったじゃないですか!」
 突如梨々香が慶の前に立ちふさがった。うん、と慶は弱くうなずく。
「出来る範囲でいいから、それでも先生たちには動いて欲しかったんだ」
 目を伏せる。
「僕たちと先生の出来ることって全然違うじゃん? だから損得じゃなくて、あいつのことを考えて動いてくれたらって……」
(『慶』)
「とりあえず、僕たちが知ったことを伝えることは出来た……」
「そうだねぇ」
 羽美子も白うさぎにしては厳しい顔だった。左右の髪を軽く振りながら言う。
「これ以上あたしたち、何をすればいいって言うのぉ? 普段あの子が行ってたとこは行き尽くしちゃったよ。まつみってあんまり歩き回らない子だし……」
 慶と羽美子は学校近くの店回りをこなしていた。ショッピングセンターの文房具屋などでまつみの写真を見せて事情を話し、姿を見せなかったかどうか尋ねたが全滅だったという。
 教師たちの反応については有人はとうてい納得出来ない。だが今はまつみのことだ。腕を組んで談話室の壁に寄り掛かる。
「手がかりはやっぱイルカかな。梨々香ちゃんが言ったように」
 スツールに座った梨々香がびくっと肩を揺らした。
「山野って人からの電話は、どう考えてもおかしかった。オレたちは西田さんに伝言を頼んだだけだろ? それをあんなに怒りまくるなんて……直接関係してるかはともかく、何か、ある」
 『イルカみたいに泳ぎたい』―とはどういう意味か。
 イルカにあこがれて? どこへ向かい、今何をしているのか。
 夕食時間が近づき、慶と羽美子が速やかに寮を出て行く。どうしていいのかわからないのは有人も同じだった。


 エジプトの女王はそうではなかった。
 翌日、彼女はメールで三人を放課後の談話室に集めた。顔には疲れの色が濃い慶がそれでも明るく言った。
「忘れないうちに言っとくよ! 兄貴に聞いたんだけど、前に梨々果ちゃんが言ってた話! やっぱ派遣の会社で募集が出てないの変だってさ」
 梨々果は顎でうなずいた。
「私調べたんですけど……ピュアドルフィンは、七大洋国際環境センターが運営しているって噂があります」
「何それ?」
「環境運動のグループ。でも、違うんです。ただそうじゃなくて」
 英語サイトからたどり、いくつかの掲示板も渡り歩いて見つけた情報で、
「かなり確実性は強いです。ピュアドルフィンも七大洋も、『人魚の涙』《マーメイドティアーズ》がバックにあります」
「マーメイドティアーズ?!」
 嘘だあっ! と騒ぎたてる慶と羽美子。梨々果は少し得意げにサイトの打ち出しをひらりと置く。
「講演会、あるんです。……潜入するつもりでした」
 少し遅れて。
「マーメイドティアーズって、何?」
 有人は一人つぶやいた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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