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空など飛べないと刑事は言った 7-2

                 ※

「主よ、わが主よー♪」
 絵に描いたような清らかな響きが、フランボアを違和感でいらだたせた。
 簡素な礼拝堂の中、前方の十字架を睨み上げる。
(こんなもんじゃない)
 誘われて聖書の勉強会に参加した。だが回りは格好を付けて気取った善人ばかりだ。
 こんな賛美歌、馬鹿らしくて堪えられない。
 わたしは本当に救って欲しいのだ! なりふり構わず叫びたい。
(神様助けて! お願い助けて!!)
 
 後方に、賛美歌集片手にフランボアを注視している人物が居た。
                 
                 ※

 妨害者がいなくなった今、世界はシュミットの天下だった。
 皆が自分の言うことを聞き、何もかも思い通り! 
 それなのにどうして毎日不愉快なのだろう。

                  ※

 シュミットの裏切りを知った時、百太が感じた怒りは、実は自分へのものだった。
 こんな簡単なことも思いつけなかったのか、と。

 次が「三月うさぎの試食会」最後のプロジェクトだ。
 シュミット同様に逃げてもいいのだが、自分のプランを忠実に実行してくれた月音には、百太は報いてやりたい気がしていた。間もなく刑務所ーまたは少年院ーに落ち着く、はなむけ程度だとしても。
 掲示板を管理していた時にシュミットのIPアドレスも抜いてある。電力会社系プロバイダーのため地域は絞れ、女子中学生殺人で「ターゲット」を「殺し」て得をした人間、という条件から、正体は簡単に割り出せるだろう。
 自称「怪盗カルビ」に制裁を加えたいが、警察の方が手が早いかもしれない。このプロジェクト実行後、警察がもたついているようなら叩けばいい。
 放火とは違う、直接の殺害という未知の領域。新しい冒険に小さく心が踊る。 
 また別のーそしてすぐに使わなくなるー捨てアドから月音にメールした。

「ヴィクティムは、本当に君にとってどうでもいい人間なんだね」


「はい。どうでもいい奴です」

 即座に返事。
 ー自分なんて。
 呟きは月音の中だけに響いた。

                 ※

 あすみちゃん事件で土蜘蛛が逮捕されたのが始まりだった。
 アリバイなし、物証は制服の銀糸、動機は希薄で本人は一貫して犯行を否認。
 そしてそれより前に起こった、麗篭アミューズメント専務夫人事件。
 逮捕された大学生中丸はアリバイなし、物証は手袋に自転車の土と豊富、動機は見当たらず本人は犯行否認と同じパターン。こちらは既に送検された。
 この事件の目撃者、乙部久仁和は実は中丸と高校の同級生。
 土蜘蛛に恨みを持つであろううちの一人、葛理はゆらと知己。
 メールを交換し、同じメーリングリスト「三月うさぎの試食会」に所属していた。
 リュンや妹亜は「交換殺人」説を唱えたが、それは成り立っていない。
 乙部のあすみちゃん事件時のアリバイは確認出来ないが、福岡在住の葛理には、専務夫人を殺害して戻ることは不可能だからだ。
 対して以前の打合せでリュンは「トリプル殺人以上」の可能性を示唆し、樹馬に協力を要請していたー

「福岡県警からの報告ですが、最近、葛理は他県へ買物に行ったり、教会に出入りするようになる等、行動に変化が見られるそうです」

 リュンが呼び、樹馬が合流した捜査会議。彼の提案でカラオケボックス内で行われているが、落ち着けば悪くない場所だ。

「……それと、真留留組では昨晩、幹部の息がかかったレストランが投石を受けたそうで、ちょっとした騒ぎみたいですよ。専務夫人事件同様、敵対組織からの嫌がらせだ! と主張しているそうで」

 樹馬がさらさらと最新情報を横流しする。そして。

一、青森 被害者ー女性店員(二十三) 容疑者(逮捕)ー元恋人(二十五) 物証ー指紋付きのナイフ
二、長野 被害者ー女子中学生(十四) 容疑者(逮捕)ー元農協職員(六十七) 物証ー体液のついたタオル
三、東京 被害者ー流通産業省官僚(三十三) 容疑者ー本人(自殺)または氏名不詳 物証―今のところなし

 「トリプル殺人以上」の候補として、樹馬とリュンが探してきた事件だ。
 物証のおかげで犯人がすぐあがったものの、容疑者は否認、動機もない事件。
 樹馬が挙げたのが最初二つ、リュンは後者二件。つまり第二の長野の少女殺人は双方で挙げているが、温度差はあった。
「コレは動機、割とはっきりしてないかな? 逮捕された老人って、前から登下校で畑の前を行き来する女の子たちに、うるさいって文句を言ってたんだろう? あすみちゃん事件や専務夫人事件とは違うんじゃないかい?」
「動機と言うほどストレートに結び付いてますかな? 勝手に関連づけると真実が隠されちまいますぜ」
 言い回しには呆れるが、見解は頓田もリュンと同じだ。公園で遊んでいた子どもをうるさがっていた、という土蜘蛛の「動機」にそっくりで、背筋が寒くなる。
 頓田がそう指摘すると、アップルジュースのストローを弄びながらリュンがうなずいた。
「俺にはむしろ、青森の殺人は普通の事件に思えますがな。今の勤め先の女の人と結婚したくなった男が、前の女を始末したってことでしょう。陳腐な話じゃないですかい?」
「うーん? 僕にはこっちを火曜サスペンス劇場と決めつける方が危ない気がするんだけど。今の彼女も被害者の存在は知ってて、障害にはなってなかったって話だよ?」
 これもリュンと同意見だ。
 だが次はいただけない。
「流通産業省の人が殺されたのって、犯人が捕まってないどころか証拠も挙がってないんだろう? これってその、悪いんだけど、条件に合ってるとは全然思えないんだけど」
 窓と林檎ぐらい違う、と呟く樹馬に今度は頓田もうなずいた。それらがコンピューターOSの比喩だとは気付いていなかったが。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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