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空など飛べないと刑事は言った 9-2

 頓田が質すと、乙部は昨夜警察の捜査が入るとの予告メールが届いたと言った。それを見て捕まる前に、と自首してきたという。
「『怪盗カルビ』からのメールでした」
 怪盗カルビはシュミット、こと祝重雄の別名と推定されている。
 祝は昨日午後、東京消印の手紙を受け取った。その事実を突きつけてもしらを切り続け、家にもそれらしきものは残っていなかったー長野県警からの報告である。
(どういうことだ)
 内心首を傾げながら、頓田は乙部の話を聞き続けた。


 一階正面に大きな花屋が入ったビルに小羊楽園アソシエーションの事務所があった。 
 教会から移動した刑事たちは、二階の受付で彼らと睨み合う羽目になった。
「そんな人は居ません。証拠はあるんですか」
「居るかもしれないという情報提供があっただけです。少し話を聞かせてくれませんかね」
 中へ入ろうとした刑事は入口附近に集まってきたメンバーたちに押し出される。
「どうせ教会のいやがらせに決まっています!」
「教会、とはどこの教会のことですか?」
 リーダー格の刑事が素早く斬って返した。
「どうしてそう考えたんです? 今までに何かトラブルがあったとか?」
 教会のことを口にした女ははっとした様子で奥に隠れる。
「一般的なキリスト教会のことです!」
 一人が叫び返し、
「現代のピラト! ネロ!」
「警察が信仰に介入するのかよ!」
「神よ! あなたを誹謗する罪人と戦う力を、私に与えたまえ……」
「神よ、罪人を撃砕する力を与えたまえ……」
 彼らはぞろぞろとひざまずき、密着したまま声を上げて祈り始めた。まるで袋の中のもやしだ、と刑事の一人は思った。
「罪を憎むっていうんなら、我々と目的は同じです。覚えていますか?」
 長野の山道で、女子中学生が首を締められて殺されたひどい事件。
「葛理はゆらはこの事件の重要参考人です。出頭してくれたら、あの事件は解決するかもしれないんですよ!」
 説得を尽くしても彼らは動かず、刑事たちは一旦の引き上げを決めた。
「ビルの出入口二ケ所を固めろ。他に会は県内二ケ所と大阪、東京に一ケ所ずつの事務所、宮崎と北海道に共同生活用の敷地を持っている。全部押さえろ。葛理が居るなら、動かされる時がチャンスだ」
 刑事たちは直ちに持ち場へ散った。



 カチャッ。
(やった!)
 鍵が開いた。次に「警視庁・立入禁止」と書かれたテープを剥がす。特に問題はない。
 月音は一度あたりをうかがってから室内に滑り込み、電気を点けた。
「…………!」
 広いフローリングの部屋に、背の低い明るい木目の家具。
 薄緑色の椅子カバーやテーブルクロスで統一された部屋は、月音には別世界だった。
 ここはマンションの一室、百太のオフィス。
 あの日死んだ百太のポケットにあった鍵は、思った通り隣の駅のロッカーのものだった。中には赤茶色の革のバッグ一つが入っていた。今もこのザックの中に入っているそれは、いかにも高そうでー実際月音が想像したのよりも十倍高いものだった。
 バッグには女物の着替えとメイク道具少々に紙幣、それに鍵だけが入っていた。
 初め鍵は百太の家のものだと思った。マスコミ報道からおよその位置を割り出してみたことがあったので、早朝ホテルを出るとすぐ記憶を頼りにそこに向かった。が鍵は開かなかった。しばらく試し、焦り、やがて高級マンションにあるというオフィスの鍵ではないか、と思い当たった。これからそちらに回ったのではもう遅い。目立ち過ぎ、警察も来ているかもしれない。
 そう判断し、デパートや公園で時間をつぶして夜遅くこのマンションに来た。
 幸い警官の姿は見られず、月音はあのひとの場所を独占している。
 雑誌のインタビューで百太が座っていたソファーの前に、今自分が立っている。
 月音は部屋をあちらこちらとうろつき、物色した。引き出しには顧客らしい女性の写真が貼られた「コンサルタント・カルテ」なるものがみっしりと詰っていたが、あまり興味は引かれなかった。難しそうな本ばかりのガラス戸の本棚をほうっと眺め、壁の版画に目を細める。
(パソコンが無いなあ)
 百太はコンピューターに詳しかった。警察に目を付けられないための安全策は、ほとんど彼女が、三月うさぎの試食会メンバーに教えてくれたものだった。
(警察が持っていったんだろうか……)
 途端に不快感が沸き起こる。大切なものが汚されたような気持ちだ。
 奥の部屋が百太の執務室だ。この大きな机も雑誌の写真で見た。
「うわ……」
 回転式のハンガーに、目が覚めるほど明るいレモンイエローのシャツと、深い海の底のようなロイヤルブルーのパンツのセットが掛かっていた。
 そう言えば暑い。着替えたい気分だ、と理由をつけて恐る恐る手を伸ばし、上から羽織る。と香水の香りに包まれた。
(プワゾンの匂いだ)
 香水の名前などそれとシャネルの五番しか知らない。勝手にそう陶酔する。
 自分の服を脱いで百太の服に着替える。パンツは少し短いがデザインと言える程度で、思った以上に体に合った。このいい匂いに包まれていたら、百太がインタビューで語っていた、
「前向きに挑戦し勝ち続ける人生」
 を過ごせる気がする。
 引き出しの財布に十数枚の高額紙幣が入っているのを見つけた。持ち出したお金は残り少なくなっていたので、ありがたく頂戴する。
 百太が生きていたら決してこんなことはしないが、彼女はもういない。それに、百太はいつも、自分たちは決して捕まってはならない、と言っていた。そのために使うのだから、結局百太のためだ。
 充分に堪能してから部屋を出た。
 外の気配を慎重に確認してから廊下に出たが、電気のスイッチを消したかどうかは確認しなかった。
 
 ターミナル駅近くのホテルにチェックインしたのは、日付の変わる一時間ほど前だった。普通のホテルを取ったつもりで、実際には月音が想定したより高級寄りの所だった。だが百太の服とバック(似合わない気がしたので、ザックの方を百太の赤茶色のバックに入れた)が滞在にふさわしい雰囲気を醸し出し、怪しまれなかった。
 部屋には夕刊が置いてあった。一面の見出しは、

「交換殺人サークル数事件に関与か」

 月音はフランボアと共に全国手配されていた。ただし少年の彼は、写真も名前も紙面には出てはいなかった。




 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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