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空など飛べないと刑事は言った 10-1

 目が霞む。床と壁の境のラインも良く見えない。
 警察は離れずこの小屋を包囲している。赤ん坊は時折泣き、銃を持った手は固まって感覚がない。その上お手洗いにも行きたくなって、フランボアは、もう全てが嫌だった。

『あなたの夢は何ですか』

 怪盗カルビの忠告で家から逃げた夜、テレビで盛んに流されていた自分とは違う一流の女の映像。あの人も結局は殺されてしまって、それで騒がれていたらしいけれど、何故か強く耳に残っていた。
(あたしの夢は、ストーカーの奴に会う前に戻ること)
 時間を遡る。無理だ。

『あなたが本当にやりたいことは何ですか?』

 ……そうか。自分は間違えたのだ。
 警備員のじじいも許せなかったが、復讐するべき相手は、何もかもを奪ったストーカー本人だったのだ。
 あいつを呼べと要求はしてある。その頭を撃ち抜いたら、もう終わりでいい。
 視界が暗い。ざあっと夕立の音が聞こえてくる。
 雨の音、震える体、と、まばゆい光がフランボアの視力を奪った!
 続く大きな物音。両腕はがしりと掴まれ、銃が叩き落とされる。
 目の前がミルクを流したようにぼやけた。武装警官の腕の中、フランボアは、自分が泣いていることに気付いた。

                 ※

 葛理はゆら逮捕の報に、あすみちゃん事件の捜査本部ではまばらな拍手が起こった。
 撃たれた警官も命には別状がなく、赤ん坊も無事保護された。向こうではきりが付き、後はこちらが芳岩幾斗を捕まえるのみだ。
「良かったよ。和歌山の刑務所まで、例のストーカーに話を聞きに行く手配をしていたんだが、手間が省けた」
「要求に応じるつもりだったんですか?」
「…訳ないだろう。話を押える必要があっただけだ」
「って、えッ! 和歌山?!」
 山浦と捜査員の話を聞くとはなしに聞いていた頓田は、同じ所で目を見開いた。
(和歌山って!?)
「そうだ」
 鷹揚な返事を聞いた時、樹馬の姿を視界の隅に認めた。


 見舞客の姿を見ると、リュンは面倒臭そうにイヤホンを耳から外した。
「大丈夫かい? 痛みはどうだ?」
「男の心ほどは痛みませんよ」
 相変わらず訳のわからない答えだ。
 明日には退院なのに大げさだと言うリュンに、数時間前ここに来たのは仕事で、今回が改めての見舞いだと説明する。
「頓田様、随分お人よしなんですな。ご主人様のが移ったんですかね」
 リュンは薄く笑って頓田を見上げた。
(まさか)
 顔を取り繕って苦笑を作る。
 捜査本部に顔を出した樹馬に声をかけると、帰りにリュンを見舞うという。妹亜に探りを入れるのに樹馬かリュンかどちらか使おうと思っていたが、二人一緒なら願ってもない。
 さりげなくベットサイドのデスクに目を配る。赤いチェック柄のコップは妹亜が持ってきたのだろうか。昼前会った時は、こんなものは持っていなかったように思うから、矢辻若と別れた後でまたここに来たのか。
「アンさんがお人よし?」
「じゃねえですかい」
 リュンがぶっきらぼうに返す。
 壁のカレンダーに書き込みがあるが、字が小さ過ぎて読めない。何だろう。
「矢辻若のおじさんに頼まれたとはいえ、俺の保護者役なんか買って出て。ご主人様、いい女でしょう?」
「君は!」
 突然樹馬の声が大きくなった。睨むようにリュンを見る。
「誤解しねえでくださいよ。ご主人様は俺の惚れたご婦人ってわけじゃありません。世代が違い過ぎます。……升形様、ご主人様には内緒にしておきますな」
「な!……いやそれは……えっと何って言うか、ね……」
 一転、見るからに情けない顔を真っ赤に染める。
 背伸びして見ると、カレンダーには給料日、と妹亜らしき字で書いてあるだけだった。
「私も内緒にしておくよ」
 頓田が返すと樹馬はますます目を泳がせる。
「最高機密としてね。秘密と言えば升形君、一斉取り調べの前の日、君は喜屋武警視の所に行くって言っていたが、やはりそこでもしゃべりまくったのかな?」
 冗談めかして笑って見せる。
「あ~っ!! 頓田さんって、僕が何でもしゃべっちゃうと思ってるんでしょう? 川が海に出るのと同じようにぜ~んぶだだーって流してオールオープンOK!? そんなことないですよ。僕だって社会人なんです。しかも一年目じゃなくて、もう二年目! OSのバグだってあらかた取れる時期で……一応考えはするんです! 頓田さんは取り調べ担当だ、って聞いてたからしゃべりましたけど、アンさんには話しませんでしたよ。『明日、一斉取り調べがあるって噂ですよ』って言っただけで」
 駄目じゃないかー心の声である。
 やはり妹亜は知っていた。ではー
「……試食会の連中に捜査情報がバレたのは、祝重雄が流していたって正式に確認出来たのかな」
 思いついて言ってみる。
「それが……祝じゃないみたいなんです」
 樹馬はがくりと肩を落とした。押収した祝のパソコンにも、プロバイダーのサーバーに残ったメールにも、彼が警察の内部情報を手にしていた証拠は見つかっていない。
「現在、他の人物の可能性を鋭意解析中です」
 業務報告のように真剣に言った樹馬に対し、
「ふうん」
 と気のない返事のリュンが、好対照だった。
「でリュン君。アンさんは今夜ここに寄るの?」
「いえ。明日退院の手続きには来てくださいますので、それまでは」
 冷たく返すリュンに、心底残念そうな樹馬。
 頓田は判断した。今日はこれ以上ガキのリュンや、それこそお人よしの樹馬から情報を得るのは無理だろう。しゃべりまくる樹馬に適当に相づちを打ってから、帰ろうとした時、頼まれた。
「頓田様、少しだけ残っていただけませんか?」



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