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空など飛べないと刑事は言った 2-1


<第三の犯行>
 高原の陽《ひ》は七月の午後と言えどもどこかやわらかい。
 ーアイスクリームを食べたい。
 軽い汗を感じながらフランボアは思い続けた。
 観光客が行き交う駅前から徒歩十五分。脇道から山に入ると、砂利道の左右はあたり一面の草っ原となる。背の高い細い葉に、ブタクサのような切れ込みのある葉と様々な名前も知らない草たち。黄色い小さな花のついた茎も風に小さく揺れている。
 降りた最寄りの駅は、それなりに有名なリゾート地。短大の時、クラスメートが遊びに行ったと言っていたのを思い出した。あの頃、前途は希望に溢れていると思っていたのにーフランボアは表情を険しくした。
 あいつさえいなければ。あれさえなければ、あたしは今も東京で楽しくやっていた。
 草むらの中に分け入る。包んでくる草と土の匂い。繁みの奥に身を隠し、ポケットの中、手袋をはめた手でタオルを握り道を窺う
 明るい話し声がして人が通っていく。違う。あれはターゲットにはならない。
 足音が消えると、葉擦れと風の音だけがまた響く。
 鼻を覆う草いきれ。長袖シャツの両肘をそれぞれの手のひらで覆う。恐い。
 緑の世界に、ただ一人取り残されたようだ。
 ターゲットはまだだろうか。指定の時間が過ぎる前に成功させなくてはならないのに。

 駅前にはお決まりの土産物屋はもちろん、雑貨ブティックやカフェなども並んでいた。そこにフランボアは、大好きなイタリアンジェラートの店を見つけたのだ。
 東京にいた頃はよく通ったが、今住んでいる街には店がない。アメリカ系は大味過ぎで、ドイツ系は濃厚過ぎる。フランボアは軽くさっぱりとしたイタリアンジェラートが大好物なのだ。
 これが終わったら、帰り必ずあそこに寄ろう! 
 マカデミアナッツ、それともアーモンド。チョコも良いが、やはり野いちごのフランボアが一番だ! 
 早く食べたいな!
 さらさらさら。
 声はせず、気配だけがした。
 繁みの奥から大回りして道に出る。角を曲がってターゲットの背中を追った。
「済みません」
 紺の鞄を持った大きな衿のセーラー服。少女が振り向く。少し驚いているようだ。
 慌てて言葉を繋ぐ。
「あの、石仏博物館はどこでしょうか」
「石仏博物館? ですか?」
 肩までの黒い髪。明るい目。楽しかったあの頃。
「村立の、庚申塔とか石仏とかをコレクションしてるっていう……」
 少女は破顔した。
「ああ『倉庫』のことですね! この先をまっすぐ……」
 背を向けたのを逃さず首にタオルを巻いた。交差させ直ぐに容赦なく絞める。
「っっっ………!」
 タオルを握ったまま後退して繁みに連れ込む。
「んん………っっ!……」
 少女は右に左に体を振って思いっきり暴れた。振り回されて止まれない。
 どうしよう、どうしよう。
 心中の自分の言葉に恐怖を煽られる。少女を体当たりで地に倒し、のしかかった!
(……少しはおとなしくしろ、ってのよ……)
 腕に力。力。力。
 少女は手で首のタオルを外そうともがき、フランボアを振り切ろうと大きく身をよじる。
「あっ!」
 蹴り上げられて腕が弛む。少女が振り向きー
「っっ!」
 タオルを持ったまま地面に首を打ち付けた。二度、三度。再びタオルを絞め直す。
(っっ!)
 ごつりとした背中の骨が、フランボアの膝下で複雑に動く。
 嫌、嫌っ!
 少女は海老反りに身を起そうとする。
 顔を横に振って草をよけ、タオルに力を込め続ける。
 息が切れる。こんな筈じゃない。もっと簡単だと。
 腕がぷるぷると震え、とうとう限界を悟る。
(あたし、やっぱり人なんか殺せないかもしれない)
 思った時、少女の動きが止まった。
 それでもしばらくフランボアは、弱く少女の首を絞め続けた。
 細く鋭い葉の上をテントウムシが這っていく。風が頬を撫でる。
 気がつくと、少女は動かないまましばらく経っていた。
 ぐい。
 横にした頭は重かった。鼻の上に手をかざす。息はない。
 その時初めて少女の形相にフランボアは気付いた。少し前とはうって変わった醜さ。鼻から垂れているのは血かそれとも……
 ばしっっ! 
 死体の顔を地面に伏せ、フランボアは再度力の限界までその首を締めた。


 立ち去る前に、注意深くあたりを見回す。何も落としていない。怪我もしていない。

『血は重要な証拠になる。切らないように長袖で行った方がいい』
『髪はなるだけ落とすな。ピンで留めて、帽子の中にでも入れておけ』

 仲間たちが教えてくれた。頼りがいのある味方だ。
 だが、こんな気持ちを彼らはー
(ううん)
 首を横に振る。月音とがぶがぶはもう経験している。シュミットや百太《ももた》も間もなくだ。
 仲間のためにも、あたしはこれを成功させる!
 草むらの奥を回り別の側の道路を覗く。人影はない。
 道に出てから服装をチェック。汚れは叩き済み、血も付いていない。坂を下りながら手袋を外し、シャツを脱いでキャミソール姿になる。下り切って駅前通りにたどり着くまで、誰にも姿を見られることはなかった。
(大丈夫。あたしは冷静だ)
 何食わぬ顔で駅に近付く。券販機前で、別の白いコットンの手袋をはめる。

『事件があると、警察は切符を回収して指紋を調べることがある』

 大丈夫。指紋なんか残さない。
 あたしは冷静。皆のアドバイスをちゃんと覚えている。
 あたしは冷静。あたしは冷静。
 繰り返しながら、フランボアは客いっぱいのジェラート店の前を素通りした。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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