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空など飛べないと刑事は言った 3-5

「頓田様。それは土蜘蛛が犯人に決まっているから、調べ直しなどしなくていい、と言うのと同じですぜ」
 物憂げに首を傾けた拍子に、リュンの頭上で白いティアラが愛らしく揺れた。だがー
「っ!」
 言葉が胸に突き刺さった。
 血の代わりに、強烈な怒りが噴出する。
 第一に、少年の主張の方が正論だと思ったから。
 次にそれでも、理屈以上の理由で自分の見解の方が真相に近い、と依然信じられたから。
(だから、こんな馬鹿なこと……)
 いくつかのイメージが脳裏を通り過ぎた後、頓田はやっと感情の暴発を抑えた。こいつはガキだが、エリート上官の付属物。自分は真っ当に行動出来る。大丈夫。
 全身の血が未だ沸騰の跡を残していても。
「うわーっ! 頓田さんもリュン君も格好いいなあ!」
(はあっ?)
 膝が崩れかけた。
 茶化したのかはたまた天然か。樹馬の一言でせっかく決まったセリフも台無しだ。
 怒りの残りがすうっと空に溶ける。知らず苦笑が浮かび、頓田はこの騒がしいIT技官に感謝した。
 マッシー、と咎めてから妹亜が言う。
「頓田さん。責任はわたしが取ります」
 足を組んだままこちらを見据える。
「今はまず交換殺人説を潰しましょう。それがうちの室の方針です」
 この人は責任者らしいことは結構言える。最近わかってきた。
 幹部候補生とはそういうものなのだろうが、時にそれは絵に描いたよう、または劇団員が台本を暗唱しているようにも聞こえる。
 仕方がない。この娘はこの娘で一生懸命なのだ。
「手柄が立ったら、あなたが署に戻る時お土産に付けて渡すから。心配しないで!」
 この手の約束はまず果されないことも、長年の経験から知っている。苦笑いのままうなずくしかない。
「……そうそう。今日は火曜じゃないから大丈夫よね。頓田さん、今晩夕飯ご一緒しない?」
「はい。構いませんが」
「マッシーも大丈夫?」
「はいっ! 行きま~す!」
 元気に手を上げる。
「じゃあ午後はバリバリ仕事進めておかないと、ですね! 一週間空けてたから書類が結構たまってて、机の上を見るのも恐いくらいなんですよ」
「一週間も?」
 聞こえないつもりの小声は、しっかり当人に聞こえていた。
「いや~、おっしゃりたいことはわかりますよ。僕だって新米の身で心苦しいんですけどねー。帰らなきゃ帰らないで、村の人に申し訳なくて居ても立ってもいられなくなっちゃうんです」
 樹馬は気にした様子もない。
「マッシーが帰らないと村のお祭が始まらないのよね」
「そんなことはないです。でも、居た方が皆さんに便利ですから!」
「美津風《みづかぜ》踊り、って知ってます?」
 妹亜が土産のまんじゅうを手に頓田に問う。
「聞いたことはありますが」
 今度は食いっぱぐれまい、という訳ではないが、遠慮無く自分のまんじゅうを片手に答える。独特の旋律と舞で最近では海外からも観光客が訪れる、だが基本マニアックな人間向けの、ローカルな祭だと記憶している。
「升形君のお父さんは、美津風踊りの家元さんなの」
「ほお」
「そうは言われてますけど、お金取って教えるわけじゃないし。大したもんじゃないですよ」
 言いつつうれしそうに照れる。
「無形文化財にはなったんだっけ?」
「いえ。話は有ったんだけどぽしゃったんです。色々面倒そうだったから、かえって良かったですけど」
「去年はわたしも遊びに行ってね、『家元のお坊ちゃまのご友人』ってことで、とっても親切にしてもらったんだ。ちょっと勘違いした人もいたみたいだけど。彼女だって」
「アンさんなら僕は光栄ですよ! ともかく、祭りの時は村の人の踊りを見たり、観光客向けの講習で教えたり、何より囃子が鳴ってる間は僕と父を含めた五人の『舞手首《まいしゅがしら》』の最低一人はやぐらで踊ってないと駄目なんで、忙しくって」
 ほら、と樹馬はさっと腰を落とした。両膝を曲げたまま、投げ出すような動きで足を前に出し、ふわり、と上に向けた手のひらで空を打つ。
 部屋の空気が変わった。
 遠い昔。纏う衣に食べ物、香る空気も違う世界といきなり繋がったようだ。
 感心して見つめていたが、樹馬はすぐ動作を止めると背を伸ばしてえへへと笑った。
「祭りの直後でまだ踊りが中にありますから、踊りやすいですね」
 胸の中心をトンとたたく。
「…家でも練習してるのかい」
「はい! 毎日朝と晩にひと通りさらってます」
 そうなのー! と妹亜が驚いた声をあげる。樹馬はまた恥ずかしそうに笑った。
「酔っぱらって帰った時なんかは、布団の上で最後の締めだけ踊ってバタンの時もありますけどね。……バレエでしたっけ? 一日さぼれば自分にわかり、二日で先生、三日で観客にわかるって。あの通りで、一日休むと取り戻すのはすごく大変なんで、踊っておいた方がかえって楽なんですよ」
「……踊るエンジニア、か」
「これで歌でも上手ければ、『歌って踊れるコンピューターエンジニア』って売り出すんですけどね。そっちはからっきし駄目でして。ほら、前にカラオケに行った時、思いっきり音外してアンさんに呆れられましたよね!」
「そうだっけ? ともかくマッシーにしゃべらせとくと話が終わらないから、今夜は二人ともうちでディナーね」
 とようやく気付いた。
「…ちょっ、ちょっと待ってください。夕飯は警視のご自宅で、ということですか」
「そうよ。初めてよね!」
 いいのだろうか。妙齢の独身女性の自宅で、など。
「心配しなくても、うちのめいど、お料理もと~ってもおいしいんだから! マッシーだって、実はそれ目当てでしょ?」
「それだけじゃないですよ~」
「仕事と言える程度の技量は、維持していますからな」
 呟きざまリュンは白いエプロンの胸を心もち反らす。
「それでは御主人様、今日はスーパーは……」
「あ、アレは当然中止! 中止に決まってるでしょ?! お買い物任せたから!」
 にこにこと笑う樹馬に、能面顔のリュン。
 私はまともな人間だ、私は普通の人間だー密かに繰り返したお陰で、交換殺人説を論破し忘れたのに気付いたのは、昼食解散の後だった。
 こんな時は男泣きでもしたくなる、と一人泣き真似をしても気は晴れなかった。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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