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ピンクのイルカが夢を見た 1-9

 講演会場はごく普通の公共ホール。
 参加者の多くはは若い社会人風で男女はほぼ半々。
 怪しい秘密結社を想像していた三人は拍子抜けした。
 内容もただの環境問題講演だった。海は人間の故郷であり人類繁栄の基盤でもある。それが今地球環境の悪化で危機に瀕している。私たちと一緒に海を汚す存在たちと闘おう!ーこれを押しつけがましく訴えただけだ。
 問題は―

 一つの話、一つの映像が終わる度に、左右から有人たちを挟んだスタッフらがにこやかにかつ根掘り葉掘り感想を尋ね、三人で話す隙を与えない。一言答えるとわたしはこう思う、こんなことも知っているとしゃべりまくられて、息つく暇すらない。
 会場ではビジターらしき人々は全て、胸に赤いリボンを付けた人間に付き添われ囲まれていた。つまり参加者の半分以上が実はスタッフ側ということだ。サクラだらけのコンサートと同じ、と後から慶が吐き捨てたがその通りだ。

 当日はその慶が、
『やっぱり環境って大事ですよね~、すごいですよね~』
 と口八丁で相手をし、単純に感心したらしい羽美子も熱っぽく語ってくれたおかげで、有人の出番はなくどうにかやり過ごすことが出来た。

「……典型的なカルトのやり方ですね。話し続けることで、自分の頭で考えることを許さないんです」
 梨々果は山のような本を無造作に床に崩して広げていた。至る所に鉛筆でラインが引かれ、メモらしき書き込みも多い。
「おまえ、すげえな。こういう変なグループとかに興味あるのか?」
「いいえ。調べ始めたのはついこの間です」
 まつみ先輩のことほっとけないから―小さくつぶやく。
(この子もそうなんだな)
 胸の奥が痛む。
「世界を巡る海流……。気になりますね」
「……?」
 十五秒後。
「まつみ先輩の置いてった、裏向きの世界地図」
「ああ」
 地模様の上に印刷された妙な地図のことを連想したらしいが有人は適当に聞き流した。

 「人魚の涙」―マーメイドティアーズ―は、二十年ほど前に環境運動家の日本人男性が創設した。母体となったのは「七大洋国際環境センター」。イルカや鯨の保護に日本人が興味を持たないのに絶望した男は、ある日海岸で人魚に遭遇したと言い、瞬く間にそこを宗教に変えた。
 マスコミの話題になったのは、国内どころか世界各国の海岸で「人魚様遭遇ツアー」なるイベントを行って度々もめ事を起こしたからだ。
「創始者の死後、現在の教祖、居軽《いかるの》・コーディリア・エマに代替わりしてからのことです。でも……初代教祖が純粋な環境運動家だった頃には、捕鯨船を太平洋上で乗っ取って海賊行為の疑いで逮捕されたりとか、かなり荒っぽいことをしてたんです。宗教団体になって、言ってることはまともじゃなくなりましたが、やることはむしろましになった感じです」
「何だよソレ」
 遠慮なく吹き出した。
 教団は秘密主義でも知られ、入信に際し嘘発見器でのチェックを行っていることも有名だ。とはいえ準会員には会費を払えば簡単になれるらしい。そこで準会員として潜入して中を探るかという話になるとー

『あたし嫌! 「人魚様ぁ~!」なんて言って海岸でへこへこ座り込んで頭着けてお祈りするの嫌だよぉ~!』
 講演が終わり逃げ込むように入ったハンバーガーショップ。内容には好意的だった羽美子もこれには両手を振り回して拒絶。慶の方は最初から相性が合わなかったらしく、勘弁してくれと苦く笑い飛ばした。
「塩矢先輩は、どう思いましたか?」
「何が?」
 十秒後。
「人魚の涙のこと」
「慶と同じだな」
 環境を守るのは大事だが、入会しなければ地球が滅びるとの「脅迫」は本能的に体が拒否した。
 例えば海流の深層回遊について。
 沈んだ海流は深層から大西洋を南下し、南極にそって東へ移動。徐々に上昇して北上し、最後に北太平洋にたどりつく。千年以上の年月をかけた動きが深層水の栄養分を地表に運び、海から陸へと生物の繁栄の基礎となるという。同時にこの回遊は暖流を北に運ぶ一方で熱帯地域の水温の上昇を抑え、気候を穏やかに保つ役割も果たす。
 地球温暖化で両極の氷が溶けると、水温が上昇し海水が深く沈み込めなくなる。すると海流が弱まって極地は凍り付き、熱帯は加熱。地球は人類の住み家にふさわしい場所ではなくなってしまい、
「今の文明は破滅だから海を守るのは義務だ、ってわめいてたよ」
 確かにそういう危険性はあるのだろう。けれど対抗する方法は、人魚の涙の信者になって、わけのわからないお祈りをすることだけなのか?
(そんなはずないよね)
 不愉快な押し付けがましさに、だからこそ、有人は準会員の入会手続きを取ったー

「先輩、危ないですよ!」
「なんでだ? 別にマフィアやヤクザに入るわけじゃねえし。今の教祖になってから違法行為はしてねえんだろ?」
 あの子が戻ってくるためなら何でもする。知っている。それはあの子のためじゃない。
「違法行為では挙げられてはいません」
 梨々香は一度視線をつま先に落としてから、顔を上げ直す。
「彼らは狡猾です。頭の中、作り替えられちゃいますよ」
 ミイラ取りがミイラになると言いたいらしい。
「もしオレがそうなったら、梨々香ちゃんがチェックしてくれ」
「は?」
 眼鏡の奥、きょとんと目を丸くする。珍しい顔に思わず微笑んだ。
「目を覚ませ~! って頭ぶん殴って教えてやってくれよ。いいだろ?」
 パン! 
 いきなり頭を左から右に叩かれた。あまり力は入っていないが。
(今やらなくても……)
「……そ! いざって時はそんな調子でな」
 自分の考えが何かに染められることなどないと信じている。だがもし染められてしまったら―きっと幸せだろう。
 過去にあったこと、将来のこと。
 今はどうしていいのかわからないこと。
 何かを信じられたらきっと楽になるに違いない。
「……えっと、この教団の信仰ってのは、結局人間はイルカに生まれ変わると良くて、人魚に生まれ変わるともっと救われる、でいいのか?」
 出来の悪い生徒にしてはまともな答え、とばかりに梨々果は顎でうなずいた。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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