TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 2-4TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 2-4

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 2-4

 ー多数派は、多数派であることに気が付かない。
 学生時代の友人の言葉が思いがけず頓田の脳裏に蘇った。

 頓田はずっと多数派だった。
 ヨット留学のために転校していった同級生のような特別なことはなく、普通の中学生活を送り、地域の公立高校へ進学。(余談だが、あの彼は今はどうしているのだろう。ジュニアの大会に入賞しているのは新聞で見たが、その後名前を見ない)
 男子の殆どが進学する高校から、大学に進んだ。
 始めは高校でやっていた卓球を続けるつもりだった。だが体育会に入る学生は少数派で、そこまでの人間ではない、と頓田はスポーツサークルに入った。
 規律があり厳しい体育会の方が自分向きだ、と気付いてはいたのだが。
 大学を卒業し、回りと同様に就職。
 前述の友人と会ったのは警察二年目、ようやく研修から交番への本配属になって、土蜘蛛の下でおろおろしていた頃だった。今では連絡が取れなくなった友人は、当時大学院に居た。

「この年で学生だと言うと『へっ?』という顔をされる」

 見下すような、困ったものを見たような反応に、初めて自分が少数派になったと悟るーこぼした友人に考えすぎでは、と返したように思う。
 だが今、わかる気がする。
 出張から帰って来てすぐ、昔の署での先輩が連絡してきた。
 居酒屋で会うと、彼は、「捜査相談室」に居るとはどういうことか?! と勢い良く尋ねた。
 誰かの差し金で、頓田が警察「組織」にふさわしいか問題が生じたか探りに来た、と思った。土蜘蛛が、自分がスパイに来たと思ったのと同じだ。そう思い当たった時は苦笑したが。

「捜査本部とモメるような流れにはならないですよ、今回は」

 土蜘蛛の無実が立証される可能性は少なくはない。問題は、誤認逮捕について誰が責任を取るか、どこまで詰腹を切らせるかとの水面下の大騒動だ。
 面倒なところに、もっと面倒なところから飛び込んだのが自分だ。
(……)
 後悔している、などと認めたくはない。頓田は、安心してください、と穏やかに言うことに終始した。

 ーだが本当にそうか。今回初めて、頓田は道を踏み外したのだろうか。
 違う。少数派に「転落」したのはあの時からだ。
 「夢」を、見始めた時から。
 だがあれは、現実の仕事や生活に影響することなどない、別の世界だった筈。
 人間が空を飛ぶような。馬鹿げた、けれど美しいー


 人に会い、話を聞く。刑事の仕事はいつも同じだ。違うのは飛行機や新幹線を駆使して聞き込みに行けること。エリートに付くとはこういうことかと思う。
 とはいえ久々の遠出は楽しく、妹亜に土産のクッキーを渡すと頓田は素直に感謝を述べた。
「夏は北国も南国も良いものですなあ」
「ふうん。そうなんだ」
 気のない返事が返ってくる。
「……喜屋武警視は沖縄の方ですか?」
「祖父がね」
 より詰まらなそうな声だ。
「名前がこうだから皆に言われるけど、わたしは行ったことないんだ。バリとかグアムとか南の島は好きなんだけどねー、自分のルーツっていうと重い感じで、足を踏み入れる気がしなくて」
(困ったお嬢さんだな)
 夏休みに入り常駐となったリュンが、すましてコーヒーを運んでくる。
 妹亜は器用に包紙を開きクッキーをほおばりながら頓田の報告を聞く。
「頓田さんが気になったっていうのは、秋田の警備員と福岡のフリーターの二人?」
「ちょっと引っかかった、ぐらいですが」
 二人とも二十代の女性で、警備員は元同僚。万引きを警戒して話を聞いた客が、実は土蜘蛛と仲の良い出入り業者だったことから争いになり、結局退社に追い込まれた。
 フリーターは、学生時代にアルバイト先の従業員受付で、土蜘蛛が携帯の番号を書かせたことがストーカーの原因となり、やはりその後の勤務先を退社し郷里に帰っている。
 どちらの件も、土蜘蛛が自分の気分で勤務先のルールを無視したことが遠因だった。
(変わってなさ過ぎる)
 心中ため息。
「ただ二人とも事件当日はアリバイがあります」
 警備員は近所の友人宅で話し込み、フリーターは母親と買物をしていた、との主張が事実ならば。
「OK! 県警にはわたしから連絡しておく」
 簡単に身柄を洗うよう頼むとのこと。頓田は丁寧に頭を下げた。
「お願いします。他に手がかりもありませんし、地道に固めていくことが必要だと思います」
「ところがね」
 妹亜はやたらうれしそうに説明を始めた。

 
「……お待たせしました。捜査相談室長、喜屋武です」
 交換が外線を回してきた。頓田は出張中、当然唯一の職員妹亜が電話を取る。傍らでリュンは棚にハタキをかける。
『「流通繁栄新聞」の日野《ひの》と言います』
「お世話になっております」
『あー、今そちらの捜査相談室ではどんな事件を扱っているんでしょうかねえ』
「取材ですか? でしたら広報課を通していただくことになっていますがー」
『ちょっとだけだからいいじゃないですか。二、三、最近の事件で話せるものはありませんかねえ』
「申し訳ありませんが、広報を通してからでないとお話出来ないことになっているんです」
『そんな堅いこと言わないで、ねっ? やはり大きい事件からー』
 ごほごほっ! どん、がたがたん!
 妹亜は大げさな咳をした、拍子に受話器が机に落ち、書類の上を滑ってぶらんと空に下った。余りのわざとらしさに、リュンが冷たい視線を流す。それでも綺麗にスカートの裾をさばいてひざまずき、受話器を手渡してくれた。
 目で礼を言うと、妹亜は電話の相手に受話器を落としたと詫びて愛想よく続けた。
「どういった企画なんでしょうか?」
 電話の下部で黄色いランプが点灯している。咳き込んだのは、録音ボタンを押すごく小さな音を気付かれない為だ。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。