TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 4-2TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 4-2

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 4-2

「百太さん、墓場無力化プラン期待しています。
 この間の百太さんのアドバイスに従って、近所を観察してみましたが、ぼくの回りには害虫の気配は全くありません。
 という訳で、何かあったらまたぼくを使ってください。   月音
 P.S. 百太さんはコンピューターに詳しいですね。いつもながらうらやましいです」


 コンピューターに詳しかったらどんなにいいかーモニターの前で百太はひとりごちた。
 試食会プロジェクトの実行にあたり、百太はコンピューターについても勉強した。だが結局、データ通信やコンピューターの仕組みそのものは理解出来なかった。巷のパソコンおたく―百太の頭の中では、チェックのシャツの裾をズボンに入れたメガネのデブで引き隠り、と偏見に満ちているー程度のことが。
 小説や映画、フィクションの世界では皆簡単にハッキングをする。自分も出来るなら、詰めの甘いフランボアや小心者のがぶがぶのパソコンなどさっさと乗っ取って危険箇所を削除したい。
 時間をかけて体系的に学べば、コンピューターの知識など身に付けられないことはない、と百太は信じる。時間がないだけ、否、作ろうと思えば時間も作れる。全ては意思の問題で、言い訳は単なる無能の証明だ。
 今、百太は重要なプロジェクトを平行して抱えている。小さなことに時間をかけるのは非能率的だ。
 そう自分を納得させても、やはり不愉快だった。

 警察幹部の人事異動は新聞に載る。たどって調べたところ、「墓場」こと「警視庁捜査相談室」の室長喜屋武妹亜は、都内の名門女子校から東大法学部に現役合格し、ストレートで幹部候補生に採用された絵に描いたようなエリート、と判明した。
 百太には、それは祝福のようだった。
 学歴と組織によりかかっている女など、自分の敵ではない。だが巨大組織には油断は禁物。自分たちを認識させないまま、喜屋武という女の羽根をもいでおけばいい。
(いや、手足か……)
 薄い笑いが孤独な夜の闇に溶ける。
 人に翼などない。何故なら飛ぶ必要がないからだ。
 一歩ずつ階段を昇る強靭な足があればいい。
 足手まといのフランボアとがぶがぶはいつでも切り捨てる。だがその前に、シュミットに自分の為の「試食」を実行させなくてはならない。時間がない上にこの状況、早く乗り切りたい。
 メールチェックを続けた百太は、ある一つを開けてー不覚にも、動けなくなった。

                   ※

〈第四の犯行〉
 石が好きだ。ピンクや緑、色とりどりの滑らかな石ではない。灰色でごつごつとした、無機質そのものの石。
 前にテレビで見た映像の中で、月面はそんな石そのもので出来ていた。「月」音というハンドルネームはここからだ。ちなみに「音」の方はぽんと浮かんだだけで意味はない。
 多分自分は、月や石に似ている。
 シュミットの裏切りを知らされた時、フランボアやがぶがぶは激怒した。
 彼らの血はきっと波立っているに違いない。うらやましい。
 シュミットが仲間を裏切ったことは、月音にもひどく不快だ。だがそれだけだ。退屈には変わりない。
 密かに尊敬している百太は、さすがに感情を出さなかった。試食の手を下そうとそうでなかろうと、罪に問われるのは同じ。故にシュミットが警察に密告することはない、と浮き足立つ皆を説得した。
 シュミットの裏切りを最初に報告したのも彼だ。
 次回の試食の件で百太がシュミットにメールをすると、メールアドレスが存在しない、という通知が返ってきた。もう一つのフリーメールアドレスでも同じ結果で、百太はシュミットが「ターゲット」を「殺し」てもらいながら、自分は試食をせずに逃亡したと理解し、MLで知らせてきたのだった。
 その百太でさえも、警察には捕まりたくないらしい。不思議な気がする。
 月音は逮捕されても構わない。灰色の壁に囲まれた刑務所(自分なら少年院か)に移っても、退屈なのは今と同じだろう。未成年だから前科もつかない。
(あ、だけど少年院じゃ、ステーキ出ないかな?)
 月音の家では、月に一回サーロインステーキの日がある。近所のスーパーで安売りになるのだそうだ。市販の大根おろしソースにバターを乗せたサーロインは、とろけるようにおいしい。
 ーステーキが食べられないなら、やっぱり捕まるの嫌だなあ。
(外を歩くの、やっぱり嫌だなあ)
 暑い。でも仕方がない。
 容赦ない日差しの下、路地に面した高層マンションに着く。
 教えられた通り用件を言って、オートロックのマンションの玄関ドアを開けさせる。防犯カメラに顔が映らないよう注意しながらエレベーターに乗り、その部屋のインターホンを鳴らす。
 ある人物からのことづけを届けにきた、相手は自分に返事を持って返ってほしいそうだー百太の指示通りに言うと、「ヴィクティム」は何の疑いも無い様子でドアを開けた。
 男は、一瞬子どもに見えた。背は決して高くない月音よりも頭一つ小さい。古めかしい丸眼鏡のせいか、漫画に出てくる優等生の少年をそのままサラリーマンにしたみたいだ、と思った。
 月音が白い封筒を手渡すと、今読むから待っていてくれと玄関に招く。 
 トイレを貸してもらえないかと頼むと、人のいい笑顔で了承した。
 百太が言うに、手紙の差出人として名前を借りた人物はヴィクティムの親友で、わざわざ人に届けさせる理由は、
「電話は警察に盗聴されかねず、手紙も封を開けて覗き見されかねない」
 から。ということは、この男は警察に狙われているのだろうか。月音はその手のことには興味はないが。
 ただ、逃げたシュミットの代わりに、百太のヴィクティムを試食し成功させるだけだ。

 トイレでは用は足さないように指示されている。残った尿からどんな証拠が検出されるかわからないから、だそうだ。手袋を着けるとウエストポーチから縄を取り出し、怪しまれないよう水音だけ流して個室を出た。おそらく、と百太が言った通り、男は窓側の部屋で背を向けて熱心に手紙を読んでいた。うーん、ここはどういうことかな、など独り言が聞こえる。わからないのも当然、この手紙は百太と月音が作ったニセ文書なのだ。
 顔が振り向く前に、
 ザッッ!
 男の首に縄をかけた。間髪を置かずくるりと背を向け、縄の両端を握りこむと男を背負いあげるように引いた。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。