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空など飛べないと刑事は言った 3-4

 一つ目は、土蜘蛛逮捕の決め手となった銀糸について。
 この糸は東帝セキュリティの制服だけではなく、Tシャツやブラウスなど非常に多くの衣服に使われていて、全部詰めるには並大抵でない時間がかかるという。
「捜査本部はやる気らしいけど。あっちは人がいるからね。もう一つは、遺体の移動手段」
「何かわかったんですか?!」
 妹亜は何故か得意そうに微笑んだ。
 公園から遺体発見現場での間でごく小さな轍跡を見つた。調べた結果、それは外国製のブランド物スーツケースの車輪だった。
(スーツケースか! やられたな)
 小さな子どもなどその程度でも運べるのだ。全く思いつかなかった自分を少し責める。
「外国物となれば、絞るのは容易ですね」
「残念ながら。S社のスーツケースなんて、ちょっと大きなスーパーなら売ってるほどそこらに転がってるの。中丸本人は持ってないそうだけど、レンタルも含めて本部が詰めていくみたい」
 捜査本部はさすがだと頓田は思った。証拠に基づいた捜査で確実に歩みを進めている。
 それに比べて自分はどうだ。
 トホホ……と昔の四コマ漫画のように踊ってしまいたい。

 捜査相談室前で頓田は足を速めてノブをとった。どうぞ、と上司を先に行かせてーパチンコ屋のドアでも開けたかと思った。
「アンさーん! お疲れさまです~。遅くなってどうもすみませんでした! 昨日まで休暇でうちに帰ってたんですよ。アンさんがお呼びだと知ってたら、すぐにでも飛んで帰ってきたたんですが、どーして職場じゃなくて携帯の方に連絡くれなかったんです? お土産はこれです! うちの方のまんじゅうと、あとは押し寿司。勿論こっちは田舎のじゃないですよ。うちは山で魚なんてとれませんからね。海の方の街に出てから買いました。この店の寿司は旨いんですよ~。ああ、こちらが頓田警部補ですね。初めまして~! さすがベテラン刑事さんですね。落ち着いてて格好いいなあ。あ、アンさんはアンさんで若き指揮官として素敵ですよ。僕はアンさんに付いて行きますからね! えーとお土産は人数分ありますから、どうぞ頓田さんも召し上がってください!」
「マッシー様、俺の分は?」
 部屋の中からマイペースなリュンの声がする。
「心配いらないって! ちゃんと三人分買ってきたから。育ち盛りなんだからリュン君もたっぷり食べてね。また背、伸びたんじゃないかい?」
 もうそんな伸びませんよと冷たい声が返る。
「升形《ますかた》君、そんなにしゃべり続けると頓田さんが口をはさめないでしょ」
 デスクによりかかって妹亜が男を一瞥した。途端、猫のように肩をすくめる。少しやせ気味だが、背は今時の若い人間なら普通程度。
 ただ警察の人間にしては、服装のカジュアル度は普通でなかった。
(いや)
 リュンと違いまともな男物を着ているのだから、文句を付けるのは止めておくかー
「君は…」
「ご紹介遅れて済みません! IT捜査隊の升形樹馬《じゅま》と申します。はいどうぞ! 名刺ってあんまり使う機会なくてたまっちゃうんですよね。よかったら二枚持っていってもいいんですけど、いらないですよね」
 いらないに決まっているでしょと妹亜が突っ込む。
「そりゃそうだ! 二枚なら商品券、五枚集めれば温泉宿泊が当たる、とかならいいんですけど、僕、まだ入庁二年目で財力無いんで無理なんですよね~」

『IT犯罪特別捜査隊 電子通信技官 升形樹馬』

 という名刺に、服装がカジュアル=頓田に言わせれば「いい加減」なのも納得した。
 彼は警察官ではなく、専門知識で捜査に貢献する技術者だ。
「コンピューター・エンジニア、ですかね」
「そうです。というより、三度のメシより機械いじりが好きなただのパソオタですよ。ははは……」
 笑い飛ばされても困る。
「頓田さん、気をつけた方がいいですよ。彼の前にパソコンを置くと、あっという間にドライバーとスパナ持って分解されちゃいますからね」
「ドライバーとスパナですか? ほら」
 樹馬はあっという間に緑と赤の軸のドライバー&スパナを両手に握って見せた。いったいどこから取り出したのか。
「商売道具ですから。もちろんいつでも持ってます!」
「ここのパソコンは公用だから。勝手に開けちゃ駄目よ」
「残念だなあ。箱があったら開けてみたい。繋がった回路は外してみたい、ってのは人情だと思うんですけどね」
 そんな人情頓田は知らない。
 立ち尽した彼の前で樹馬は手をひらひらさせた。
「丁寧語なんか使わないでくださいよ! アンさんは幹部候補生の警視殿ですが、僕は普通の下っ端エンジニアですから。目上の方にそんな丁寧に話されたらこちらが困りますよ。最上級超ラキュリー尊敬語~、とかいって昔古典の時間にやったような言葉持ってこなきゃ。って僕、古典苦手だったんでなんにも覚えていませんけど。はは」
 頓田は助けを求めるように―我ながら情けない目で―妹亜を見た。
「升形君には、前にも捜査相談室に協力してもらったことがあってね。今回は頓田さん、あなたのために呼んだのよ」
「へはっ?!」
 思わず妙な声が出た。気にもかけず妹亜はくるりとイスを回して座り、こちらに向き直る。
「教えてくれたじゃない。殺人を依頼できるほど濃密な人間関係なら、交換殺人なんて無意味だって。でもただ一つ、顔を合わせたことすらなくても、そんな関係が出来る場がある」
 丸い目をまっすぐに頓田に向ける。
「ネット」
「はっ?」
「インターネット」
 諭すように宙で指を動かす。
「見ず知らずの人間が、ネット上で殺人やら強盗やら請け負った事件なんて転がってるでしょ。挙句の果てにネットで知り合って心中まで……。会社とか学校、地域社会っていった日常では接点がなくても、濃密な人間関係が可能なのがネットワールド……ま、ほとんどが錯覚なんだけどね」
 頓田はそのまま床に寝転がりたいほど気落ちした。妹亜はまだ交換殺人にこだわっていたのだ。顔が歪むのを隠せない。
「……どうしてそこまで交換殺人説にこだわるんですか」
 答えが返るまでに少し間があった。
「……わたしの勘よ。信じてくれる?」
 信じるか! とは返せないので沈黙で答える。
「ご主人様いいですよ。ホントは俺の勘なんですから。頓田様。納得のいかねえことがあるんでしょう? どうぞお話しください」
 話も何も、ただ非現実的というだけだ。
「……現実の世界ではあり得ないからです。人間が空を飛べるのは夢の中だけのように、交換殺人なんていうのはフィクションの中だけのものです」
 あえて妹亜に向かって丁寧に答えた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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