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空など飛べないと刑事は言った 2-5

『まあちょっとしたコラムでしてね』
 奇妙な男の声がスピーカーから流れる。録音だけでなく外部へも音声を流したのだ。
 ハタキを持ったリュンが仁王立ちで電話を凝視する。
「広報に見本紙を一部届けてくださいませんか? それに企画書をつけて。意図を説明していだたければ、広報からご連絡出来ますよ」
『いやー、そんな大げさなことじゃないんですよ。ちょっと活躍ぶりを知りたいだけでしてね。事件を再検討しての捜査って、いったいどんな風にするんですかね』
 取材は広報を通せの一本槍で妹亜は話を引き延ばし、三分程の録音が残った。


「おかしいですね」
 頓田はその後続ける言葉に迷った。
 「品のないジャーナリスト」を下手に演じているーを仕事場にふさわしく表現するには?
「変成器、使ってますよね」
 代わりに言った。やたらと馴れ馴れしい男の声は、あからさまに不自然だった。警察にこんな電話をするなど異様だ。そもそも男がどうかすらわからない。
「それも安っぽいのをね」
 幾つ目かのクッキーの袋を開けながら妹亜がうなずく。
「おかしいじゃない? 報道関係の人なら、取材は広報を通すもの、なんて知ってるはずでしょ? 特に警察はそれが厳しいって」
 その通りだ。
「……それにこの『男』は、本当には取材が目的でないように、わたしには思えました。あんないい加減な話し方では、まとまる話もまとまりません。実際わたしが聞いた限りでは、奴は何一つ情報を持っていっていないように思います」
「じゃあ目的は?」
 と頓田をパソコンのモニター前に誘う。
「電話を切ってから調べてみたんだけど」
 画面には流通繁栄新聞のサイトが出ていた。
 都心のビル街の写真が一面に出ている。細目は「流通繁栄新聞のポリシー」「ただ今のトピックス」「会社概要」の三つだけ。写真が多く、文字は少ない。
「簡単なサイトですね」
 妹亜の視線が少し冷たくなったのがわかった。申し訳肩を縮める。
「真っ当な新聞じゃないってことわからない? 新聞って、読者に購読してもらって初めて商売になるでしょ。ところがね、ここには申し込み方法も値段も出てないのよ」
 そう言えば……
「連絡先は会社概要の一覧表の下に地味~! に出てるだけ」
「読まれなくてもいい新聞……」
 はっと顔を上げると、妹亜は立ったままうなずいた。
「マルボウに行って聞いたら、やっぱりそうだった」
 暴力団担当の刑事は、流通繁栄新聞が真留留《まるる》組の配下だと認めた。
 彼らが報道媒体を持つ目的は、
「お前の社のスキャンダルを新聞に載せる」
 など企業を脅し、見返りに高い購読料で新聞を買わせること。闇社会と企業を結ぶ、いわゆるブラックジャーナリズムの典型である。
「真留留組の名前は、最近なら『麗篭《れいろう》アミューズメント専務夫人刺殺事件』で上がってきてる」
 少女めいたきらきらとした目に、押されるようにうなずいた。

