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空など飛べないと刑事は言った 3-2

(!)
「お客さん、記者さんでしょう? 熱心にあっちを見てればわかりますよ。ちょうどこのぐらいの時間に起きたんでしたもんねえ。あたしは仕事が忙しくて、窓の外なんて見てられなかったから何も知りませんがね」
「もう来ない、と言うのは?」
「記者さんがあんまりしつこいんで、坊や、それっきり来なくなっちゃったんですよ」
(おかしい)
「もう少しお話聞かせていただけますか」
 立ち上りざま、目立たぬように警察手帳を見せる。
「刑事さん?! でも……」
 見遣る目がいかにも訝しげだ。仕方がない。
「うちの子です。これがワルでしてね。放っておくといつ親の顔を潰す事をしでかすかわからないんで、仕方なく連れ歩いてるんです。長い休みは手間でかないません」
(済まん)
 鉄面皮のリュンの目が少しばかり抗議の色を見せた。


「……俺、そんなどうしようもない不良に見えますかな」
「見えないから、言い繕うのに必死だったんじゃないか」
 店を出るとむせるような空気に包まれた。爽やかな朝はもう終わり、また暑い一日が始まる。
 坂を下り始めた途端リュンが口を尖らせたのを、苦笑しながらなだめる。
 店員からはあまり話を聞けなかった。
 いつもの席に座った青年が、記者だと名刺を渡していた男に詰め寄られ、脅えていた。それっきり青年は店に来なくなった。記者は三十代くらいの背の高い男だったという。
「外部に漏れてない、ってのは確かなんですかい」
 リュンが声を低めて尋ねた。
「ああ」
 同様にささやき返す。
 暴力団絡みの事件。おまけに未成年、警察は固く証人の身元を伏せた。
「公表したのは男性ということだけだ」
 記者が接触するなど有り得ない。
(喜屋武警視に頼んで、あちらの捜査本部に伝えてもらうか)
 気にはなる。が少女殺人担当の自分の仕事ではない。
 交換殺人など無いと強く訴え、速やかに別の捜査に移ろう。遺体を運んだ車の特定あたりはどうだろうか。土蜘蛛が罪を被ったのは銀糸という物証、ならばそれを崩すのも物証だ。今回のことで様々なものを失うのならば、せめてこの手で結果を出したい。これもまた組織の人間にはふさわしくない、無分別なエゴでしかないのだが。
 いい年をしてこんな人間だったのか。私はー
「そういえば、君は朝メシは食べたか?」
「ご主人様の用意と一緒に」
 うなずく忠犬の能面顔からは、何も読めない。


 坂を下り切った駅前で一旦リュンと別れ、通勤客で混むコーヒーショップで、頓田はホットドックをトレーに乗せて座った。
「同じ学校の同級生を何でわからないなんてことがある?! ええっ!」
 背後からの、抑えた凄みのある声。ホットドックをほおばりながら耳を傾ける。
「……あの距離からじゃ、無理です」
 返す明らかな震え声。
「本当にそうか。乙部《おとべ》。お前は秀慶《しゅうけい》学院に幼稚園から、中丸《なかまる》は中学からで六年も同じ学校に居たんだろ」
「クラス、一緒になったこと一度もないんです。秀慶って人多いから……わかりませんよ」
「じゃあな。お前は中丸要一《よういち》が逮捕された後、あいつが同じ高校の同級生だったって警察に言いに行ったか?」
(!)
「えっ! どうなんだよ」
 体をすくませる声に、頓田は静かに立って背後の男に声をかけた。
「止めないか。この若い人を脅してでもいるのか」
 男はへらへらと笑ったが、頓田を見る目は鋭いままだった。
「いやー、こいつは俺の甥っ子でね。ちょっと悪さしたんで叱ってたんですわ。さ、行こうか」
「本当にそうかい?」
 腰を上げた男を無視して、頓田は向かいの若い男にやわらかく問いかけた。胸元から警察手帳を出しー
 チッという小さな舌打ちと共に男が逃げ出した。
「おい待てっ!」
 人を突き飛ばしてコーヒーショップを出て行く男を頓田は追わなかった。捕まえられるかわからない彼より、警察手帳を見た途端、深い恐怖を目に表した青年ー少年の面影も残るーを手にしておく方が優先だった。
「乙部君、でいいのかな」
 名前は捜査資料で見た。勿論専務夫人事件の方だ。下の名前は……何とかカズだったが思い出せない、のが少し悔しい。
 耳元で低く言った。
「ご協力くださった方ですね。自分もあの件に携わるものです」
 嘘だ。自分は少女殺人の再捜査担当、土蜘蛛に代わる真犯人を挙げるのが仕事だ。
「もう大丈夫ですよ」
 細く明るい茶髪の下、乙部の丸い目はどうしようもなくさまよっていた。


「つけて歩いたりしてどういうことですかっ!」
 送って帰った自宅の玄関内、乙部の母親は頓田に食ってかかった。
「うちの子は警察の捜査に協力しようと、進んで情報を提供したんです! それなのに……」
「ですから、私は乙部君を尾行していたのではありません。たまたま通りかかりましたところ……」
「久仁和《くにかず》は受験生です! 夏は大事な時期なんですよ。そうでなくてもあの子は、進学の失敗からまだ立ち直っていないのに。犯罪者扱いなんて……」
 揺れるベージュのブラウスのドレープ。
 品の良いたたずまいとは似合わない、上から叩き切る勢いの言葉。
「犯罪者扱いなどでは決してないです! ご迷惑申し訳ありません。ですが私は心配で……」
 五六度同じ事を説明し平謝りしてから、言った。
「お母さん。もしよろしければ、私にご子息の警護をさせていただけませんか? 予備校への行き帰りだけでも」

 同じ頃、当の息子は息をひそめて階下の会話に耳をすませていたが、耐えられなくなったかのように突然パソコンを立ち上げ始めた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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