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空など飛べないと刑事は言った 7-1

 午後以降別命あるまで自宅待機、と妹亜に命じられた。
 その足で頓田は所属署へ向かい、上司に現況を報告する。
「喜屋武室長は、私が幼女殺人事件の捜査本部へ移るのが適当だと考えているようですが、どうなるかはわかりません」
 人手不足の刑事課で、出向し続けるのが都合が良い訳はない。あからさまな不満顔に頭を下げてから、今度は別の署の同僚に連絡を取る。飲みの約束を取り付けてから、頓田はやっと家へ足を向けた。
 慣れた電車に乗ると、急に気が緩んだ。同時に体中、手、脚、胴の下部という下部に鉛が沈んだような疲れを感じた。
 これが自分だ。
 自宅でビールでも飲みながら、娘たちの果てのないおしゃべりを聞くとはなしに聞き、サッカー中継を流すテレビの横で居眠りをして女房に説教される。
 そして少しのため息と共に出勤し、一つの物証が事件と関係ないことを明らかにする一瞬のために遠方へ往復し、誰も聞いていないかもしれない悲鳴を求めて数百件の家々を訪問する。
 少し笑い、少し不機嫌になり、変わらなく見える日々を重ねる。その間少しずつ娘たちは成長し、自分は老いていく。
 夢から覚めたような、または中空から地に落されたような気分だった。
 ごく普通の毎日。平凡な、分別盛りの男。
 これでいいーそうか?
 耳をかすめる典雅な旋律。わかっている、空耳だ。
 軽くリズミカルな音楽。 
 電車内に響き、向かいに座る初老の女が眉をひそめる。
 今度は空耳ではない。軽快なドリーブの旋律は、職場を出た時、習慣的にマナーモードを解除した携帯の呼出しだった。


 感嘆した。
 リュンからの電話で頓田が同行したのは、昨日、乙部の鞄に睡眠薬クッキーを落とした男が飛び込んだ駅前のスーパーマーケットだ。
 リュンが予想した通り、従業員入口の警備員たちは、怪しい者は通らなかったと言った。今朝、別の刑事にも証言済みだと。
 ところがバックヤード、つまり店舗後方の作業場を歩くと事態は変わった。三人の店員がスーツの男を見かけたという。服装からどこか取引先の人間だと思い込んだため、怪しみもしなかった。
 彼らが男を見た場所をつなぐと、その先に従業員便所があった。
「さすがですな。警察手帳があるとすぐ割れる」
「……私は警察手帳の付属品かね」
 軽い嫌味にリュンは無表情を装う。どう見ても未成年の彼に警備員たちが妙な顔をしたので、目撃者なので確認させる必要が、と理屈を付けて同行させたのだが。

『ご主人様にはお暇をとらされてますんで』

 と直接頓田の携帯に連絡し、リュンはスーパーの調査を提言した。それが当たりだったことに頓田は背筋が寒くなるほど感嘆したのだが、目の前の生意気さには褒める気も失せる。
(……結局、私が人間が出来てないだけか)
「鑑識を呼ぼう」
 掃除済の従業員便所にはろくな証拠は残っていないだろうにしても。
「……奴は店に入ってすぐの右手のドアから、従業員用のバックヤードに入った。そのまま奥に進んで、このトイレで着替えて何食わぬ顔で逃亡したってわけだな」
「済みません。あの時、気付いていれば」
「いや。午前中に来た刑事も、売場での目撃者を尋ねるだけで終わったって言ってただろう? 気付いたんだからたいしたものだ。鳳羽君」
 言ってやれたが、リュンは唇を噛むだけだった。
「……俺がついてながら、ご主人様に……迷惑……かけてたまるもんか、もう」
 呟きは聞こえないふりで辺りを見渡す。
 素人の高校生が、そこまで思い詰めても仕方がない。
 解決しない事件は多く、犯人が捕まっても動機や手段が解明出来ないことは珍しくはない。
 だから、迷宮入りは仕方がないが、冤罪は許してはならない、と頓田は思う。
(これから、土蜘蛛さんはどうなる?)
 頓田本来の目標は、あすみちゃん事件の真犯人として、土蜘蛛以外の人間を挙げることだ。
 それには物証捜査と共に、土蜘蛛に怨恨を持つーと思われるー葛理はゆらと、彼女と「縁」がある専務夫人事件の目撃者・乙部久仁和を洗い尽す必要がある。これらは、今後も各捜査本部が続けるだろう。放火事件は捜査の流れを止めはしない。それどころか、より乙部周辺への追及を強めることとなる。
 ならば、自分が無駄にあがく必要はない。そうなのだがー
(それと放火の方の犯人の正体は?)
 乙部が怯えていた通り、真留留組関係者なのか?

「たいしたと言えば、スーツ姿なら取引先だと勘違いすることに気付いて実行した奴も、頭が良い男です」
「ああ」
 恵まれた頭脳を犯罪に使うなど許せない。
 こちらは恵まれてない頭を必死で使って、捜査をしているのに!
「頭が良いと言えば居ましたな。ML『三月うさぎの試食会』の管理者」
 意味あり気なリュンの視線。一瞬の眩暈の後、反射的に否定した。
「それは違う! 一人だけ、ネット上からも跡をたどれないように細心の注意を払う人間が、人前に姿を現して自ら手を下すような真似はしない筈だ」
 あのメーリングリストの居住地も様々な五人全員が両事件の犯人、の可能性はあるのか。それとも他の目的のグループの一部が、犯行に及んだのか。そして動機はー
「……口封じ。共犯者の」
「まさか」
 到着した鑑識と入れ替わりで退出をリュンに促す。
「待ってください!」
 強く腕が押えられた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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