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空など飛べないと刑事は言った 4-4

 破局は来なかった。
 気がつくと、男が大きな振りで、月音の背のはるか向こうにナイフを投げ捨てていた。
「誰に頼まれたんだ?」
 次に言った○○か××か、という問いは外国の名前のようで、月音には聞き取れなかった。
 吸い付くような目で月音を捕らえて離さない、彼。
 見上げながら月音の両手首をそれぞれ握るが、力の入らない左手は添える程度。不規則な息は苦しそうで、なのに何故、それほど真剣に尋ねるのか?
「話してくれ。君は僕を殺す必要なんてないはずだよ。……第一君、まだ十代だろう?」
(誰に頼まれたんでもない!)
 突如、怒りが沸きあがった。
 自分たちは殺人という、普通の人間が手を出さない行為への勇敢なる冒険者なのだ。この男を「試食」する代わりに、百太が月音の指定した人間を「試食」する。そんな仲間だ。
 それを彼は、子ども扱いした。
 左手を振り払う。気配に這い出し立ち上った男を壁に追う。追われた男は背を壁につけたまま細い手を伸ばして、月音の肩を握る。鎖骨の上、親指がぐっと入り咳き込んだ時、
 バシッ!
 力が抜けた。
 男は壁に沿って崩れ落ち、手足を投げ出したまま短い黒い髪がフローリングの床を拭いて止まった。
 スタンガンー最後の武器を、ポーチから出して首に当てたのだ。これも百太からの差し入れだ。
 異様な疲れを感じたが、のんびりはしていられない。電気ショックは余りもたないと聞いている。部屋の向こうに放り出された縄を拾い、リビングの天井から照明を吊るす太いコードに輪を作って結ぶと男を抱き上げ、椅子に乗って何とか首にセットした。
 椅子を引いた時、男は一瞬目を見開いた。その手が首に向かい、だが血の滲む左腕はすぐに力をなくし、右手も首元を二三度ひっかくと、今度こそ完全に力を失った。
 しばらくテーブルの足に寄りかかってぼんやり見上げていた。その間、男はずっと揺れていた。
 気付いた範囲で部屋を整えると、ポストを通して針金の細工をした後、そっと外へ出て鍵を締める。次に、針金をたどらせて鍵を玄関脇のキーホルダーに戻すと、最後に針金も巻き取り、暑い空気の中月音は軽い足取りで歩き出した。


 指定の駅の暗証式ロッカーに、百太が取ってくれた新幹線の切符が入っていた。
 駅に居る時も、座席に座ってからもしばしば首下が痛んだ。降りる駅が近くなった頃に、男が最期に付けた跡だと思い出した。シャツの胸も小さく切れてかすれた血が滲んでいたが、こちらはそう痛くない。
 あの男は、ろくに月音を刺すことすらしなかった。ただ、
(あの人は生きたかったんだ……)
 この痛みは、彼の執念。
 だがなぜ? どうしてそこまで生きたかったのだろう。わからない。
 今は、モノになって天井からぶらさがっていられるのに。
 二度目の「試食」もそれほど面白くなかった。殺人は、やはり退屈だ。
 だが月音は今日気付いた。
(殺されるのは、凄くワクワクするかもしれない!)

                   ※

「何ですって!」
 頓田は遠慮会釈なく叫んだ。
 会議室に居るのは、直属の上司と自称メイドの他に、あすみちゃん事件責任者の山浦警視、専務夫人事件責任者の等々力《とどろき》警視、パソオタ樹馬とその上官であるIT捜査隊隊長の七人。
 目の前で報告をする樹馬の顔は前とは打って変わって引き締まり、この男も警察の人間だと実感ーなどしている場合ではない。彼は何と言った?! 
「乙部久仁和が予備校からメールを送ったのは六ヶ所。そのうち三人は高校時代の友人、一人は予備校に入ってからの友人。そして残りのうち一つが『葛理《くずり》はゆら』です」
 土蜘蛛に恨みを抱いているかもしれないと先日頓田が回り、後に地元警察にも調べを頼んだ一人、福岡在住のフリーターだ。
 これが判明した時点で妹亜は令状を取らせ、予備校のパソコン捜査は合法、つまり証拠能力が有るものに変わった。だからこそ各責任者が来ての打合せとなっている。
 樹馬が乙部のメールのプリントアウトを示した。
「このサーバーは最近一ヶ月のメールしか保存しないシステムのため、内容が判明したのはこれだけです。一方の葛理は地元のKシティーケーブル社をISP、えっとインターネットプロバイダーとして使っていますが、不幸なことに、ここは少し前にサーバートラブルで一部のメールデータが消失する事件が起こっていまして、葛理の過去のメールの確認は不可能でした」
 山浦がうなる。
「最後、六番目のメールアドレスの持ち主は不明です。現在解析を続けていますが、ただ内容から、このアドレスはメーリングリスト用のものと思われます」
(メーリングリスト?)
 確か妻が、娘のPTAのそれに入っていると言っていたがー
 首を傾げたのは頓田だけではなかった。等々力警視に説明を求められたIT隊の隊長が、投稿するとメンバー全員に同じメールが送信されるコミュニケーションツール、と説明すると、樹馬が続けた。
「このアドレスに送ったメールが、メーリングリストへの投稿としてメンバーに送られるのです。で、乙部と葛理は、共にこの正体不明のメーリングリストのメンバーだったとも思われます」
(信じられない……)
 一つ目は、あすみちゃん事件を調べていた捜査相談室への電話の主の自称所属先と、専務夫人事件目撃者を脅していた男の所属が同じ「流通繁栄新聞」
 そして今回二つ目。あすみちゃん事件で逮捕された土蜘蛛に恨みを持っていた人物と、専務夫人事件目撃者の間にメールのやり取りがあった。同一のメーリングリストとやらにも所属している。
 さすがに頓田も思う。二つの事件はどこか繋がっているー
 足元が消失した感覚、とはこういうものだろうか。
 思い浮かぶのはここ数日送り迎えしている、乙部の落ち着かない顔。
 人は空を飛ぶことは出来ない。飛行機などの機械を利用するか、ハングライダーのような道具で補助すれば可能だが、生身では絶対に出来ない。現実とは斯様に限定されたものだ。とてつもなく高く跳躍して飛翔に見せたとしても、実際は大腿筋や腓腹筋などの並々ならぬ鍛練ー
「頓田さん!」
 妹亜の声に、頓田は急速に現実に着地した。
「葛理はゆらを聴取した時のことを報告してくれ、って言ってるんですけど」
「……報告書は喜屋武君から回してもらって読んではいるが、一応聞いておきたいんでな」
 言った山浦、等々力両警視に妹亜までもが冷たい目で頓田を見ている。慌てて頭を下げた。
「失礼しました。葛理はゆらについては、私に対して少しばかり脅え過ぎていること……」
 そう、乙部と同じようだった。あれは事件「関係者」にありがちな反応ではないか。
「……と、土蜘蛛への憎悪を過去のものだと主張しているのが、無理に無関心を装っているようにも思えましたので、監視対象に残しました」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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