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ピンクのイルカが夢を見た 1-11

 「松法さんの携帯です」
 有人以外の三人がそう認めた。
 机の上にぽつんと置かれた白い携帯のボディには無数の小さな傷が見える。
 持ち込んだのは二人組の刑事。中年の女と若い男のうち、話すのはもっぱら立輪《たてわ》と名乗った長身の男の方だった。寝癖を取るのを失敗したように見える立った髪に、犬のような愛敬のある目。きびきびと有人たちに経緯を話す。
 携帯を見つけたのは近くの清掃会社だった。ゴミの中にあったそれに気付き、念のため事件に関わっていないかと警察に届けた。近隣の様々な施設掃除を請け負っている会社で、いつどこのゴミから出たかはわからない。

 有人はまつみの携帯までは覚えていなかった。
 ただ恐かった。
 (まつみ、まつみ……)
 必ず無事戻ってほしい。そうでなければぼくは壊れる。
 辛いのはきっと彼女なのに、こんなことを考えているのが嫌でたまらない。慶たちに合わせる顔もない。
「壊れているんだ。どうも水に漬ったらしい……こんな傷はなかったんですね? 他に気づいたことはありますか」
「ストラップがない。違うか?」
 思わず有人は口を開いた。
「あるよ。この三色の糸のストラップは確かにあいつのだ」
「イルカのマスコットって付いてなかったか? クリアーで、こんなちっこい」
 はっとした顔の慶。羽美子がうなずく。
「そうよ! まつみはここにちびイルカをくっつけてたよぉ。塩矢君が言った通り、ガラスみたいに透明なのを」
「じゃあ、ここから松法さんが付けていたイルカのマスコットだけがない、ということかな」
 ペンを片手に立輪が確認する。
 糸ストラップはきちんと金具で留まっている。羽美子によれば、そこにマスコットの金属の輪を通していたというから、わざとイルカを抜いたということになる。まつみが? それとも誰かが?
「またイルカですね」
 梨々果の暗澹とした声が地獄をさらうように響く。
「刑事さん。今度こそ先輩は特異家出人扱いになるんですか?」
「と、特異って?!……」
 立輪は鳩が豆鉄砲を喰らったように目を白黒させた。
「そうだね。携帯だけが見つかるというのはおかし……」
「立輪君!」
 女性刑事が口を挟んだ。
「それは署に戻ってから確認します。今時みんな知ってることだけど、携帯からは微弱電波が出ていてうち《警察》で探せます。それに気付いて捨てたのかもしれないし」
(そうじゃない可能性だってある……)
 そんなことは想像したくない。他の三人の表情も決して明るくはない。
「ところで楡崎さんでしたね。先ほど『またイルカ』と言ったけど、どういうことなのかな?」
 立輪が尋ね、四人は争うように今までのことを訴えた。
「それと、これはお母様のご依頼で聞くんですが……松法さんがパスポートをこちらに持ってきていたかどうか、知りませんか?」
「!?」


 事情聴取の後、担任の中川に有人だけが引っ張られた。
「誰とは言わないが、先生方の中には松法さんを退学処分にしようと言っている人もいる」
「!」
「松法さんは初等部の頃にも学校とトラブルがあったそうで、我慢出来ない先生もいるらしい。だけどわたしは……反省はしてもらって、皆と一緒に卒業して、無事大学へ進学してもらいたいんだ」
 有人はぼうぜんと担任を見上げた。
 「同じクラスの友だちだろう? 考えてあげてくれ!」
 (この人も、まつみのこと本気で心配してたんだ)
 中川の小さな情けない目に、やっとそれに気付いた。それでも。
「……オレも、松法さんに無事戻って来てほしいんです。もう、誰かが苦しむところなんて見たくない。失礼します」
 フリーフロアを抜けると、天井までの大きな窓から日差しが降ってきた。
 (どうしてぼくには何も出来ない)
 どんなことでも手がかりにしようと、人魚の涙の準会員になった。
 だがほとんど何も知ることは出来なかった。
 例の講演会場に出口にあった「七大洋国際環境センター」の入会受付に出向き、活動するなら「人魚の涙」の準会員へと勧められ、応じる形で潜入した。会員証は七大洋名義で出され、本会員になったら切り替えるという。
 ゴミを量り記録する「ゴミキット」を買わされ、二週ごとに七大洋国際国際環境センター主催の集まりでカウンセリングを受けるようにと言われた。先日初めて出向いたが、会場はやはり公共施設で、人魚の涙の支部の場所すら教えられなかった。
『最初から頑張っているわね、凄いわよ』
 でもまだまだーと母親よりずっと年上の担当は見え見えの叱咤をする。

 環境問題やイルカについての参考文献リストを渡されて感想を書くよう指示されたり、海岸清掃のボランティアに参加を促されたり。信者らしいスタッフが準会員を監視していて、新入り同士で話をさせないのは講演会と同じだった。
(ぼくはいったい何をしているんだ!)
 携帯も持たずにまつみはどうしているのか。今、何を考えている?
 海外に行くつもりなのか?
 まつみの父が仕事で渡航することになり、家族のパスポートを保管していた場所を開けると、まつみの物だけがなかったという。警察の調べでは海外渡航の形跡はないという。

『言わないから秘密の夢なのよ』

 青いカーペット敷きの廊下に、クリーム色の壁に、強い黄色の光がただ落ちる。追うような蝉の声。
 夏が来る。まだあの子が戻らないのにー



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テーマ : ミステリ
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