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空など飛べないと刑事は言った 5-3

 嫌な予感がする。
 昨日、本庁の廊下で樹馬に呼び止められた。
『アンさんの回りで、変わったこととかないかい?』
 押収したメーリングリストの文面から、このグループが警察、とりわけ捜査相談室を何らかの形で攻撃しようとしているのではないか、と忠告してきたのだ。
 言い換えの暗号が使われているらしい一連の文章はリュンも読んだ。樹馬の危惧は杞憂とは思えなかったが、当の妹亜は、
『わたしたちは組織に守られてるのよ』
 と楽観的で取り合わない。
 頓田の出張中、捜査相談室にかかってきた短い電話。
 マルボウは流通繁栄新聞社を調べてくれているが、あの電話については未だ報告はない。目的がわからず、不気味だ。
 得体の知れない不安が沸き出して止まらない。
(俺なんかに出来ることは、「ご主人様」を守ることくらいだぜ)
 生まれ落ちた時から普通ではいられない境遇。「父母」も逝って、今も、これからも自分には何もない。だからこそ、そんな自分を引き取ったお人良しのご主人様には、何を賭けてでも報いる。
 それは「メイド」の義務。かつ男の仕事。
 あのひとを傷つけることは絶対にさせない!
 ガクン!
 電車はカーブで小さく揺れると駅に向けて減速にかかった。
 リュンはドアによりかかったまま頓田と乙部を眺めた。緑の布バッグを肩にかけた乙部の隣、一見ぼんやりしているようで全方向に目を光らせる頓田はさすがだ。
 昨日、頓田は尾行の可能性を妹亜に報告してきた。
『確証はありませんが、電車の中でも誰かに観察されていたような気がしまして』
 そこで妹亜は、乙部と警護の頓田二人を、さらにリュンが尾行するように頼んだのだ。
 駅に着き、乗客に押される中二人を見失わないように、でも目立たないようにと吊り革を握り腰をひねっててふんばる。呪文のように、
(さりげなく、さりげなく……ってオイ!)
 乙部に軽くぶつかったスーツの男が、何か彼のバッグに入れてから駅に降りて行った。
「泥棒っ!!」
 叫ぶと男が駆け出した。リュンも人を突き飛ばし閉まりかけのドアを突破してなんとかホームに降りた。振り返るとガラス窓の向こう、頓田が厳しい顔でこちらを見ている。
「カバンの中……!」
 仕草で示すとすぐに男を追った。本当は彼は何かを入れたのだが、泥棒と叫んだ方が人に捕まえてもらいやすい。フォローなら妹亜がしてくれる。
 すぐ目の前の広い階段を見下ろす、がいない。
(そんなはずはねえ。さっきのさっきだ)
 ホームを見回す。隠れられそうな所……向こうの売店の陰……いない。
「あのっ、この辺をスーツのサラリーマン風の男が通りませんでしたか」
「……そっちに行ったのがスーツの人だったような気が…」
「ありがとうございますっ!」
 戸惑い顔の店員に叫び返すと指された方向に向かい、もう一つの階段を見下ろす。
(居た!)
 ごくありふれた紺のスーツに黒い小さな鞄を持った男。奴だ! 
 普通の足取りで階段を降りきり、踊り場で曲がろうとしている。リュンも軽く足を速める程度でさりげなく追う。
 踊り場で曲がるとー男は走り出していた。
(ちきしょう!)
「待てぇっ! 泥棒っ!」
 ならばこちらも加減しない。改札窓口の駅員が驚いたように顔を出すが男はそのまま自動改札を駆け抜け、リュンも走る。
「泥棒っ! 捕まえてくれっ!」
 リュンが改札を抜けた時、男は横断歩道を渡り目の前のスーパーに飛び込んだ。点滅し出した歩行者信号をリュンも走り抜ける。だいぶ間を詰めてきた。相手は縦も横も自分より大柄ではない。乱闘になっても何とかなるだろう。向こうが武器を持っている可能性は考えないことにした。
(大丈夫。死ぬときは一瞬だぜ)
 あの時のように。

