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空など飛べないと刑事は言った 9-3

 翌朝の捜査会議は厳重な警戒の中で行われた。一斉捜査の情報洩れの疑いからだ。
 入口には見張りが立ち、頓田たちは一々名前をチェックされて入室を許可された。
 大会議室前方には雛壇があり、その幹部席の一番端に妹亜が座っていた。メイドの無表情が移ったような能面顔は、彼女なりの緊張の表現だろう、と好意的に理解した。だがそれ以上の好意は、今ではこの女に感じることは出来なかった。
 捜査相談室に居る間は散々便宜を計ってもらい、彼女なりの心使いで捜査本部に移ることが出来たのに、現金なものだと自嘲する。
 さすがにリュンの姿はなかった。厳戒体制下では当然だろう。
 パソコンのメール解析、および乙部の自供により、交換殺人サークルの実態は次々と解明されていた。

 容疑者ハンドルネーム  本名  実行事件     依頼者

・月音 芳岩幾斗  麗朧アミューズメント専務夫人事件 乙部
          流通産業省汚職疑惑官僚事件    小倉
          をぐら笑果事件          芳岩
・がぶがぶ 乙部久仁和  あすみちゃん事件  葛理
・フランボア 葛理はゆら 女子中学生事件   祝
・シュミット 祝重雄 実行事件なし。殺人教唆のみ。
・百太 小倉笑加 暴力団関係店舗襲撃事件 本人―サークル外事件
         乙部宅放火殺人傷害事件 本人―サークル外事件
         殺人未遂?       芳岩

 乙部は昨朝の逮捕以降、素直に自供を続けているが、祝はろくに物も言わなくなり取り調べは難航。葛理はゆらは行方不明、芳岩幾斗は昨朝東京駅近くで携帯GPSの反応があり、カプセルホテルに泊まっていたことまでは突き止められたが、その後行方を見失ったままだ。
 葛理は長野の現場附近から毛髪等が、月音は流通産業省錦矢の自宅と、をぐら事件での屋上の双方から指紋が見つかり、共に逮捕状が出た。
「特に、芳岩少年が都内に潜伏している可能性は大きい。三人の殺害を実行し、凶悪犯罪への歯止めを失った非常に危険な存在だ。街に出たら常にこの顔がいないか注意すること!」
 スクリーンに映し出されたのは、山浦の言葉とは似ても似つかない線の細い顔だった。乙部の、自信がないために言いたいことを我慢しているような大人しさとは違う、何も訴えず満足しているかのような静かな笑みだ。
 をぐら事件の詳細は未だに不明だ。小倉が死んだ今、事件の解決のためにも芳岩を捕まえるしかない! と山浦は発破をかけた。

 正直頓田は、をぐら事件には同情が湧かない。
 あの女が錦矢の殺害を企んだ動機は、犯罪者の元恋人の存在が自分の傷になるのを嫌ったから。ライフスタイルを宣伝して顧客を釣り上げていたので、尚更だったという。
 実際は、錦矢は無実らしい。そうでなくても、一度は思い合った相手をその程度で殺させる神経は、頓田には、百回生まれ変わってもわからないと思う。
 それどころか小倉は、乙部が警察の目に止まったことに気付くと殺害を企み、専務夫人の事件がたまたま暴力団絡みとされると、捜査の目を反らそうとにヤクザまで利用しようとした。
 そんな顔は隠して、テレビや雑誌でにっこりと笑って教祖気取りで説教を垂れるー
(ひどい女だ)
 だが、そのしたたかな女さえ殺されている。

