TOP > スポンサー広告 > title - 空など飛べないと刑事は言った 9-6TOP > 空など飛べないと刑事は言った > title - 空など飛べないと刑事は言った 9-6

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

空など飛べないと刑事は言った 9-6

 フランボアは車の中で眠っていた。
 夢の中で、赤や青や黄色の雨が綺麗な流線を描いて降っていた。次に、糸に吊るされた面があちらこちらに浮いているのが見えた。ひょっとこやヒーローものなどお祭りの屋台に有るような数々だ。その一つがフランボアの行く手を遮るのでなかなか前に進めない。そういえばさっきまで、小羊楽園アソシエーションで花束の長さを揃える作業をしていた。鋏がポケットに入ったままかもー取り出して糸を切ると、面はふわん! とこちらに飛び出てきた。血にまみれたその顔は自分が殺した中学生だった。
「!」
 目が覚めると、車の速度は落ちていた。
(変な建物だな)
 高さは数階だがむやみに横長で、無味乾燥な窓が規則正しく並ぶだけの、面白くない建物だ。青く光る窓と壁との比率は一応考えられているようで、バランスは悪くなかったが、妙だ。
「あの、ここ、どこですか」
「心配しなくていいですよ」
 同乗の信者から平淡な答えが返った。車はゆっくりと建物の裏口らしい場所へ進む。
「支部は近くにはないんでしょう。じゃあここはどこなんです?」
 運転する女も、その後ろ、つまりフランボアの隣に座る女も答えない。建物裏口の階段の前にスーツ姿の男二人、女一人が現れてこちらを見守る。駐車場の向こうにはパトカー、裏口のガラスごしに制服姿が見えて、
(警察だ!)
 車が停まると同時に飛び出した。目の前に既に制服警官が立っていた。腰の銃ホルダーが目につき、ぱちん、とスナップを開けて銃を取り出す。警官はフランボアの両腕をがつりと押えにかかった。
(う、う……)
 骨が折れそうで恐い。怒りも吹き出す。両手のぎりぎりの力で銃口を上げ警官に向けた。
 ドン!
「ぐわあっ!」
 反動にもう少しで手を離しそうになった。弾丸はフランボアの顔の脇を通り警官の顎に命中した。奇声と共に彼が倒れ込むと、腰に付いたコードごと銃が引っ張られる。
 チョキン!
 ポケットを探ると鋏があった。夢ではないそれでコードを切り、未だ車の中に居た信者に向けた。
「動くな! 銃を捨てろ!」
 私服制服、寄ってきた警官たちが一瞬引き下がって囲む輪が広がった。
「騙したんだ!」
「罪を犯した者は悔い改めねば……」
 構わず狙った。
 ドン! 
 今度は外れた。信者二人は手足を蝶のようにひらつかせて警官の輪の中に逃げ込む。
「銃を捨てろ! 撃つぞ!」
(また裏切られた)
 ここもあたしの居場所じゃなかった。やっぱり駄目だ。どんどん取り返しがつかなくなる。
 倒れた一人を乗せたまま車を発進させ、前に出て来た警官は構わず撥ねるつもりだったが、直前で向こうから逃げた。署のすぐ前、川沿いの道を百メートルも走らずフランボアは車を止めた。警察の車が追い着いてくる。逃げられない。
「ちょっと貸して」
 飛び降りるとベビーカーの赤ん坊を奪う。母親の悲鳴がうるさい。橋のたもとの小さな建物に逃げ込む。間一髪、警官が踏み込む直前にドアを締め、掛け金をかけた。
 窓から遠い対岸に物々しい姿の警官の山が見える頃には、フランボアも小屋に有ったトンカチやナイフをこれみよがしに持つ余裕が出来ていた。そんなつもりはなかったけれど、立て篭もるしかない。赤ん坊を木の台に寝かせ、窓から見えるように銃を構える。
 外で何か言っている。頭に血が昇って聞こえない。ただ叫ぶ。
「解放して欲しかったらストーカー野郎を連れて来てーーーっっ!!」
(あれより前には戻れないなら、あいつを殺してやる!)



『……犯人が赤ん坊に銃を向けたまま一時間が経っています。業務で開いていた川の作業小屋に立て篭もったことで、ナイフ等の道具を手に入れてしまい、赤ん坊が人質では警察も動きがとり難いことなどから、現場では膠着状態が続いています』

(フランボアさん頑張ってるなあ)
 クーラーが良く効いたホテルの客室。テレビを見ながら月音は感心した。
 自分も頑張りたい。何をすればいいんだろう。
(百太さんは、まず自分が好きなものをリストアップしてみなさい、って言ってた)
 何もかもが退屈だった。人を殺してみたけれど、それも面白くなかった。殺されるのはちょっと面白いかなあと思ったけれど、百太の「教え」を知った今では、たいしたことでない気がする。
 百太のことは好きだ。クラスの女の子を好きとか嫌いとかいうのとは別のレベルで、尊敬している。

『わくわくする毎日のためにーあなたのやりたいこと、あなたの夢は何ですか?!』

 画面に白い大きな建物が映った。年配の夫婦に記者たちがマイクを突きつける。
『をぐら笑果は息子さんの婚約者だったんですよね! 紹介はされてたんでしょう』
『門倉さん! をぐら笑果は雑誌で息子さんのことをこんなに何度も……』
 大判の雑誌が記者の手で掲げられてぱたぱたと風になびく。
『殺人グループの主犯だとかいう女と息子は顔見知りではあったようですが、それだけです。君はどこの局だ? 訴えるぞ!』
 夫妻は群がる報道陣を振り切って病院から車に乗り込む。
『スタジオです。両親はこう言っていますが、当の門倉氏はをぐら笑果について、つい三十分前にこう話しているんです!』
 興奮し切ったアナウンサーの声に月音は眉をひそめる。画面は切り替わり、

『笑加は優しく、きめ細やかな配慮をしてくれる良きパートナーで、人生を共に切り開いていける仲間でした……信頼していました』
『本当に知らなかったんですか!』
『はい。ですが……今となっては、笑加が恐ろしい犯罪行為に手を染めていたことは、認めざるを得ません』
『をぐらが生きていたら婚約は破棄しましたよね?』
『いいえ』
 ざわめく報道陣。
『……笑加が私に隠していたことを知った今でも、私は笑加を愛しています』
 月音の胸もざわざわする。力でかさぶたを剥がされたような感じだ。
『笑果が生きていたら、彼女が罪と向き合えるように助け、そして待っただろうと思います』
 頬にこぼれた涙が、アクセサリー付きの派手なスーツと不釣り合いだと月音は思った。もみあう記者たちの罵声に構わず、男は深く頭を下げた。

 不愉快だ。これは百太への侮辱だ。
 こんな男があの人の婚約者だなんて信じるものか。
(そうだ…)
 自分がやりたいことは、逮捕されないことと、復讐の二つだ!

『夢の実現のために必要なことは?』

 ー金と時間と自由。
 生活資金はスリや強盗で手に入れよう。夜中に寂しい道で通行人を刺し殺しでもすれば、財布など簡単に手に入るだろう。
 お金を持って隠れてさえいれば、時間と自由は使い放題だ。
(百太さん。あの男とは違って、ぼくはあなたを裏切りません)
 茶色のソファーに腰かけたまま月音は新聞を凝視した。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。