TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 3-3TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 3-3

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 3-3

 警視庁の廊下に妹亜の声が響いていた。
「『そんな根性の悪いことばっかり言ってるとハゲるぞ!』て言われたでしょ。だから『残念ながら、女性は男性よりハゲる因子が少ないんです』って返したじゃない。ついでにあなたこそ、って言おうと思ってふと頭見たら分け目のあたりがすーっと透けた感じで、これはホントにハゲ出してるのかもしれない、男の人って結構そういうの気にするって聞くし、だったら洒落にならないから何も言わないでおいたの。頓田さんは髪、立派よね」
「私も額の後退は気にしているのですが」
 妹亜は決まり悪気に口をつぐんだ。エレベーターに乗ると、
「ごめんなさい」
 と謝ってくる。だが今度は頓田が頭を下げた。
「警視。この度はご指示も仰がず勝手な行動でご迷惑をかけ、申し訳ありませんでした」

『暴力団がらみなんでしょ。そんなのにもう息子を関わらせたくないんです。最近あの子、予備校への行き帰りだって恐いって脅えちゃって』
 
 母親の言動を利用して頓田は乙部の警護を申し出た。それが、専務夫人事件の捜査本部に伝わり、妹亜と共に呼び出しを喰らった。途中、あすみちゃん事件の山浦警視も合流、彼らに怒鳴りつけられようが詰め寄られようが妹亜は一歩も引かなかった。向こうの責任者へ頭は下げながら頓田をかばい抜き、結果乙部の警護をー一週間の限定でだがー勝ち取った。
「いいえ。いい判断よ。ありがとう」
 はっと顔を見る。妹亜は壁に目を動かしながらこぼした。
「……盲点だったな。わたしたちは被害者や加害者の回りの人間は徹底的に調べる。だけど目撃者は、ね」
 目撃証人の浪人生は、逮捕された大学生とついこの間まで高校の同級生だった。
 秀慶学院の付属高から、外部進学を目指して予備校生なったのが乙部。一方中丸はエスカレーター進学し、秀慶学院大経済学部の一年に在籍していた。頓田たちに文句を垂れ流した捜査本部の連中も、この関係を実は押さえていなかったらしい。自分たちを追い出すや否や、怒号飛び交う大騒ぎに違いない。
(しかし、何で捨てぜりふが「ハゲる」なんだ。あちらの警視も)

 乙部の話では、男が声をかけてきたのは二週間ほど前の朝だという。


 坂の途中の喫茶店でいつものようにモーニングをとっていると、突然向かいの席に男がどかんと座った。
 「流通繁栄新聞」記者の直切《なおぎり》と名乗って名刺を渡し、ちょっといいですかと尋ね出す。
『君、あそこで起きた会社のお偉いさんの奥さんの殺人事件の、目撃者なんだろう? 俺にも話してくれないかなあ』
 戸惑いながらも、乙部は見た通りを話した。
 いつも通り単語帳を広げながらモーニングを食べている途中、ふと窓の外に目をやった。目の前のお屋敷町の道を自転車が遠ざかっていくのが見えた。乗っていたのはおそらく男だと思う。年はわからないが、年寄りという感じはしなかったから、せいぜい三十代までではないか。自転車は濃い色ではなかった。白っぽかったと思うがよく覚えていない。
 直切はうんうんうなずいてから言った。
『いやなあ、これは仕事ってだけじゃなくて、俺の個人的な興味でもあるんだよ。実は今回の事件で、俺が恩が有るっていうか、お世話になってる人が疑われちゃっててさあ、困ってるんだよねえ』
『…あの学生に、恩があるんですか』
『いや。警察はあの学生の背後に黒幕がいると思いこんでいてねえ』
 事件に暴力団の関与が疑われているのはニュースで聞いていた。ではこの人はヤクザか……と青くなった。何か思い出したら教えてくれ、とその日は穏やかに話が終わったが、以後この店へ行くのは止めた。
『そういう世界の人とは関わりになりたくなかったから』
 だが駅前のコーヒーショップで直切に見つかり、乙部曰く、
『難癖をつけられていた』
 


(暴力団なら独自の情報網もあるだろう。あの住宅街であの時間、目撃の可能性が高いのはあの店、と推測出来るかもしれないがー)
「例の喫茶店からでは元同級生でも判別できない、というのは信用性があると思うのね?」
「はい。私が見た限り、あの距離では」
「リュン君もそう言ってたな」
 エレベーターを降り、妹亜の後について捜査相談室への廊下を歩く。
「ですが、元同級生が犯人として逮捕されたにもかかわらず、警察《こちら》に何も言ってこなかったのはどうかと思います。それ以上に、私が見た反応が」
 調べたところ、直切は流通繁栄新聞社の副社長で、真留留組構成員。正真正銘のヤクザだった。
「ヤクザ者から脅されていたところに割って入ったんですよ。ですが乙部は、警察手帳を出した私に、直切へ以上の怯えを見せました」
「それがおかしいってことね?」
「はい。私の勘ですが」
「信用する」
(だから、ただの勘なんですが……)
 危なっかしい、と思うのは我ながら勝手だ。
 それで動いてしまった自分はもっと馬鹿だ。何故ここのところこうなのか。
 警察庁舎内に自称男メイドが居るとの同じくらい、自分も狂っている。
「直切にはマルボウが当たってくれるって。『日野』の件も含めてね」
「はあ」
 頓田は回転が速いとは言えないと自負する頭を必死で動かし、整理を試みた。
 まず第一。捜査相談室への怪電話と、専務夫人事件の目撃者への脅迫者がどちらも「流通繁栄新聞」を名乗った事実。
 前に妹亜が指摘した通り、捜査相談室の担当は例の少女殺人。
 専務夫人殺人と少女殺人は本当に関係があるのかー交換殺人は問題外としても。 
 あすみちゃん事件の被害者はごく普通の会社員の娘で、闇社会も何も捜査線上には出ていない。土蜘蛛は、頓田が見るに闇社会でも使い物にならない類だーシビアな評価だが。
 そして専務夫人事件。
 こちらは最初から闇社会の復讐と見られ、捜査本部も暴力団担当《マルボウ》中心に構成されている。
 だが逮捕された中丸はごく普通の大学生で、現時点では裏社会との接点は判明していない。彼が高校時代から頻繁にクラブ通いをしていたことから、捜査本部は、薬物関係等で脅されて利用されたと推定し探っている最中らしい。
 彼が逮捕されたのは、神社参道についた跡と同じ型の自転車を持ち、タイヤには境内と同じ成分の土が付着、加えてその場に落とした手袋に彼の指紋があったからだ。
 元同級生が犯人と目撃者、という偶然は無いわけではない。だがあの乙部の脅えは何だ? 彼はどう事件と関わっているのか。
(わからない)
 普通、闇社会は犯罪から自らの存在を隠し、下手人は切り離す。
 だが流通繁栄新聞、または真留留組は何をかぎ回っているのか。
 「日野」が捜査相談室に電話を入れた目的は?
 流通繁栄新聞の人間ではないなら、記者と称した社会人経験のないXは誰なのか。
「そうそう。あすみちゃん事件の方だけど、今朝山浦さんが教えてくれたの。二つ」



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。