 続いて乙部、芳岩、葛理の三人への警告メールについて報告があった。
「『怪盗カルビ』と称する送り主は祝重雄との推定をしてきたが、他の可能性もないとは言えない。現在あらたにIT隊に調べをお願いしている」
 向こうで樹馬が、少し緊張した面持ちで同僚と共にうなずいていた。
(待てよ……)
 鈍い光のように頓田の頭にひらめいた。
 各捜査本部で一、二名、あすみちゃん事件の本部では山浦とその副官ぐらいしか把握していなかったXデー。他に知ることが出来たのは、まず捜査員の中で勘の良い人間。(頓田は問題外だった)
 次にIT捜査隊の樹馬たち。その樹馬はまず間違いなく妹亜に情報を漏らしている。そうでなくても、彼女は各捜査本部長たちと同格の警視だ。連絡は入ったかもしれない。
 妹亜はあの矢辻若の愛人だ。
 もし矢辻若が、この事件を利用しようとしていたなら。
 何か隠れた秘密があって、闇社会や権力にとって解決してしまうのは都合が悪いとしたらー
 妹亜なら、樹馬を利用すれば容疑者たちのメールアドレスも入手可能だ。もしかしたら今回の情報漏れは喜屋武妹亜からかもしれない。
 気持ちの良い想像ではないがー
(升形君にカマをかけてみるか?……)
 腹の奥で、必要ないと低い声がする。
 恩人の土蜘蛛の容疑を晴らして万歳でもういいではないか。自分は翼などない普通の人間、だろう?

『今の自分に、足りないものを加えてやれば、必ず夢は叶います。……さあ、わくわくする毎日のために! あなたのやりたいこと、あなたの夢は何ですか?!』

 耳の奥であの女の声が響いた気がして、ぞっと首を振る。
 あんな極悪人の説教なんぞ絶対に聞いてやるものか!!


 会議の後、乙部宅放火事件の刑事に依頼されて検証に同行した。
 乙部が疲れているようだ、との上部の判断もあったらしい。
 同じく呼出されたリュンは白いシャツに紺パンツ。今日は本物の学校制服らしい。
 変わらぬ無表情で小さく頓田に頭を下げる。おざなりに見える礼にもそれなりの親近感が入っている、と頓田には読めたが、こちらが余裕で返せたかは自信がなかった。
 男装の小倉が姿を消したスーパーから駅、電車と逆方向をたどりあちらこちらと連れ回され、ようやく予備校まで戻る。
 小倉の放火事件への関与は今朝から報道され始めた。予備校前には既に数人のマスコミ関係者が見え、彼らに姿をさらすのはよくない、と頓田は用事が終わったリュンを裏の従業員入口へ誘導した。
「最近のご主人様が忙しいかどうかですか? 知りません。まだお暇の最中でしてね」
 情報漏れ前後の妹亜の動きがわかるか? と聞いてみたが素っ気ない。二の句に迷って思わず、
「鳳羽君! 風邪に気をつけてな」
 と間抜けな声をかけ、
「警察では今は冬なんですかな?」
 との返事に憮然とした。気にしている暇はない。帰ったら乙部の取り調べ再開だ。


 月音ははっと顔を上げた。 
 リュン、という名前。続いて警察ではと返したこと。
 百太の言っていた「警察協力者の少年」そのものではないか。
 強過ぎる日差しの下、今は暑いことが苦にならない。
 冒険の日々が始まった! 空は明るいにこしたことはない。
 百太と関係がある所を全て見たい、と思った。朝刊とテレビのニュースを見てこの予備校にやって来たが、既に記者らしい集団が見えた。彼らに姿を見せるのはまずい気がしたので、建物を見上げながら外を回った。
 百太ががぶがぶを殺そうとしていたとは驚いた。がぶがぶの失敗は大したものではないと思ったが、彼女が判断したのならそれが正しかったのだろう。そして予備校裏に回った時、ドアのそばで話す声が聞こえたのだ。
 リュン。彼はー
(僕らの敵!)
 百太を滅ぼした相手に復讐しよう。なんて良いアイデアだ! 
 何か道具はあっただろうか? 赤茶のバッグの中を探ると固い物が触れた。何かと便利だろうと家から持ち出したフルーツナイフだ。
 身を隠し、やがて歩き出した制服姿の男の後をそっとつけた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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