 スーパーに走り込むと姿が見えなかった。今度はあまりにも障害物が多い。胸で息を整えながらざっと店内を見回す。右手に通路があり、奥にトイレと階段があるようだ。今の今で隠れられるのはそちらだろう、と階段を見上げるーいない。少しだけ迷ってから左手の男子便所に踏み込む。誰もいない。個室も全部空いている。身を翻して階段を駆け昇り、二階の日用品売場に目を凝らして……いない。スーツ姿どころか、子どもと店員以外男の姿は見えない。
 売場を一周し肩で息をしながら階段を降りる。一階の食料品売場に戻り、客の流れに逆行してデリカ売場から肉、魚売場、青果方面へと回る。奴が客のふりをするなら流れにのるだろうから、見つけやすいようにだ。だがいない。それぞれの通路をくまなく回った頃には足の疲れを感じ始めていた。
(最近「回ってねえ」からな。運動不足か)
 小さく舌打ち。それでも足を引きずり、二階を今度は回り尽くす。
(ご主人様。逃がしました)
 そう報告するのが嫌でたまらず、それでも簡潔にメールを打つ。三階まで何度も回ってから収穫なく店を出た。
 駅の正面、公衆電話横の壁に寄りかかって妹亜に電話を入れる。
 自分が情けなくてならない。
 何がご主人様を守る! だ。男の一人も確保出来ずに。
『……気にしないで。頓ちゃんが次の駅で降りて乙部君のバッグ調べてくれたわ。その件も含めてリュン君の話を聞きたいの。職場に戻ってくれる?』
 疲れた。だから時間稼ぎのように捨て鉢に聞いた。
「ここから警視庁ってどう行けば近いんですかい?」
 目の前に見える駅名を告げる。
『さっきとは逆方向の電車に乗ってー』
 いつしか日が傾き、あたりがオレンジ色に染まっていく。うつむく自分が転んで怪我でもした小さなガキのように思えて、リュンはますます顔を伏せた。

 

(あいつはいったい何) 
 ジーンズ姿の彼は高校生くらいだろうか。足を引きずるように駅に向かうのを、百太はスーパー横のベンチに座って見送った。
 初めはただの「正義野郎」がスリと間違えて追ってきたのかと思った。途中で待ち伏せて、荷物チェックでもさせ「ほら何もないじゃないか」と謝罪させたら気分が良いだろうとちらりと考えた。
 だが後でがぶがぶのバックに入れたものが問題になったら、自分とそれが結びつけられてしまう。姿は見せないにこしたことがない。それでただ逃げた。
 スーパーに入るとすぐ、右手の従業員用出入り口から店のバックヤードに入った。かつてフランボアが、臨時販売員のアルバイトのせいでストーカーに目をつけられる羽目になった、と愚痴を書きまくった。その時、ショッピングセンターにスタッフとして入るやり方なども書いていたのを思い出したのだ。何でも使えるものだ、と自分で感心する。
 幸い店員に呼び止められることもなく着替えを済ませ、バッグや髪形も変えて何食わぬ顔で店へ戻った。カモフラージュにいくつか買物をし、先程とは違う出口から外へ出てぎょっとした。例の少年がまだそこに立っていたからだ。
 だが彼は、つま先を見るようにうつむいて電話をしていて、こちらには気がつかなかった。
『ここから警視庁ってどうやって行けば近いんですかい?』
(!)
 少年はすぐに電話を終え、とぼとぼと駅に向かう。暮れていく街の中、百太は冷や汗が流れ伝うのを感じた。
 彼は元々警察関係者に頼まれて、がぶがぶー本名が乙部なのは既に調べ済みだーと刑事を追っていたのだ。前日の尾行を気付かれていたらしいことも含め、自分の愚かさが不愉快になる。
 がぶがぶを割り出すのは簡単だった。
 以前掲示板を管理していた時抜いたIPアドレスで、予備校名はわかっている。専務夫人事件の起きた場所を考えれば、その予備校のどの校舎に通っているかも想像がつく。それだけでは見つけるのは容易ではないが、がぶがぶには、行き帰りに刑事がついているという並外れた特徴がある。利用しない手はない。
 仕事の合間を見て何日かあの予備校の玄関前を見張り、自販機前でうろうろしていた中年男を尾行して、誰ががぶがぶかを特定した。警察様々とせせら笑っていたが、ここは気持ちを引き締めなければならない。
 人生は勝ち続けるもの。自らの頭脳と気力だけを頼りに。
 アレがおそらく警察の手に渡ってしまった今、動くことが得策かどうかー
 スーパーのポリ袋片手に百太はしばらく考え続けた。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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