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空など飛べないと刑事は言った 6-5

 あれは何日前のことだったか。

『めいど~! わたしもオレンジジュースがいいー!』
『ダイエットしてるんでしょう? だったら野菜ジュースの方が……』
『説教臭いドリンクは嫌ー』

 気まぐれな者、汝の名は女なりーと呟きつつ、予備校で入手した試供品の缶ジュースを手渡した。
 乙部の「警護」を開始して二日目、そして昨日が最終予定の七日目だったから、五日前か?
 たった五日前。
 妹亜は家でも仕事場でも無邪気な笑顔を見せていた。
 それより、もう少し前。

『やっぱスーパーはいいわよね!』
 年不相応な夢見る少女の視線が、リビングの白い天井を彷徨う。 
『スーツのズボンの上にエプロン!! 今日はまた、ぷりっぷりの可愛いお尻の子が、緑のエプロンしててさー』
 時々仕事帰りに妹亜がスーパーに寄るのは、エプロン姿の男性を観賞して萌えを補給したいからー本人曰く。
 セクハラ親父的な目的のために買われた総菜に手を加え、見映え良く白い皿に載せてテーブルに出す。異次元を旅する妹亜にリュンはわざとらしくため息をつき、彼女は淡々と無視。
 儀式のようにお決まりの、そして平穏な日常。
 あれは、頓田と一緒に専務夫人事件目撃場所の喫茶店に行く前日だ。
 翌日頓田が乙部久仁和を見つけ、警護一週間に一区切りが付いた昨日!

 樹馬は注意してくれた。妹亜にもある程度覚悟があったようだ。
 なのに自分は甘く構えていてー
(俺があの男を捕まえていれば!)
 乙部のバッグに睡眠薬入りの菓子を入れ、姿を消したあいつこそ、乙部の家に放火した犯人、または共犯。そしてあすみちゃんや専務夫人殺人の「関係者」だ!


『めいど。明日から一週間夏休みあげるわ』
 昼過ぎに一通り聴取が済むと、リュンだけを捜査相談室に残して妹亜は言った。
『警視庁への出勤も、家事も全部しなくてよし! 旅行とか行きたいなら予算相談にのるから、後でメールして』
『こういう時こそ、力になりたいんですがね』
 いつも通りの無愛想な声。だからと言って、本音だと妹亜がわからないことはないだろう。
『一人になりたいの』
『…昼間ご主人様がいない時に、ちょっとばかり仕事するのは駄目ですかな? 掃除とか』
『いつうちに帰って泣いてるかわからないから』
『…………』

 一人になりたい時があるのはわかる。それほどガキではない。だが、一週間も?
 家族、ではない。それでもこんな時こそ、近くで掃除でも料理でもしたいのに。
(ご主人様。俺では力になれないんですかい?)


 「鳳羽か。今日は空いてないぞ」
 体育教官室に、その生徒はのそっと入ってきた。
 失礼しました、とくるりと身をかえすのに教師は笑う。
「嘘だよ。バスケ部が来るのは後一時間後、だな」
 それまで使っていいと教える。
「ありがとうございます」
 ごぜえます、に近い発音で鳳羽リュンは頭を下げた。
「どうした?」
「いつもよりたくさん回りたい気分でしてね」
「……ふん。あ、その前に例のことく体育倉庫の掃除頼むな。お前ホントに掃除上手いから。女だった良い嫁さんになれるのになあ」
「うれしくはありませんな。俺は男ですから」
 唇を歪めたのはクールに笑ったつもりなのだろうが、今日は失敗だ、と教師は思った。

 
 半時間後。掃除を済ませた体育倉庫で着替えた後、誰もいない体育館に進み出る。
 自らの胸を腕で抱き、深く礼をしてー
 両腕を広げて、ゆっくりとリュンは回り始めた。
 右手を上に、左手を下に向け、だんだんと速度を速めて回転は続く。
 くるくるくるくる、くるくるくるくる…………

「確かにいつもより多く回ってるわな」
 体育教官室の窓から体育館を見下ろして教師が言う。
「二Cの鳳羽か。あいつ何か部活やってましたっけ?」
「いいや。確か文化系のクラブだ」
 それも籍を置いてるだけで事実上は自宅部、ともう一人の体育教官に告げる。
「勿体ない、あの足腰の良さで」
 体育大を出たばかりの若い教官は口笛を吹いた。
「あいつ中学の時に『例の』事故で両親ともなくしちまっただろ。今は他人の飯食ってて、家のことをしなきゃならないから、部活は出来ないんだってさ」
「保護者なら部活くらいさせられないんですかね!……ところであの服は何、っ、くっ!」
「どうした?!」
「目が回る」
 若い教官はがたりと窓の下に崩れ込んだ。

 およそ十五分後。
 徐々に回転のスピードを落として止まったリュンは、最後に右手で左肩、左手で右肩をいとおしむように抱き、ゆっくりと頭を下げる。
 何も考えない。
 ご主人様のことも、逃がしたスーツ野郎や交換殺人についても。
 頭を上げて、一歩下る。
「!」
 その時、リュンの頭に一つの考えが飛び込んできた。
 慌てて外へ足を速め、体育教官室にプレーヤーを返す。
「ありがとうございました!」
「ちょっと待て鳳羽。お前、その格好で外へ出る気か」
 リュンは白い体操着の上に、メイド服用の黒いワンピースを被っていた。「そちら」方面に知識のない教師は、民族衣装か何かだと思ったのだがー
「男には、恥をかくことも必要なんですぜ」
 澄まして言いつつさっと足元に落し脱ぎ風のように出て行く。
「……素直じゃねえな」
 笑う教師の足元、もう一人がやっと額を押さえて起き出した。


 校舎から校門へ向かう並木道。蝉の鳴き声の嵐の中、リュンは緊張した表情で携帯を手にした。
(ご主人様。せっかくの機会だったのに、納豆ディナー喰い損ないましたな……)



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