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空など飛べないと刑事は言った 8-4

 捜査相談室に戻ると、リュンと樹馬が首を揃えて待っていた。
 リュンはしっかりとメイド服を着込み、いつも通りの偉そうな無表情で頓田たちを迎える。一方の樹馬も相変わらずの調子で勢い良くしゃべり出した。
「『やつぎばや』さんでしたっけ、すっごい大物なんだそうですね? 週刊誌の件も話が付いたって聞きましたよ。さすがアンさん! そんな方と知り合いなんて」
「大学の時、警視監のお子さんが同級に居たってだけ」
(愛人のどこがたいしたものか)
 投げるように言った妹亜に、心中でより乱暴につぶやく。
 東大生の時から矢辻若と「知り合い」だったというこの女も女だ。
「リュン君もすごいよねー。『つつじはぎのおじさん』だろう? あれ、つつじハゲさんだっけ?」
「『ヤツジワカ』のおじさんです。マッシー様、わざとですか?」
 いやあ名前難しくて~と頭をかく樹馬。その笑顔に余計、妹亜とあの男の関係への不快感が増した。
「あの人のおかげで、俺はご主人様に預かっていただけることになりましたんでね。死んでも頭が上がらない方の一人ですな」
 リュンがしれっと言う。
「……ともかくマッシーも来られて良かった! マッシーとリュン君から聞いた話も含めて、頓田さんに説明しようと思ってたとこだったから」
「グットタイミングでした? これからはテレパス樹馬と呼んでください!!」
 胸を張る樹馬を呆れ顔で見てから、横にため息をつく。
「頓田さん、どうしたの?」
「……いいえ。その、まだよく全体像が掴めないもので」
 気持ちの良い青年技官と、豊かな才能を持つメイド少年。二人とも妹亜を慕い、だからこそここに居るのだろうにー
 半ば上の空で事件の説明を聞き、その後型通りの挨拶をして捜査相談室を去った。妹亜が少しばかり不審がっているのはわかったが、繕う気もなかった。
 これで終わりだ。
 自分は大地に足を付け、地道に進む。
 空など、見ない。

                  ※

 山浦警視下に合流して数日。
「珍しかったんですよね。女の子ならともかく、男が……。焦りましたよ」
 何十人目かの言葉に頓田は興奮した。

 頓田は署の若い刑事と組んで片っ端から証言をつぶす作業に従事していた。
 相方の刑事は、初め頓田に対し警戒をあらわにした。捜査相談室から来たとなれば当然だ。だが雑談を交わすようになれば、彼もまた好感のもてる男だった。
 素直さと軽さは樹馬を、生意気さと真剣さは高校生メイドを思い出させたが、その度に土を被せるように、頓田は「捜査相談室」を心底に押し込んだ。

 証言は大型電器店の警備員から得られた。土蜘蛛と同じ東帝セキュリティーの社員だ。
 事件の前の初夏、彼は店内で倒れかかってきた若い男を介抱した。男は彼の左腕をかきむしるようにしてすがったという。東帝セキュリティーの制服左上腕部は、例の銀糸を使ったワッペンが在る場所だ。
「気持ちが悪いってだけだったんで、職員休憩室で休ませました。すぐ元気になったと聞きましたが」
 警備員は男の顔を覚えていなかった。ひ弱には見えない普通の若い男というだけで、頓田たちが見せた数枚の写真ー中に乙部ら「三月うさぎの試食会」関係者を入れてあったーにも首を横に振った。制服の提供を約束させて本部に戻る。
 警備員日誌に残った男の名前は偽名らしく、電話番号は使われていない架空のもの。

 土蜘蛛逮捕の決め手になった銀糸は、「試食会」関係者が別のルートで入手したのでは? と今や捜査本部は見ていた。
 そのため警察は東帝セキュリティーに、制服を盗られたり、何らかの形で制服の繊維を取られた従業員はいないかと確認を頼んだのだ。
 捜査とはこうして地道にやるものだ。片端から関係者を当たり、つぶして証拠を求める。空を飛ぶのではなく地を這回ること。をぐら笑果の演説のような計画もステップアップもなく、夢など入る余地はない。ただ。
(この仕事が終わったら、そろそろ夢を見に行きたい……)

 翌々日、警備員の制服が既に鑑識に回ったことを山浦から教えられた。
「ご苦労だったな」
 そっと頓田と相方の刑事の肩を叩く。
「明日は早く出て来てくれ。他の者には言うなよ」
 
 書類を届けに行った本庁の廊下で、頓田は思いっきり手を振られた。
 とんださぁ~んと叫んで寄ってきた樹馬は、いきなりくっつくほど口を耳たぶに近づけてささやいた。
「いよいよXデーだそうですね!!」
「え?」
「あ、知らなかったんですか。ヤバかったかな? でも山浦さんとこの偉い人から、頓田さんが指名されたって聞いたからいいかと……ははは」
(そういうことか……)
 理解しながらも、満面笑顔の樹馬を憮然と見返す。
 Xデーとは「三月うさぎの試食会」の五人全員に一気に取り調べをかける日のことだ。証拠を押さえ次第出来るだけ早く、と幹部たちは焦っていた。
 例の警備員の制服から、何か決定的な証拠が出たのだろう。
 そしてそれを入手した頓田たちに、乙部久仁和を引っ張り、取り調べる権利が与えられたー
(勝った)
 頓田が、ではない。自分たち警察が犯罪者に勝ったのだ。
 一時の明るい興奮から平静を取り戻し、頓田は尋ねた。
「だが升形君? 今調べにかかったら、『百太』が押えられないんじゃないのか……?」



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テーマ : ミステリ
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