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空など飛べないと刑事は言った 3-1

 砂漠に捨てられる夢をよく見た。小さな頃からだ。
 親はリュンが捨て子だったことを隠さなかったので、イメージが夢に成ったのだろうか。
 予知夢? と思ったこともあるが違う。夢の中の砂漠は灰色で、あの時の地はただ赤茶に乾いていた。
 余りにその夢を見たので、リュンはどうやったら砂漠から逃げ出せるか考えるようになった。有りとあらゆるケースを検討にかける。
 助けが来そうなら動かないで体力を温存する。
 人や車が通りがかる可能性があるか、空を飛行機が横切る可能性は。対して煙や鏡での光の反射、服を並べ空から見える信号を作る、など様々な方法で注意を呼ぶ。
 一方、救助の可能性が低いなら自分で動くしかない。暑さに負けぬよう朝夕と夜に動き、昼間は休息する。一番近い集落はどの方向か、飲み水を手に入れる可能性はあるか。低木や草、小動物など役立つ生物に巡り合えるか。
 考え抜いていたからこそ、リュンはあの時冷静に対処出来た。
 そして絶望した。
 赤い岩と砂の死んだ大地。高い空には茶色い鳥の大きな翼。
 耳元が割れるような音がー
(!)
 空はない。マンションの一室の白い天井。
 リュンは小さく息を吐くと「ゴッドファーザー・愛のテーマ」を目覚ましのボタンを押して止めた。シャワーの後、仕事着ー膝丈の黒いワンピースに白いレースのエプロンーを纏う。
 足が出ない方が見た目が「マシ」との判断で、通常は足首までのロングスカートを着ているが、夏には暑過ぎる。「ご主人様」は丈が短ければ短いほど良いと喜ぶが、そこまで趣味に付き合うつもりはない。
 慣れた様子で後ろ手にエプロンを結び、廊下を通り隣室の鍵を開ける。
「……おはようございます」
 小さな声で言うが、反応はない。予想通り。
 今朝はいつもより早いから、妹亜はまだ寝ている筈だ。
 トマトやハムのサンドイッチを作り、ラップを掛けて冷蔵庫に仕舞う。
 自分の分のサンドイッチを食べてキッチンを出ようとした時、寝室のドアが開いた。
「おはよう、めいど。時間大丈夫?」
「おはようございます。充分です。頓田様との待ち合わせは七時半ですから」
「よろしくねー。後、今日は帰りにスーパー寄ってくから、お総菜選んで買って帰る。夕飯はそれでお願い」
「承知しました」
 寝ぼけ顔で妹亜が寝室に戻るとほっとした。
 女性の寝起き姿を冷静に見られるほど、大人の男では実はまだない。それを平気で認められるほどのガキでもない。
(とはいえスーパーって、どうせ「アレ」が理由だからな)
 リュンは朝から肩を落した。

              ※

 眠りとも夢ともわからない時間がフランボアは嫌いだった。また跳ね起きる。
 先程まで、おどろおどろしい形相の首が空に浮かんでいた。
 ブラスバンドの部活が大好きで、親の手伝いも進んでする明るい女の子。
 ニュースで散々やっていた。
 夢だと思いながらも首があった方向を見て、朝の部屋でしかないと確かめて布団をかぶる。今日、仕事のシフトは遅番だけれど、もう眠れないだろう。

              ※
 自由に空を飛びたい。
 子どもの頃にしばしば空想していた、とシュミットはやっと思い出した。
 今は正に自由自在に空を駆け回っている感覚だった。あいつを三月うさぎの試食会に「殺して」もらって本当によかった。
 フランボアらが騒いでいるが、警察が自分たちに気付くことはない。万一気付いても、自分にまではたどりつけない。百太と月音は油断ならないので警戒は怠らないが、月音の方は既に自分の敵ではなくなっている。
 これから自分は、もっと幸せに成れるだろう! 
 
              ※

「君は空を飛びたいと思ったことはあるか」
「あります」
 リュンは肯定した。
「ですが、人間は空を飛べません」
 あまりにも早い返事だった。
 頓田は黙って大きなガラスの外を見た。住宅街の向こうに灰色にかすんだ空が見える。
(生意気だ)
 若いうちは無謀なぐらいの方が可愛げがある。
 奥の席から紫煙が漂ってきた。煙草を止めて七年になるが、匂いには未だ少し心引かれる。薄い香りを楽しみつつ頓田はガラスの向こうに目を凝らした。
 大通り沿い二階の喫茶店からは、正面奥に入る道が良く眺められる。都内でも有数の高級住宅街、神社の向こうの邸宅前が「麗篭アミューズメント専務夫人刺殺事件」の現場だった。
 頓田とリュンは先程、事件発生時刻にその道を歩いた。
 八時前の遅目の時間ながら、大通りに来るまで誰ともすれ違うことはなかった。
 静かで、両側には高い塀が立ち並ぶのみ。被害者は助けを求めるのもままならなかっただろうー頓田は痛ましく思った。妹亜に同行を命じられたメイド男子高校生は、相変わらずの無表情だ。彼は、そんな痛みをどれくらいわかるのだろう? 

 専務夫人事件唯一の目撃者は近所に住む予備校生だ。彼は毎朝、この店でモーニングを食べながら単語を覚えるのを日課としていた。その日何気なく外に目を遣ると、自転車が奥に走り去って行くのが見えたという。
 白っぽい自転車だったように思う。若い男のように見えたが、遠かったのではっきりとは言えないー証言の通り、クリーム色の自転車を所有する大学生が逮捕されたのは、十日後だった。自転車のタイヤから神社境内と同じ成分の土が検出されたが、本人は二日ほど自転車は行方不明だった、と主張している。
(確かにこの距離では、男か女もわからないな)
「例の殺人事件の目撃者は、もう来ませんよ」
 乱暴にコーヒーを置いて中年の女店員が言った。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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