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空など飛べないと刑事は言った 9-1

 翌日指定の早朝五時に出勤した頓田を待っていたのは乙部久仁和だった。
 正確には、捜査本部に着いた時には乙部はまだ居なかった。
 山浦警視は、昨日樹馬が言った通り、頓田たちに乙部ーハンドルネーム「がぶがぶ」の取り調べ担当を命じた。六時ちょうどに乙部宅ー三日前に移ったばかりの父親の勤務先寮の一室ーを訪問する筈が、五時過ぎに当の本人が近所の交番に自首してきた。
 本部に護送されて来たのが五時半頃。
「おれが女の子を殺しました」
 乙部は素直に自白した。
 物心ついた時から当たり前だと思っていた秀慶学院大への進学が駄目になり、絶望したこと。中丸が外部進学を止めたのを理不尽だと思ったこと。ネットの「人を殺してみたい人の掲示板」に夢中になり、「三月うさぎの試食会」にも積極的に参加し、見知らぬ女の子を殺したこと。
 両親の母校でほとんどの友人が進学した秀慶が、この世の全てでは無いとわかったのは、予備校に行き始めてから。
「どうしてその時、殺人サークルから抜けようと思わなかったんだ?」
「そんなの思わなかったよ! だって、ずっとみんなで続けて準備して、すごい頑張ってたんだし。仲間を裏切るのって良くないことでしょう?」
 彼にとっては仲間だったのだろうか。高校の友人たちのように? いや、そうでないことはすぐにわかったらしい。
「シュミットは臆病風に吹かれて逃げやがったし、百太だってルール違反をして、おまけに最後、自分の番の殺人をやったかどうかもわからねえじゃないか!」
 顔全面を紅潮させる。
「母さんが死んで……、兄さんとしゃべれなくなってから、悲しいとも恐いとも感じなくなった。なんだか、全部リアルじゃねえ感じで……」
 普通の学生だったのに秀慶から追い出され、浪人して様々な友人たちと出会って、ニュースで報道されるような事件の当事者になり、ヤクザともめて、家が焼けて親兄弟が死傷ー
 語る言葉にすら現実感がなかった。
 流れるように自供する乙部を逮捕したのは、七時二十三分。
 報告に取調室を出た頓田は、山浦の傍らにいた幹部に手をがしっと握られた。
「がんばってくれ! 押えられたのはうちだけなんだ!」
 騒がしい捜査本部で、やられたと山浦は顔を歪めた。
 死亡した一名を除くと「三月うさぎの試食会」は四人。うちシュミットこと祝重雄はおとなしく警察に来た。だが自分は何もしていない、ネット上のことなど本気にしていなかったと平然とうそぶいた。逃げられる訳はないが、彼が直接犯行に手を下していないのも確かで、ここから切り崩すのは困難だ。
 二名は逃亡した。
 前日、フランボアこと葛理はゆらがアルバイト先から、月音こと芳岩幾斗が書店から帰宅したのを刑事が確認した。
 だが今朝刑事が行くと、どちらも家族も知らない間に家を抜け出していた。芳岩の部屋のパソコンには、今朝の取り調べを忠告するメールが開かれたままになっていたという。
 福岡・愛知両県警は全力で彼らを追っているが、行方は確認出来ていない。
「情報が漏れたらしい」
 とっさに頓田の頭に樹馬の能天気顔が浮かび、すぐに打ち消した。彼はおしゃべりだが、せいぜい報道陣に利用されるくらいだろう。一晩のうちに福岡と愛知に伝わる訳もない。
 山浦は頓田を小部屋に連れ出してささやいた。
「妹亜ちゃんのところの坊主から聞いたぞ。お前も俺の秘密を知ってるって」
 その時光がー違う。
 山浦がぽかっと頭髪を掴んで持ち上げた。下は見事なタコ入道だった。
「頼むぞ」
(そうか)
 山浦が妹亜を攻撃するのにまで理不尽に「ハゲ」を使ったのは、自分がそうだったから。
 リュンは何らかの理由でその事実に気付き、山浦に脅しをかけた。
 「ご主人様」を守り、ついでに捜査相談室から移った頓田をも冷遇させないためにー
(あのガキ……)
「父親が来ているが、別の階で止めている」
 廊下に出た山浦はー勿論しっかり鬘を付けてー冷たく言った。
 残された手紙を見て乙部の父親が署に駆け込んで来たのは、七時過ぎだという。
「逮捕は知らせんとな」
 山浦が背を向けた。


 ピピッ!
 メールの着信音で目が覚めた。
 東京駅近くのカプセルホテル、月音は顔を擦りながら携帯に手を伸ばす。
 昨夜遅く家を抜け出し、幸い最終の新幹線に間に合った。東京駅に着いてから、携帯で探したカプセルホテルを取り、ベットに倒れ込むや否や眠りに落ちた。
 「怪盗カルビから嘲笑の挨拶」がタイトルのメール。

「愚かな芳岩君、お前はもうおしまいだ。
 電源が入っていれば警察は携帯の位置を割り出せるのだ。
 お前はそう遠からず包囲される。嘲笑をこめてこの挨拶を送ろう! ははは。  
 怪盗カルビは愛と正義の味方」

 百太は「怪盗カルビ」が誰か知っていると言っていた。それはもう聞けない。
(けど、なんかこの怪盗ってぼくたちの味方みたいじゃないか。ね百太さん!)
 パチリ。
 電源を切ると月音は手早く荷物をまとめた。

            
 小さなレンガ色の教会に刑事たちが押し寄せた。
「居るのはわかっているんです! GPSが『ここ』で止まったんですよっ!」
 刑事が言葉を投げつけた。
「これのことですか」
 牧師は赤い携帯を示し、求めに応じて手渡した。
「塀ごしに投げ込まれたようです。お疑いながら隅々まで調べていってください」
 言葉に応じ刑事たちは次々と教会の部屋を調べていく。
「刑事さん、葛理さんはこちらにいるかもしれないと私は思っています」
 子羊楽園アソシエーション、とある小さなチラシ。
 教会信者の中に、別の宗教グループ「子羊楽園アソシエーション」のメンバーがいて、密かに勢力を伸ばしていたようだと牧師は説明した。
「葛理さんも誘われてしまったようなのです」
 敷地内の牧師自宅や庭の物置にまで広がる刑事たちを見ながら、牧師はつぶやいた。
「私は、葛理さんの友人には成れなかったのでしょうか」
 答えは返らない。
 一時間も過ぎた後、詫びと礼を丁寧にして刑事たちは教会を去った。
「葛理さん……。あなたはそれほど強く求めたのに、もう与えられていると気付けなかったんですね」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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