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ピンクのイルカが夢を見た 1-8

 天上から差し込む光に透けて一面の青は時にターコイズに変わる。ゆったりと流れる音楽と同じリズムで、体をなめらかに揺らしてイルカが泳ぐ―いや、イルカの動きと合うテンポの曲を選んでいるのだろう。
 ぷちぷちぷち……
 小さな泡が光りながら左から右へ流れていく。
 勢いよく跳ね上がり、空にとどまるように弧を描いてから水面《みなも》に潜る大小のイルカ。
 うっとりと映像にのめりこみそうになる寸前、慶は我に返る。

『ダイビング、危ないから駄目だって。お母さんが』

 頭に残るまつみの声の、布のような柔らかさ。
 イルカのように泳ぎたい―そんなことをまつみは慶に言わなかった。
 何一つ、言ってくれなかった。十年来の親友羽美子にも何も残さず消えた。
(どうして……)
 横では羽美子があこがれるような目でスクリーンを見上げている。その向こうの有人は、慶と目が合うと軽く肩をすくめスクリーンに向き直る。

 人は苦難によって磨かれる。だから慶は何にも弱音を吐かない。愚痴を言って成長のチャンスを逃す連中は馬鹿だと思う。いや、女の子ならしょうがない。これは男の話だ。
 厳しいと評判の部活を選んで所属してきた。中学では硬式庭球部、今は弓道部。
 結果は楽だったとが言わないが、課題や問題を乗り越えるのは楽しくて仕方がなかった。
(ついでに女子にももてた。ただしこれはあくまで「副産物」だ)
 自分を鍛えるのは男の勲章だが、なりふり構わないのは好みではない。スタイリッシュに努力するのが現代の男というものだ。
 今回も―まつみがいなくなるというこのチャレンジも、きっと乗り越えてよりいい男になってみせる。そして……

「遠く三千年以上前、クレタ文明の時代から、平和を愛するイルカはわたしたち人類の友人でした。しかし今、彼らの棲む海を汚しているのはほかならぬ人類なのです」

 日曜日の今日、慶たちがいるのは七大洋国際環境センターの講演会場だ。
 挨拶の後すぐに照明が落とされた。大スクリーンには延々と海の映像が流れ、頭の悪い宣伝としか思えない話が語られ続ける。
 このイベントのことを調べたのは梨々果だが、寮を出ようとした時舎監のチェックに会って行けなくなったとメールが来た。
 彼女は文句なしの変わり者だ。女の子なのに全く可愛げがないところはどうかと思うが、まつみからも聞いているように悪い子ではない―慶に言わせれば女の子に「悪い子」はいないが。
 対照的に羽美子はとにかく素直で可愛い。まつみと仲が良いのもよくわかる。
 有人についてはまだよくわからない。気持ちの良い奴でかえって気が引ける、のは自分が未熟なせいか。
(服はさ……もう少し気を使えよって思うけど)
 男は中身だけでなく外面も磨き抜くもの。いい加減な格好は怠慢だ。磨けば結構見映えがしそうな分余計、有人の無頓着さは納得し難い。ともあれ彼の存在と熱意には感謝もしている。
(なんでここまで……)

「海は人類の母、というのはレトリックではないのです。科学的真実です。地球をめぐる深層海流の秘密をあなたは知っていますか」

(秘密……)

『わたしには、秘密の夢がある』

 奴は聞いて、自分は聞いていない言葉。
(……まつみ)
 僕は奴らに嘘を吐いている―
 

「期間、およそ二千年……」
 そんな気が遠くなるような時間をかけて海流が旅をしているなんて知らなかった。羽美子は胸が熱くなるのを感じた。

「海を守る仲間になるのか、それとも地球を破壊する『敵』になってしまうのか。あなたは選択出来るのです」

(そんなの海を守る方に決まってるぅ!……けど)
 今日はいい話を聞けた。だけど、しゃべりたいのにまつみはここにいない。
 学校に来なくなってからそろそろ一ヶ月。まつみは今頃親戚の家にでもいるんじゃないかー羽美子は思っている。ご両親も先生たちもだから騒がないんじゃないか。
 世の中には真っ当な人間とそうでないのがいる。まつみは当然真っ当だ。
 真っ当というのは、ごく当たり前のこと―例えば皆が笑っていればうれしい。そうでなければ心配だとちゃんとわかっているということ。だから家出して周りに心配をかけるなんて、するはずない。小学校から友だちをやっていればそれくらいはわかる。
 男の子たちはどうして深刻に考えてるんだろう。
 それ以上に、ろくでもない気の回し方をする梨々香なんて失礼この上ない。(彼女は学院には少ない真っ当でない人間で、どこかねじくれている)
 まつみは真面目だから、何か悩んで、しばらく学校に来たくない気分なのかもしれない。
 けれど親友の自分にはそれを伝えて欲しかった。
(みんなには内緒だよ、って言ってくれればちゃんとするって)
 自分にも彼氏の慶にすら何も言わないなんて、まつみはひどい。
 あたし、一つ思いついたんだ。まつみも一緒にね。
(戻ってきたら、もう二度と心配かけるなよって。それだけは言ってやる!……)

                  ※

 一、生命の歴史 
    深海で発生し海から陸に上がった。人体と海の組織は似ている。
    再び海に戻ったイルカ。癒し。
 二、深層海流の回遊
    ブロッカー博士のベルトコンベアー理論
 三、地球温暖化
 四、七大洋国際環境センターへの勧誘
    地球を守る一員として。


「塩矢先輩、『深層海流の回遊』って何ですか」
 感情のない声で梨々果が尋ねた。夕食後、談話室左奥のパソコンは彼女の定席だ―他の寮生が座らないほどに。
「何でも地球上には二ヶ所、いきなり深海まで何千メートルも海水が沈むところがあって……グリーンランドと南極近くだったっけな」
 講演会に行けなかった梨々香にメモを見せ説明する。
 「人魚の涙」を知らないと言った時、有人は三人にあぜんとされた。海外でのトラブルをテレビで騒がれ、小さいながら有名になった宗教団体だという。
「海水ってベルトコンベアーみたいにぐるっと表層と深層を巡ってるんだってよ。えっと、まずは北大西洋のグリーランドでいきなり四千メートル近く海水が沈むんだ。理由は塩分の濃度と水温の低さ」
「塩矢先輩……」
「何? メモわかりにくいだろ? ごめんな」
「いいえ。字が読みにくいんです」
 ガーン!
 有人はスツールの上で背を反らしショックでひっくり返る真似をしてみたが、梨々香はにこりともしなかった。
(ガーン!)



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テーマ : ミステリ
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