TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 8-2TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 8-2

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 8-2

                  ※

『出来ない、というのは怠け者の言い訳です! 
 今の自分に足りないものを与えさえすれば、必ず夢は叶います。
 その日あなたは、幸せになれます!
 さあ、わくわくする毎日のためにーあなたのやりたいことは何ですか?!』

 客室のソファーでテレビを見ていた。
 先ほどまで隣に居た父はお金絡みらしい打ち合わせで出て行き、がぶがぶだけが、セピア色の壁のホテルの部屋に残っている。
「やりたいこと……自首したい……」
 もうこんな嘘は、間違いは止めにしたい。
 元警官のじいさんは人を殺してなんかいない。殺したのはおれだ。
 なのに二晩たった今も、まだ自首していない。何が足りないのか?
「……父さんが悲しむから」
 足りないものを自分に与えてやるには?
「父さんが悲しまなくなればいいんだから…………」
 しばらく考えて。
「…………そんなの、ない」
 テレビの人の言うことは役に立たないと、うな垂れた。

                   ※

『さあ、わくわくする毎日のためにーあなたのやりたいことは何ですか?!
 あなたの夢は何ですか?』

(百太さん、きれいだ……)
 月音はうっとりと画面を眺め続けた。白く滑らかそうな肌、絶妙なラインでふくらんだ頬、薔薇色の唇は花の香りまでしそうだ。肩の上でくるくると巻いた髪もー
 と彼女の映像が小さくなり、ワイドショーのスタジオが大きく上に映った。

『このように、夢と自信を持って人生を切り開くことを訴え続けてきた経営コンサルタントの「をぐら笑果《えみか》」、本名小倉笑加《おぐらえみか》さん二十九歳は、昨日愛知県郊外のマンションの屋上で、惨殺死体で発見されてしまったのです! なんという運命の皮肉でしょうか?!』

(うるさいなあ、このアナウンサー)
 キンキンと響くこの女の声より、落ち着いた百太の声の方がよほど素敵だ。何よりも自分は知っている。この人はをぐら笑果なんかじゃない。百太さんだ!

『をぐらさんはとりわけ若い女性の独立開業を応援してきましたが、かつての顧客で事業に失敗した人々の中にはそのやり方を批判する動きもあり、「被害者の会」は訴訟も準備していました。……どうでしょう? 犯人はこのあたりの、をぐらさんの被害者の中にいるんでしょうか』
『……自分で事業をするっていうことはリスクも持つということですから、いちがいに、をぐらさんが悪いとは言えないと思いますが』

(そーだ、そーだ!)
 百太さんは悪くない!

『違いますよ! そこを上手く通り抜けさせるのがコンサルトの仕事でしょう? なのにをぐらさんは、女性誌などで派手に自分のライフスタイルを宣伝して、集まってきた多くの女性たち全員に、適性も見ず洗脳のような形で独立開業を押し付けてきたと言われています。しかもオープニング契約が切れた後は、一部の上手くいっている顧客とだけ契約を続け、大多数の困っている顧客がーそうでしょう? 素人に毛の生えたような女の子たちですよー助けを求めても絶対に再契約をせず無視しました。彼女にのせられた女性たちに残されたのは借金の山だけ! 結婚話が駄目になったり、自殺した女性までいるそうです。なのに自分は大病院グループの御曹司と婚約して、そののろけ話まで「成功した自分」というパッケージで外に垂れ流していたんですから、恨まれても当然でしょう』

(婚約者、なんていたのか)
 画面に次々と写真が流れる。短大在学中からフラントアテンダント時代、アメリカ留学時ー
(短大の時から、他の人よりずっときれいで目立ってたんだ……。アテンダントの制服似合うなあ、格好いい。今より少しほっぺたがふっくらとしてたんだ。これはアメリカに留学してた時……百太さんでも、あっちに行くと背が小さく見えちゃうんだ。すごいなあ、あっちの大学で、しかも難しい資格取ったんだよね)
 自分たち「三月うさぎの試食会」の指導も見事だった。
 もうあのメーリングリストからは何も流れて来ないけれどー胸がぎゅっと締めつけられる。この感覚は何だろう。 

『……では、をぐらさんは顧客に怨恨で殺害されたとしますね。ですがどうしてスーツに短髪のウイッグで男装していたのでしょう? また立ち入り禁止の屋上にー住人の子どもたち等はこっそり出入りしていたそうですがー呼び出されても、頭の切れるをぐらさんが、のこのこと出て行くものでしょうか?』

(誰も何も知らないんだ)
 くすっと月音が笑った時、
「テレビ譲って。ドラマ見るのよ」
 母親がいきなりチャンネルを変えた。
「あんたは部屋のテレビで見ればいいでしょ」
「大きな画面で見てたいんだよ。この人、綺麗だから」
 一瞬の間の後。
「嫌だわ。ここの屋上で殺された女でしょう。見たくない!」
 月音はぷいと立ち上って自分の部屋に篭った。
 百太はテレビの中で、自分の夢を見つけ、プランを立てて実行しなさい、と説いていた。
(ぼくの夢……やりたいことは?)
 ー百太さんみたいになることだ! 
 パソコンの検索画面に「をぐら笑果」を入力すると、月音は早いタッチでキーを叩いた。

 美形俳優がヒーローの特撮ドラマに見入りながら、月音の母は笑いを漏らした。
(珍しいわね。あの子が誰かに、それも若い女に興味を持つなんて。年頃なのね)
 それは安堵に近いものだった。
 
                   ※ 

 「夢」などなくなって久しい。強いて望みというなら、二人の娘の無事な成長くらいだ。
 自分に有るのは「やるべきこと」だけ。職務として犯人を追い求め、家に居る時は妻にこき使われる。
 こんな風にーガラス窓をせっせと拭きながら頓田は考える。
 ならばどうして、自分の仕事でもない「あすみちゃん事件」に首を突っ込めたのか。
 そこで出会った可愛らしさを残すエリート上司と、自称メイド高校生。口は軽いが、捜査隊にいる以上コンピューターの腕は半端でない筈の技官。彼らの前途には燦々と日が輝いている。夢も希望もあふれるほど有って当たり前。
 自分はそんな若者たちを支え、スタート台として支える立場だ。
 夢も希望もなくても人生など幸せだと知っている。
 それに満足している。
 人は空など飛べない。空の高みも、犯罪者たちの地獄の深遠も見る必要はない。
 ただ火曜日にー
 遠くで電話の音がして妻に呼ばれた。
「パパ、職場から電話よ。呼び出しじゃないかしら」
「そうか?」
 電話に出た頓田は、二、三分話すと憮然と妻に言った。
「君は何でも知ってるんだな」



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。