 六月の末の朝、麗篭アミューズメントの専務夫人は、夫の車での出勤を見送った直後に刺殺された。
 専務は以前、真留留組系の総会屋と会社の縁を切るというプロジェクトをやり遂げていた。犯人としてすぐに大学生が逮捕され、犯行を否認したまま起訴されている。今のところ大学生と裏社会の接点は発見されていない。捜査陣は何らかの理由で犯人に犯行を強制した勢力があると見て、背後関係を探っているー妹亜の話は、頓田が報道で知ったのと同程度だった。
「ここからが本筋! 今回の少女殺害事件と専務夫人殺害事件は関係があるとしたら?」
「はあっ?」
 得意そうに机に寄りかかる妹亜を、遠慮無く口を開けて見上げた。
「捜査相談室が最近扱ったのはただ一つ、あすみちゃん事件だけ」
 ついこの間まで開店休業、暇を持て余していた捜査相談室。外部と接触したのは、土蜘蛛を恨んでいる可能性のある計五人への聞き込みのみだ。
「その捜査相談室《うち》に、専務夫人事件と絡んでる筋の新聞から探りが入ったんなら、五人のうちの誰かが、そちらの事件とも何らかの形でつながっている、ということも考えられるでしょ?」
 と、突然リュンが口を出した。
「土蜘蛛は犯行を否定しているも物証の銀糸があります。ご存知のように、動機も今一あやふやです。一方、専務夫人殺害事件でも容疑者の大学生は犯行を否定してます。ろくに動機もねえ。だがこっちも物証はある」
 犯行前に犯人が控えていたと思われる神社の入り口に、彼の手袋が落ちていた。
「アリバイはなし。というか家で寝てたって主張なんだけど、敷地内の別棟暮らしだから誰も確認出来ないのね……似てると思わない?」
 替わって妹亜が言う。
 物証あり、動機あいまい、犯行否認でアリバイなし。
「もしかしたら、『交換殺人』」
 頓田はあんぐりと口を開け放した。
 やっとの思いで奈落から這い上がり上司に意見するまで、相当な時間が必要だった。
「……あのですね。警視。小説や漫画の中ならともかく、現実には交換殺人というのはまず起こりません。なぜならー」
「なぜなら?」
 小首の傾げ方が可愛らしいのは困ったものだ。
「交換殺人を行う利点は、被害者と加害者に全く接点がないことです。ですが喜屋武警視、そう簡単に殺しの話なんぞ人に持ちかけられると思いますか? よほど濃密な人間関係がないと不可能です。すると今度は『縁』の捜査でリストに上がる。ですから、交換なんて無意味なんです。わかりますか?」
「うーん。駄目かあ……。めいど~?」
 素直に肩を落すとリュンに目を遣る。
(いちいち仕事の話を高校生に聞かないでください)
 と上官に言えるわけもなくじっと手を握る。
 ようやく気付いた。「交換殺人説」はリュンのアイデアだ。高校生が好きそうなファンタジー、と言えばそうだがー頭が痛い。
「いや可能性はあります。マッシー様がらみの方面です。連絡してもよろしいですか」
(何だその方面は)
 探偵ごっこではないのだから、絵空事で時間を潰したくない。
 リュンが携帯でメールを打っている間に妹亜が続けた。
「わたし、後から『流通繁栄新聞』にかけなおしてみたんだけど」
 電話の相手は連絡先を言わなかった。そのためサイトにあった番号へ、警察とは言わず個人名でかけた。すると「日野」などという記者はいないと言う。
「はっ?」
「マルボウでも、その名前の記者は確認できないって」
 もっともこの新聞は、高い給料を条件に地方から記者をスカウトし、二、三ヶ月で逃げられることの繰り返しなので、警察でも全員を把握してるわけではないとは言う。
「流通繁栄新聞を騙った可能性もあるってことですか」
「そう。記者じゃなかったから、警察の取材は広報を通すのが必須だって、知らなかったのかもしれないし……。真っ当に社会人をやってれば、『お世話になっております』には同じように返すのがマナーだって知ってるでしょ。ところがあの電話は、返さずにすぐ用件に入っている。それも気になって、録音をかけたんだけどね」
「そんなに常識なんですかい? 『お世話になっております』ってのは」
「頓田さん、教えて上げて」
(高校生なら、知らなくても当然だな)
 いかに常套の挨拶文句であるかリュンに説明すると、訓令を拝聴するように大げさに聞いている。
(……ならば自称「日野」は、ろくに社会人経験がない、もしくはその手の常識が必要がない立場、ってことか?)
 本物の記者だろうとなかろうと、『流通繁栄新聞』が自分たちの前に現れたことには変わりない、と妹亜は言った。
「本部の山浦さんにも話は通したけど、向こうはあんまり興味ないみたい。チャンスよ!」
 気が付くと、いつの間に菓子箱は空だった。妹亜とリュンが盛んに手を伸ばしていたのは知っていたが。
(やられた)
 仕方がない。自分用に買わずおすそ分けなど期待した方が悪い。
 頓田は黙って麗篭アミューズメント専務夫人事件の資料に目を落とした。
 まぶたの裏、美しい「夢」の幻想が流れるー



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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