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空など飛べないと刑事は言った 6-4

「頓田さんについては、出向を解除した上で、あすみちゃん事件の捜査本部に引き取ってもらえるように山浦さんと交渉してる。わたしだけじゃ力不足だから、上に手を回して頼んであるから」
 微笑んだ拍子に黒い髪が頬を叩く。
「心配しないで。頓田さん、あなたに傷は負わせない」
「……お心使い感謝します」
 深々と頭を下げる。全く期待していないが。
 妹亜はしょせんまだ幹部「候補生」。一方こちらは長年の刑事稼業、多少の人脈は無いこともない。(お偉いさんへのルートが全く無いのが自分らしいというか、自分の限界というかだが)
 ここまで来てしまったのだから、自力で最後まであがこう。
 やはり空など飛べないと思い知らされたとしても。いや。
「ただ、あまりお気を使い過ぎませんように」
 妹亜は表情も変えずに横を向き、頓田は思う。
 空を翔る翼より事件を読む頭脳よりも、今は、この娘を力づける言葉が欲しい。


 パソコンで上に上げる書類ー頓田が思うに始末書の類ーを作り始めた妹亜の横で、樹馬がメール捜査の現状について説明した。
 乙部が参加していたメーリングリストは『三月うさぎの試食会』と称していて、
「メンバーは全部で五名。乙部君と葛理以外の二名については、プロバイダーに問合せて身元が割れました。一人が長野の農家で、もう一人は愛知の会社員」
 捜査本部経由で今朝、それぞれの県警に捜査協力を依頼したという。
「それってクレジットカードの名義人が割れたってことですかい?」
「え? あ、そうだね。各プロバイダーの料金を支払っているカードの持ち主が、ってこと」
「なら、実際に使っている人物はまだ判明していないと?」
「その通り! どっちもメールの文面が若いから、カードの名義人じゃなくて家族の誰かじゃないかって……その辺も刑事さんが調べるみたいだけどね」
 メーリングリストメンバーの残る一人だけは、未だに謎に包まれていた。
「リストの管理者だと思われる人物なんですが、その都度課金されるプロバイダーからネットに接続していて、通常ルートでは身元が割り出せないんです。接続元も二十三区内至る所の公衆電話からで、地域の特定も出来ていません」
「都内ではあるんですね」
「そうだね。今うちでネット上の痕跡をたどる作業を進めていますが、目処は立っていません。頭のいい奴ですよこいつ!」
「警察がこんな風に跡をたどるなんてお見通しってことですかい?」
 樹馬がちらりと妹亜を見てから深刻そうにうなづきリュンが考え込んだ時、
 バタン!
 ドアが開くと若い女性警官がいきなり妹亜の前へ突進してきた。
「喜屋武警視! 『早生まれ撲滅連盟』から電話で、うち手が離せないんでちょっと相手してもらえま…」
「うちも今本業で死んでます!!」
 太字ゴシック活字サイズ二ランク上くらいの妹亜の叫びが響き、女性は初めて室内の空気に気付いたらしい。ではども、など言いつつうって変わって獲物に近づく猟師のような静かな足取りで捜査相談室を出ていった。
「広報課のマミちゃんだ。タイミングが悪すぎたな」
 説明を兼ね、固まっている樹馬に苦笑してみせる。しばらくして。
「……『早生まれ撲滅連盟』って何ですか」
「さあ」
「早生まれは能力が劣るので二級市民とみなすべきだと主張して、警察も早生まれの人間は採用すべきでないとしつこく訴えてくる社会運動グループです」
 リュンがさらりと説明する。
 どこか間の抜けた顔の男三人に目もくれず、妹亜が文書を打つ音が室内に響いた。

                ※

(殺せなかったか)
 百太はニュースチェックを続けていた。
 深夜がぶがぶの自宅前を車で流した。住宅メーカーのサイトから、同型の建売住宅の図面も手に入れた。間取りとカーテンの様子から二階が子どもの部屋だと見当を付け、遅くまで電気が点いている道路側の部屋が受験生のがぶがぶの居場所だと決め付けたが、宵っぱりの大学生の方だったらしい。
 とはいえあの馬鹿のパソコンは燃え、もう中を見ることは出来ない。
 予備校のパソコンはサーバーがどこにあるのかわからず、手当たり次第に火を点けまくる訳にもいかないから、放置するしかない。
 ターゲットは殺し損なったがその母親は焼死、兄が重体だという。どうでもいい。
 初めて人を殺したが、罪悪感は全くわかない。
 少し前に届いた「怪盗カルビ」名義のメールを見る。

「お前が何をしたか知っているぞ。極悪な殺人者め。
『三月うさぎの試食会』など気取っているが、実際はお前に操られた無知で哀れな若者たちの集団に過ぎない。
 首謀者はお前だ!
 今度お前がネットに繋ぐなら、わたしはすぐさま逆探知し、警察に密告する。
 それが嫌なら大人しく金の準備をして、次の連絡を待て
                   怪盗カルビは正義の味方」

(馬鹿馬鹿しい。脅迫ならもっと上手くやるんですね、シュミットさん)
 送り主のアドレスは見知らぬフリーメール。だがヘッダをたどると、かつてのシュミットからのメールと非常に似たルートで、自分の元へ届いていることがわかった。
 IT技術はわからない自分でも、ヘッダ情報程度なら、メールソフトを操るだけで確認出来るのだ。
(それに、私がMLを牛耳っていることを看破しているのは、あなたぐらいでしょうしね。殺人教唆に加えて脅迫罪も欲しいんですか。貪欲な人だ)
 唇を歪めて笑む。
 とはいえ月音が心配していたーいつもながら落ち着いてはいるがーので、新しく作った捨てアドからメールを送った。

「ご心配なく。怪盗カルビの正体はほとんどわかっています。
 証拠を掴んだら、月音さんにもお話ししますね。
 それよりも注意しなければならないことがあります。
 どういうわけか墓場の害虫が素人の少年をスパイに使っているようです。
 くれぐれも警戒してくれたまえ。

 ・年齢 高校生くらい
 ・体格 身長は百七十五程度 やせても太ってもいない普通体型」

 そして、あの時少年の持った電話から響いたのは女の声。
 室長の喜屋武妹亜とやらだろうか。雑誌記事も出た今、どれほど慌てているか。
 小気味よさに笑い声を殺すのに苦労する。
 高くよく響く女の声はこう聞こえたー

「・名前 リュウまたはリュン」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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