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空など飛べないと刑事は言った 9-5

「リュン君!!」
 見るなり叫び、
「……こンの、馬鹿っ!!」
 リュンの首っ玉にしがみつく。
(喜屋武警視。年頃の男の子に、そんなに胸を押し付けたらまずいですって)
 だが安心した。少なくともこの女は、リュンのことは大切に思っている。
 情報漏れの件はそれとは別だ。彼女は今、本当に捜査をーわずかでもー妨害しているのだろうか?
 捜査相談室での妹亜は、その類の行動を選ぶようには見えなかった。だが人間はわからない。少なくとも、自分にはそれを見通す才能はない。
 頓田は「刑事の目」で妹亜を観ているのに気付いていた。愉快な気分ではなかった。
「頓田さん! どうしてリュン君を送らなかったの? せめて駅まで」
 ぱっと振り向く。
「申し訳ありません」
「わたしは謝れなんて言ってないの! ど・う・し・て・送らなかったのかって、聞いてるの!」
(なら、あなたが着いて回ればよかっただろうが)
「弁解の余地はありません」
「だっ!!」
 深く頭を下げた頓田にさらに突っかかろうとした矢先、リュンが口を挟んだ。
「そんなのは、ハゲは何で光っているのか? って聞くくらい無意味ですぜ。俺は縁起のいい男ですから。ご存知でしょう?」
 枕の上を顎で指す。頓田の視線に気付き、誕生日、と付け加えた。
 なるほどベットの上、名札の生年月日の欄には、
「一月一日生」
 とある。
(三百六十六分の一の確率だが……)
 縁起が良いものなのか、頓田には判断がつきかねた。
 隣で困惑気味だった警官を妹亜に紹介し、状況を報告させる。妹亜の指示で頓田が持っていた芳岩幾斗=月音の写真をリュンに見せ、やはり本人だったと確認。
 警官に芳岩の件を報告するよう促すと、頓田自身も慌ただしくリュンの病室を出た。
「そろそろ矢辻若さんも来るって」
 妹亜がうれしそうに言ったのを聞いたからだ。
 残念ながら、あの男を前に情報漏れを追及出来る自分ではない。ひとまず退散だ。
 

 警官を一階で見送り、本部に連絡を入れた後、頓田は自動販売機のコーナーに立ち寄った。ベンチに腰を下ろして、ぼんやりと一服代わりの缶コーヒーを飲む。
「メウレウィーですか。いいえ、知りません」
 妹亜のよく通る声が降ってきた。素早く柱の向こうに身を隠す。
「トルコのイスラム神秘主義の一派だ。喜屋武君、でかしたぞ」
 矢辻若と妹亜が隣り合い、自販機コーナーのちょうど反対側、植え込みを挟んだ向こうのベンチに腰をかけていた。 
 お偉いさんで多忙なのはわかるが、それでも、
(見舞いに来てこんな早く帰るのか)
 毒突きつつ耳を澄ます。
「鳳羽夫妻が発見されたのは、カッパドキアでも、観光地からは離れた荒野の真っただ中だった」
 リュンはそこから「旅の人たち」に拾われて大きな街まで連れて来られた、と証言した。どんな人で、何という名前だったかなどは言葉が通じなかったのでわからない、とも。
「だが間違いない。『旋回舞踊』は連中の十八番だ」
 矢辻若は、警官が目撃したリュンの回転こそ、メウレウィー教徒の旋回舞踏そのものだと説いた。音楽に合わせて回転し続けるのが、彼らの祈祷なのだという。
「トルコという国は思想の管理が厳格だからな。メウレウィーも、観光用の見せ物以外は禁止されている」
 リュンは命を助けてもらったから、と彼らをかばっているのだろうが、
「トルコ警察に教えてやったら、恩を売れる」
 冷徹な声。これが矢辻若の本性なのだろう。
 対する妹亜は「はい」とか「ええ」しか言わない。
(何しおらしい声出しているんだ!)
「メウレウィーはともかく、イスラム神秘主義が原理主義テロリストの温床だということぐらいは、知っておかないとな」
「はい。済みません」
 二人は寄り添うように立ち上り、玄関に向かった。
 自分もそろそろ戻るしかない。


 捜査本部はばたついていた。
 芳岩幾斗はその後いっこうに見つからない。そして、をぐら笑果のオフィスの封印が破られていたのが発見された。電気すら点けっ放しだったが、巡回に来た警官は刑事の捜査中だろうと気にも止めなかったという。
 オフィスからは芳岩の指紋が採取され、しばらくホテル暮らしが出来るほどの現金と、レモン色のシャツにロイヤルブルーのパンツのスーツが無くなっていた。
 小倉が最後の日に持っていた赤茶のバックは、行方がわからなくなっている。
 遺体発見の際所持品が殆どなかったのは、芳岩が小倉のバッグを奪ったから。そして中の鍵でここに忍び込んだ、と捜査本部は見ていた。
 何のために、芳岩は危険を冒して家探しをしたのか。それほど隠したいものがあったのか。
 このネット交換殺人事件の何が、まだ自分たちにはわかっていないのか。その真相と情報漏れは、また妹亜と矢辻若は関係しているのか?
 乙部の供述を整理しつつ頓田は頭を捻り続けた。何度かリュンの意見を聞きたい衝動にかられたが、出来る訳がない!
 捜査本部全体が浮き足立つ中、福岡県警から連絡が入った。
「葛理はゆら、ハンドルネーム『フランボア』が!!」



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