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空など飛べないと刑事は言った 8-1

『何々したいなあ~、と思っているだけでは駄目です。本当に実現したいこと、それはあなたの夢です。夢ははかなく消えるものではく、この手で掴み取るものです。
 今までに、自分に大きなプレゼントを贈ったことはありますか?
 人生の夢! それは最高のプレゼントです。
 もっと自分を大切にしてあげてください。
 自分を大事にすることはエゴなんかじゃない! 不道徳でも悪いことでもない。そういう考え方は古い堅っ苦しい社会があなたを縛る、呪いなんです。そんなものには力も、本当は実態すらないんですから。
 さあ、鎖を外して歩き出しましょう! 
 夢はなぜ今は叶っていないんですか? 何かが足りないからですね。お金、資格……それとも生活環境? では、足りないものを自分に与えてあげましょう。簡単でしょう? さあ、プランを立てましょう!
 必要なのは何ですか? 多過ぎてわからない? それならステップに分解すればいいんです。語学の例でいうとTOEICの七百点が最初で、次が八百点、最後に目標の満点へと進む感じです。この時、いつまでに目標を獲得するか、デッドラインを決めましょう。この「デッドラインを切る」ことこそがビジネスでは不可欠なんです! 注意してくださいね』

 テレビから流れる音声を聞きながらリュンは着替えていた。
 「計画」なら頭の中にある。そろそろご主人様の部屋の電燈の笠を拭きたい。ついでだから棚の上も掃除して、必要なら入れ替えの提案をしよう。
(夏だというのに暑苦しいじゃないですかい)
 だが、「ご主人様」は一人になりたがってる。

『宿題でもしてなさい』

 妹亜に言われたが、夏休みの宿題などほとんど終わっている。
 皆と同じようにリュンも休みの最初に宿題をこなす計画を立てる。ところがもう少し先までやれる、まだやれる、とどんどん先に進み、気が付くと八月初めには宿題は終わるのが常だった。親が生きていて公演旅行に同行していた頃もそうーいや、しばしば環境が変わるからこそ、やれる時にやってしまうタチになったのかもしれない。
(計画なんて、始めの合図みたいなもんでさ。男がことを実行する時には、そんなものには縛られないんだぜ)
 将来の「夢」などない。
 頼れる身寄りのいない自分は、一生下積みの人生を送るだろう。世の中の仕組みがわからないほど、リュンは子どもではない。
 運命なんて、不公平なのが当たり前。
 同じ下積みならいい人間の下で働きたい。今は「ご主人様」に恵まれている。十分だ。この生活を出来る限りに味わいたい。
 バニエを付け、袖とスカートの裾を引いて整える。
 いつ何時気が変わって、妹亜が呼び出しをかけてきてもいいようにー
 自分の胸を抱くようにして頭を下げた後、両手を広げてリュンはゆっくりと回り始めた。
 クーラーの低い音が響く中、リュンの旋回は、腕で机上の辞書や参考書を叩き落としてしまうまで数分間続いた。

                   ※

『……いつまでに目標を獲得するか、デッドラインを決めましょう。この『デッドラインを切る』ことこそがビジネスでは不可欠なんです! 注意してくださいね! 
 目標を達成するべき日から逆算してプランを立てましょう。
 方法は自由です。語学の例なら学校に通うか、通信教育か、ランゲージ・エクスチェンジか。一番あなたに向いた、あなた色のプランを立てて楽しみましょう。
 立派なプランに満足してしまっては駄目ですよ。実行してこそ意味があります。そして定期的にどのくらい目標を達成出来ているか、チェックをしましょう。プラン→実行→チェック→よりベターなプラン、この繰り返しであなたの夢は叶うんです!』

 電器店店頭のテレビから声が流れている。
 「計画」なんて考えたことはなかった。ただ目の前の仕事をするのが楽しかった。あの頃フランボアは社会人一年生で、覚えなければならないことも多かったけれど、身に付いていく感覚自体が喜びだった。
 あれはみんな嘘。もう戻らない。何で?
 「夢」どころじゃない。助けて、誰か。
(付けられてる?!)
 フランボアはさっと振り返った。
 駅前通りには青いシャツの女とスーツのサラリーマン、キャラクターものの肩掛けカバンを下げた子ども二人……。
「葛理さん!」
 ぎょっとした。
「あ、えっと……」
 この顔は知っている。確か教会の信者だ。
「……あの、あたしのこと付けてました?」
「まさか! 今、お見かけしたんで声をかけたんですよ」
 そう、と半身振り向く。誰もいない、筈だが。
 中年女は構わず駅へ向かうフランボアの横に足を並べた。
「他の姉妹と話してたんですよ。葛理さんってすごい信仰をお持ちだなあって」
「いえそんな、まだ、あたし洗礼も受けてないですし」
 うれしくない。恵まれた人間が遊びでやっているような信仰など薄くて付き合いきれない。聖書講座ももう飽きた。
(教会も、わたしの居場所じゃない)
「葛理さん。あなたじゃあの教会は物足りないんじゃないかしら」
 動きが止まる。
「やはりそうでしょう」

                   ※

『……プラン→実行→チェック→よりベターなプラン、この繰り返しであなたの夢は叶うんです! 資金不足なら計画的なアルバイトで貯めればいい。学歴が必要ならいつからでも大学に行けばいい。私だって、英文科でも何でもない短大を出て、結局は合衆国でMBAを取ったんです。 
 出来ない、というのは怠け者の言い訳です! 
 今の自分に足りないものを与えさえすれば、必ず夢は叶います。
 その日あなたは、幸せになれます!』

 偉そうに、とシュミットは冷たくテレビの中の演説を見下す。夢は叶ったが不愉快な自分は何だというのだ。
「また殺人か。もう忘れたいのに」
 窓の外には風に揺れる一面の緑。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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