TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 7-3TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 7-3

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 7-3

「これは失敗ケースじゃねえかと思うんですよ。本来容疑者は被害者のお役人さん自身、イコール自殺、とする筈が何らかの理由でーおそらく被害者の激しい抵抗からでしょうな。部屋の荒れがカムフラージュでは隠せなかったそうですからー失敗したんです」
 自殺偽装は、物証と用意された容疑者の両方に当たると主張したが、少々無理ではと頓田は思う。
「……そういえば、この被害者ってアンさんの大学の先輩に当たるんですよね」
「ご主人様には聞いたんですがね。入学した時に卒業した代だから全然知らないそうです」
 勿体ぶって腕を組んでリュンが続ける。
「このお役人さん、賄賂をもらった疑いを掛けられてたけれど、どうも無罪らしいじゃないですかい? 多分この人が潔白になるのが嫌な人がいて、そいつが他の事件の真犯人たちと組んで、殺しのヴィクティムに選んだんでしょう」
「え、なんだって?!」
「升形様?」
 樹馬があげた高い声にリュンが首を傾げる。頓田も思わず彼を凝視した。
「ヴィクティムって、えーと……僕英語弱いんだよな。受験終わった途端忘れちゃってさ……。リュン君はよく外国に行ってて得意なんだよね」
 それ程ではないとかわしてから返す。
「victim」
 なる程綺麗な発音だ。
「俺は『犠牲者』という意味で使いましたが。何ですかい?」
「……この間見た乙部君のメールの中に、何だかよくわからない使い方でその言葉が出てきてた気がするんだ……。例のメーリングリスト宛のメールだったと思うんだけど」
「それ、戻ったら確認していただけますか」
「鳳羽君」
 たまりかねて口を出した。
「忘れてないだろうな。捜査相談室には業務中止命令が出ているんだ。升形君が私たちと仕事をしているのは、そもそも不味いんだぞ」
 そうそう、とうなずく樹馬は能天気なにこにこ顔だ。
「升形君と喜屋武警視の仲が良いことは、ある程度は知られているだろうしな」
「えっと僕、アンさんと仲良く見えます? そうかな、えへへ」
(……今はそんな話ではないんだが)
「それに升形君は、IT捜査隊の方で元々たくさん仕事を抱えているんだ。その上に注文を付けるのは酷なんだぞ」
 何とか続けた。
「……済みません」
 ぺこん、と謝ったリュンに仕事山積みエベレスト級! と頭を掻きながらも樹馬は言い切った。
「構わないって! 鳳羽君の提案はアンさんのご指示と一緒だからね!」
(それがまずいんだっ!!)
 二の句が継げない。リュンも心なしかげんなりと樹馬を眺める。
 だが、今こうしてここに三人で居ることを、妹亜のために心強く思った。
 そしてもうすぐ自分が離脱することを薄紙が剥がれるように寂しく感じた。

                ※

 それにしても暑い。太陽は自分を焼き尽くそうとでもいうのか。
 鬘の下から額に、じんわりと汗が下りるのを感じる。
(まずいな)
 百太はひとりごちる。
 汗からは血液型が判明する。また温度が高いと新陳代謝が盛んになり、毛髪や皮膚の角質等も落ちやすい。現場で証拠になりかねない。
 車は使わず変装姿で電車で移動した。昨日と違うのは伊達眼鏡だけだ。
 時間は余りにも少ない。
 昨日の失敗のおかげで、警察は放火のターゲットががぶがぶだと推測するだろう。そこからパソコンでの交友関係を調べるまでに何週間か掛かるかもしれないし、最悪、昨夜にも着手しているかもしれない。
 予備校のアドレスから「三月うさぎの試食会」を発見し、自分以外の各ユーザーを割り出すまでには、今までの事件報道から見て二日程度。実際にはニュースになる前に判明しているのだから、猶予は一日だ。明日には持ち越せない。そのため無理矢理仕事を空けた。
 雑誌の件でのゴリ押しはかなり反感をかったようで、後で何を書かれるかわからないが、背に腹は変えられない。今朝迄月音と頻繁にメールをやり取りし、急いで彼のためのプランを完成させた。
 四桁の暗証番号を入れると、マンションの正面ドアは小さな音とともに解除された。
 最上階からなおも階段を昇り、教えられた通り配水管陰の凹みに小さな鍵を見つける。壁に取りついたコの字の金属ステップを上がって天井ハッチの鍵を開けると、マンションの屋上に這い上がった。
 眩し過ぎる日差し。百太はもう一度暑さを呪った。

 回りのマンションはこの建物より低く姿は目立ちそうにないが、それでも百太は身をかがめ、隅を回って歩く。目的の機械室前に横たわった人影が見えた。月音が「下ごしらえ」してくれたヴィクティム《犠牲者》だ。
 手先が震えている。
(こんな時に、恐怖心が出たか……)
 何を恐れている?
 百太は半眼で自分の中を探る。
 罪悪感は、無いようだ。後は……失敗するかもしれない、という不安か。
(大丈夫。大丈夫だ)
 多方面何重もの安全策を取ってある。その全てを頭の中で軽くさらうと、胸の奥は先程とは違う静けさで占められていた。手先も暖かく、もう震えない。
 自分はまだこれほど軟弱だったのか。正直不愉快だ。
 今後より自身を鍛える必要があると、百太は新たに決意した。
 自分は、強い精神と優れた頭脳によって人生に勝ち続ける。幸せになるために。
 人間は、皆幸福になる権利があるのだ!
 では「三月うさぎの試食会」のヴィクティム、専務夫人や女の子たちの権利は?ー人間、努力しないならば喰い殺されても仕方がない。
(ならば……)
 力の限りに抵抗し、あの月音に自殺偽装を失敗させたかの男は?
 傷付けられながらも月音に説教までしたらしい。彼が努力しなかったとは言えない。
(あの人は、負けただけだ)
 百太はフッと微笑む。
 適切なプランと実行力がなければ、生き抜くことはおぼつかない。それだけだ。
 学生の頃、手に入ると思ったものがすり抜けた時、自分が悲劇の主人公であるかのように嘆き狂ったことがあった。今思うとなんて甘ったれだったのか。
 あの時自分は、棚からぼたもちが落ちてこないことに呆然としていたのだ。世間の人間が結果を得るためにどれほど努力しているか、百太はまだ知らなかった。それから自分も努力を重ね、それが本性となった。一つの頂を征服するごとに、前に得た結果は幼く、馬鹿らしく見える。
 これからも勝ち続けるためにー今、ナイフを持つ。
 機械室の前、給水塔横のわずかな日陰に、手足と目の回りに白い布を巻かれた若い男が転がされていた。
 何も感じない。
 血除けにビニルのレインコートを付ける。ナイフを両手で握ると男の首めがけて振り下ろした。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。