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空など飛べないと刑事は言った 9-4

 リュンはつけられていることに気付いていた。
 携帯に貼ったミラーで見ると、場違いなほど明るいレモン色のシャツの男がずっと映る。
 心当たりは無いといえば無いが、ご主人様の仕事上、有るといえば有り過ぎてわからない。
 駅前に出れば人は多い。そこまで、と足を速め、同時に携帯を手に取った。妹亜の番号への呼び出し音を七回ほど聞いた時、
 ぐいっ!
 首根っ子を掴まれ横道に引き込まれた。続いて背中を突き飛ばされて奥に転がる。
 ドンッ!
「百太さんの敵!」
 振り仰いだリュンが見たのは、細い刃だった。
(っっ!)
 とっさに肩かけバッグを振って刃を防いだ。立ち上がりながら体を建て直す。また刃がきらめく。
 ぶんっっ!
 再度刃を叩き落とす。バッグの重みに振り回されて足が横を向き、気付いた。
(このまま)
 思ったのが先か、体が動いたのが先だったのか。
 右足と左足が小刻みな角度を取ると、間もなくかかとを軸に回り出す。
 右手にバッグを掴み、左手は携帯を握ったまま、礼もせずに回転し始めたことを「長老」と「その上」に詫びながら、リュンは体の導くままに回った。
 普段の旋回と違い意識的にスピードを上げ、間もなく独楽のようにくるくると回転する。
(こんなところで殺されるものか!)
 それに銃なら一瞬だがナイフは違う。苦しむのは嫌だ。


(なんだこいつ!)
 追い詰めた男は突然回り出した。
 恐るべきことに、この男は、これほどの速さで回転しながらもきちんと外を見ている。
 月音の姿も、刃の位置もしっかり見とってバッグで防ぎ、何度ナイフを振りかざしてもはじいてくる。背を向けた隙に刺す時間はない。速過ぎる。
 回転の中からこちらを見る男の視線に、少しばかり背筋が寒くなった。
(そうだ)
「くっっ!」
 男の回転は時計回り。ならば、と懐に入り込んで左からナイフを切り出した。
 手応えはあり、男の動きが一瞬揺らいだ。
(百太さんやったよ!)
 だが回転は止まらない。軸から見返す男の目も落ち着いたまま。
 心配ない。自分は今までに二回殺人を成功させた。まして今度は大事な復讐だ。と、
「おおおおおおお……」
 突然、朗々と。
 男が叫び出した。
 腹の底からの大音声。独楽のように回る男から住宅に挟まれた小道に響く。
(うるさいっ!)
「おおおおっ!……おおおおおおおおお……」
 むやみにナイフを振り回す。今度は確かに腕にかすった。次こそ、次こそー
「おい、何やってんだ!」
 大通りからひょいと声が掛けられた。刃物持ってるぞ、と別の声がして騒がしくなる。
 叫びが人を呼んだのだ。
 それが狙いかとの歯噛みと、一抹の尊敬を堪能する暇はなかった。
「おいっ!」
 逃げなくては。自分たちは絶対に捕まってはならないのだから。
 全速力で反対方向へ走り出した。

 声をかけた作業服の男がリュンに近づく。
「大丈夫か君」
 がしりと腕で抱きとめると、リュンは勢いよく男の体にぶつかって止まった。
「捕まえて……あれ、殺人サークルの……」
 かくん、と膝が落ちるとリュンは崩れ落ちた。腕と肩に滲む血に野次馬の騒ぎが大きくなった頃、遠くに走ってくる警官が見えた。

 
      
 病院にいち早く着いたのは頓田だった。
 リュンの手帳の今日の欄に彼の電話番号があったことで、交番から連絡があったのだ。
 幸い左肩と右腕は軽傷で、処置の済んだ今、リュンは白いベットの上で眠っていた。
「ご主人様済みません、ってうわ言を繰り返してるんですが、何かご存知ですか?」
「……若い連中の間では流行ってるんじゃないのか、そういうの」
「僕も若いつもりなんですが」
 付添の警官がつぶやいた時、身じろぎもなくリュンが目を開けた。
「鳳羽君、大丈夫か!」
「君大丈夫?!」
 見返す目がぼんやりしているのが痛々しかった。
「頓田さ……ん」
 さま、と言おうとして隣の警官の存在に気付いたのだろう。
 頭の良い少年だ。実際、今明らかになりつつある事件の真相は、最初に彼が見通した通り、大人数での交換殺人だったのだから。
「あいつは、捕まりましたか!」
 身を起こそうとするのを慌てて仕草で押える。
「手配をかけてるからすぐに捕まりますよ」
 警官が言った。
「早く捕まえてください! 頓田さん、あいつ、芳岩です」
「何で……君、芳岩幾斗の写真は見たのか」
 頓田の言葉にリュンは首を横に振った。
「だけどあいつ、俺に切りかかってきた時『百太さんの敵』って言ったんです」
 なんだ、と頓田は肩を落とした。
「小倉は敵も多かったがファンの女もいっぱい居たんだ。その中の誰かじゃないのか」
「だったら『笑果さんの敵』って言う筈ですぜ。それに頓田さんも言ったじゃないですか。ファンの女、って」
「あ」
「俺くらいの年の男じゃ、普通、をぐら笑果のファンになんてならねえでしょう」
「…そうだが、今はニュースで『百太』のことも報道されているし、犯罪者をスター扱いで騒ぐ奴は今どきどの事件でもいるから」
 言いながらもリュンが正しいように思えてきた。
 今度は、間違えない。
「……いや、可能性は高いかもしれないな」
 目を白黒させる警官に手配犯「芳岩幾斗」について伝えると、今度は真っ青になる。
「教えてくれるかな。その男はどんな服装をしていたの?」
 ひととおりの聴取が終わった頃、やっと妹亜が病室に飛び込んできた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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