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空など飛べないと刑事は言った 6-2

頓田はもう一度頭を下げる。
「警察は久仁和が狙われているのを知ってたんだろ! なのになんで守ってくれなかった! えっ?! この税金泥棒! 昨日の夜、警察はうちを見張っ
てたのか?! えっ? 何とか言ったらどうなんだよ!」
「昨夜乙部さん宅を警護している者は居ませんでした」
「あんたには聞いてない!」
 父が女に吐き捨てる。
「わたしは頓田の上司です。捜査相談室長の喜屋武と申します」
「キャンなんて変な名前ある筈ないだろ。ふざけるな!」
(父さん……)
 額を押さえたがぶがぶの前に、女は「喜屋武妹亜」と記された警察手帳を示した。
「祖父が沖縄出身ですので」
 まじまじと見るとすぐに突っ返す父。
「あんたが責任者か」
「そうです」
「じゃああんたがうちの女房を生き返らせてくれ」
「それは出来かねます」
 冷たく聞こえる口調、だががぶがぶは見た。妹亜の表情が小さくだがそれは痛ましく歪んだのを。
「出来かねますだとぉ……ふざけるなこの野郎っ!」
(野郎じゃなくって女の人だろ)
「乙部さん!」
 頓田が割って入る。
「おい、お前女房はいるか」
「はい」
「じゃあわかるだろ! 女房が殺されたのに落ち着いてられるかあっ!」
 もっともと頓田が頭を下げる。
「おいキャンとやら、あんたは亭主はいるのか」
「いえ、おりません」
 硬い響き。
「じゃ教えてやるよ! 男は女房に去られるとなあッ!」
 頓田が必死で上司を守る。
「父さん止めろよ」
 見かねて口を挟んだ。父の動きが止まる。
「それより、今日は何ですか。犯人、捕まったんですか」
 まだだと頓田が言い、またわめいた父を苦労してなだめる。と、頓田が自分の瞳を覗き込むのを感じた。途端に体中に恐怖が走る。この刑事は自分をどう思っているのか。
 と女が軽く腰をかがめて写真を見せた。
「これ……」
 茶と黒の包みのチョコレートクッキーが写っている。
 昨日予備校の帰り、電車の中で少年が「泥棒!」と叫んで追って行った後、頓田に鞄の中を確かめるよう言われた。見ると、予備校のラウンジに山積みにしてあった試供品のクッキーが入っていた。
 がぶがぶはこれを取った記憶はない。暑い中バッグの中で溶けたら嫌だと持ち帰らないことにした筈だったが、確かではない。
 あの時はまだ母も生きていて、家もあった。半日も経たずー
「昨日ご提供いただいたこれの結果が、鑑識から出ました」
 この女の人はよく通るいい声だ。だが今のような時はかえって神経に障る。父もそうではないだろうか。
「袋は一度開けたものを再度巧妙に接着剤で閉じています。クッキーの中にはハルシオン、つまり睡眠薬およそ五粒分を粉末にしたものが混入されていました」
(それって!)
 やっぱりおれが狙われたんだ!!
 ヤクザは自分が眠り込んだところで家に火を付けて確実に殺そうとしたー
「乙部君、大丈夫かい?」
 顔を覆ったがぶがぶに頓田が声をかける。
「今は無理かな。落ち着いたら、もう少し詳しく話を聞かせてください」
「当たり前だろうっ! お前らデリカシーってもんがないのかっ! こんな時にっ!」
「父さん止めろってば。ごめんなさい。後で行きますから、今は……」
 泣いてない。声が震えているだけだ。その証拠に涙は出ていないではないか。
 頓田と上司はそれぞれ頭を下げて去り、ヒールの音が書類棚の向こうに遠ざかっていく。
(ごめんなさい)
 自首するから。でも、もう少しだけ待ってください。
 参っている父さんに、自分がひどい犯罪者だということを、まだ知らせたくない。
(ごめんなさい……)
 公園の便所に叩き付けられ、頭から血を流していた女の子にー


 回想〈第二の殺人〉
 なるほど小学校へ向う階段の上から公園はよく見える。遊んでいた子どもたちが一人、二人と姿を消し、最後に幼稚園生くらいの女児が残ることも。
 がぶがぶはスーツケースを抱えて素早く階段を降りると公園に入り、あたりを見回した。
 砂場でしゃがみこんで何か作っている女児以外誰もいない。上からも誰も見ていない。
「っっ!」
 女児の口を押えると、力で公衆便所へひきずり込む。思ったより重い。髪を掴むとむやみやたらに個室の壁にぶつけた。
「んんっ……痛………ひゃあ……」
 なかなか静かにならない。頭の後ろの形はおかしくなりかけているのに、まだ泣き声が出る。腹立ちのままに持ち上げると床に叩き付けた。
「うん……」
 涙の残る顔が二、三度痙攣する。まだ動く。
 怒りが喉まで吹き上がり、もう一度首腕を掴んで壁に叩き付けた。
 やっと動かなくなった子どもから力を放すと、白い和式便器にぶつかって音を立てた。
 怒りは今や頭に達し目の前が真っ赤になる。女児の服をめくり下着を脱がせる。途端、がぶかぶが憑物が落ちたようになった。
(おれはロリコンじゃないんだな)
 人形のような足を見ながらひとりごちる。
 クリーニング袋に小さな体を入れると、スーツケースに放り込んで、公園が無人であることを確認してからがぶがぶは便所を出た。
 アスファルトの道をごろごろとスーツケースを引いて歩く。重くて腕が疲れるのがまた腹が立つ。裏の小道を入り、指定された庭でケースを開いて女児を静かに放り出す。
「……今日の投手陣についてはいかがですか?」
 建て売り住宅の窓には薄いカーテンが揺れ、野球番組らしい音声が聞こえる。一度きっとそちらをにらむと、今度は音を立てぬようスーツケースを持ち上げて足を戻した。
 バスと電車を乗り継ぎその日のうちにレンタルショップにケースを返すと、予備校の自習室に戻る。全て現実に起こったことのようには思えなかった。
 蒸し暑い中でも勉強しなくてはならないことだけが、現実だった。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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