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空など飛べないと刑事は言った 5-2

 電車を降りて家へ向かう。相変わらず何かが悪意を持って自分をつけている気がしてならない。全部妄想なのに。なぜ自分はあのストーカー以来、何をやっても駄目になってしまったのだろう?

 重荷を背負ったものは来なさい。私が背負ってあげよう(聖書)

 初めて気になった。小さな教会には似合わない大きな看板。
 しばらく眺めていたが、ご自由にお入りくださいという文を見つけると、一、二度あたりを見回してからフランボアは小さな黒い門の中に入った。
 すぐに前方から白いTシャツの男が姿を現した。携帯で小声で話す。
「……自宅より三百メートルほど手前の教会に入りました。……了解」

                 ※

〈とあるネット掲示板〉
 名探偵さん 最近の警察ヤバくない?
       この間S公園で女の子が殺された事件、その後全然報道がないって
       思わない?
       聞いたんだけど、アレ、捕まったのが元警視庁の警官だからってか
       ばってるんだって。若い女のキャリアが口出してきてるとか。
       下手したらもみ消しだよ! 信じられる? 
 名刑事さん 何言ってんだよ! 元けーしちょーの犯罪者なんて転がってるぜ。
       現実をよく見る!(嘲笑)
 名探偵二さん 警官たってとっくに引退したジジイだろーが。
        傷負ってまでもみ消すかね?
 名検事さん そうそう。現役だって突き出される時は突き出されるんだよ。
       陰謀ネタはオカルト板で展開したら? 
       ユダヤ財閥とアラブ石油王の陰謀とか?
 名刑事二さん ユダヤとアラブって……呉越同舟(笑)

(なかなか上手くいかないなあ)
 パソコンモニターから目を反らし、冷えた麦茶を口元に運ぶ。
 墓場無力化プロジェクトは、警察ノーマークの月音と百太だけが行う筈だった。ところがフランボアが「自主的」に口コミ工作に従事し、百太と大喧嘩になった。月音にはよくわからないが、今までのことからすると、今度も百太が正しいのだろう。だがフランボアもこの暑い中わざわざ元気だなあ、と感心する。
 自分はずっと、クーラーの利いたこの部屋に隠っていたい。
 レースのカーテンの向こう、明るい真夏の空を見上げた。

                  ※

 教会は、思ったよりつまらなかった。
 正面に掲げられた十字架はともかく、その前の演壇も並んだ長椅子も、事務室か学校のように味気ない。一回りして帰ろうと思った時、奥からジャージ姿の男性が現れた。
「初めてですか?」
 彼が牧師だった。庭の手入れをしていたという。
「あの……表の看板に、主が重荷を背負ってくれるとか書いてあったんですけど、どうやって背負ってくれるんですか」
 牧師はにこにこと微笑んだ。
「実は主は、もうあなたの重荷を背負ってくださっているんです。後はそれに気付くだけなんですよ」
(馬鹿みたい! そんなの言葉遊びじゃない)
 アレより前に戻りたいけれど、戻れない。行き詰まり。
 あたしが背負ってきたのはこの重荷だ!!
「葛理さんは、どんな重荷を主に背負って欲しいんですか。よかったら、一緒に考えましょう」
「……」
 言えるわけない。女の子を殺しちゃった、なんて。
 黙ったままのはゆらにやがて牧師は祈りを勧めた。どうでもいい気分だったので、並んでベンチに座って目を閉じる。
「……今、心を痛めているであろう葛理はゆらさんに、よき導きをお与えください……」
 牧師の低く豊かな声が響き続ける。
 いつの間にかフランボアは真剣に祈っていた。すがる思いを祈りと言うのならば。
 数年来の友人のように牧師に手を振ってから教会を出た。
 陰をたどってTシャツの男が続いた。

                   ※

(彼が本当に土蜘蛛さんを陥れ、罪もない女の子を頭の形が変わるほどに惨殺した実行犯なのか)
 予備校の玄関から出た乙部が駅に向かう。ボーダーシャツの背中を見ながら、頓田は何度も自答した。
 ここ数日の印象でいえば、乙部は少し頼りなく、その分支え、見守ってやりたくなるごく普通の若者だった。妙な衣装で警察内をうろつき訳のわからない講釈を垂れる男子高校生なんぞより、余程! 「普通」だ。
(……)
 樹馬のような技術持ちや、妹亜のようなエリートなら、普通でなくてもいい。だが何一つ人より秀でたものもなく、それでも普通でないとしたら、どうすればいい?
 やはりあの時からか。
 それが徐々に自分の中に侵食し、遂に職場での行動をも支配するようになったのか。
 その代償が土蜘蛛の無罪だというのならー正直、割に合わないと思ってしまう。
 
 『追われる側は切羽詰まっている。気をつけろ!』

 刑事に成り立ての頃に教えられた。
 犯人を捕まえ損なっても刑事は死なないし、首にもならない。
 だが犯人は違う。平静を装っていても、ムショ入りか一般社会へ逃げ切るかの瀬戸際だ。何をするかわからない。
 今は自分のことどころではない、と乙部に続き電車に乗り込みながら、頓田は気を引き締め直した。もっと引き締めるべきだった、と後悔することになるのはまだ知らなかった。



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