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空など飛べないと刑事は言った 10-2

 同じ頃、月音は暗い客室で目を見開いていた。
 用も無いので早い時間にベットにもぐり込み、少しして突然、訳のわからない恐怖に襲われたのだ。
 小さな子どもの時以来のことで、どうしていいのかわからない。
 ベットサイドのライトを点け、小さくBGMを流しても、全身震えが止まらない。
 落ちるように膝から床に降り、百太のバッグを握ると再び布団に包まる。革の手触りを手のひらで確かめてから胸に抱きーそして眠った。


 
『まあちょっとしたコラムでしてね』
『広報に見本紙を一部届けてくださいませんか? それに企画書をつけて。意図を説明していだたければ、広報からご連絡出来ますよ』
『いやー、そんな大げさなことじゃないんですよ。ちょっと活躍ぶりを知りたいだけでしてね。事件を再検討しての捜査って、いったいどんな風にするんですかね』
『申し訳ないんですが、わたしはそちらの「流通繁栄新聞」を読んだことがないんですね。業界紙なんですか?』
『ま、そんなとこです』

 リュンが頓田に聞くように促したのは、自称「流通繁栄新聞」記者からの電話の録音だった。
「これ、芳岩幾斗じゃねえですかい」
 イヤホンを外しかけて動きを止めた頓田に、淡々と言う。
「例の殺人サークルのメンバーのうち、社会人経験が全くないのは奴だけです」
 乙部は高校時代、校則違反ながらラーメン屋など様々なアルバイトをこなしていた。一方引きこもり気味の芳岩は、アルバイトもしていない。
 例の電話は「お世話になっております」を返さなかったことから、社会人経験がない人間からではという話が出ていたーことなど慌ただしさで正直、頓田はすっかり忘れていた。
「ご主人様に確認してもらったところ、あなたが葛理に話を聞いた翌々日のタイミングでかかってきているそうです。あなたと葛理との接触はイコール、犯行グループへ警察からの最初の接触ですから、警戒して探ったとも考えられます」
「なるほど」
 納得は出来る。
「IT隊のメール解読が進めば、はっきりするんでしょうがな」
 連中は符丁を使って暗号のようなメールをやり取りしているため、証拠固めがなかなか進まない、とIT捜査隊のリーダーが会議でこぼしていた。
 これを知っていると言うことは、妹亜がリュンに会議内容を教えているということでもある。
 どうする?
 もし、妹亜が情報を漏らしていたことを押えたとしても、背後に矢辻若どころか表の権力ー政治家や大企業かーでも裏の力でもあるのなら、何が出来るというのか?
 それが妹亜を危険に巻き込むことはないのか。自業自得とはいえ、あの娘がひどい目に合うのは見たくない。どんな可能性……と想像するのも嫌だ。

『足りないものを与えさえすれば、必ず夢は叶います』

 首を振って小倉の幻影を吹き飛ばす。
 自分には翼がない。有るのは筋肉が良く付いた短い足のみ。
 人を巻き込まないように、かつ自分も保身し、山浦など幹部を何とか動かして今後の情報漏れを阻止する、くらいしか出来ないかもしれない。
 けれど捜査に必要ならば、自分はやる。
 キーパーソンでもある最後の逃亡者、芳岩幾斗の逮捕は、現在の最優先事項だ。
「社会人経験の有無だけで言えば、農家の祝の可能性もありますが、こっちは警察に電話するほど危ない橋を渡るタマとは、思えませんからな」
「……農家ってのは自営業者だ。農協や市場関係者とか、いくらでもビジネス上の付き合いはある。社会人のマナーがわからずにやっていける仕事じゃない……」
 祝重雄は長野在住の専業農家だった。中学生の娘と小学生の息子を持つ四十代ながら、若い連中を手玉に取って自分は手を汚さずに逃げた。小倉笑加同様、頓田の嫌いなタイプだ。
 彼の指示で葛理はゆらが手を下した女子中学生殺人事件では、祝の実の父親が標的《ターゲット》にされた。昔、恋人との仲を父親が引き裂いて以来上手くいっていなかったそうだが、七十過ぎの父親に殺人の罪を着せて逮捕させるなど、理解出来ない。
「そうなんですか」
 リュンは薄く笑った。
「俺は警察の情報なんぞ取る気はありませんから、答えなくて結構ですよ。ただ警察なら変声器を使っていても調べられるでしょうから、一応指摘したまでです」
「……え?」
 先程から何か言い方がおかしい。引っかかってリュンを見る。
「ところで何が目的なんです? 頓田道二郎」
(!)
 口調も変わった。
「何を狙っているんです!」
 リュンは一回目を反らしてから、改めて刺すような視線を合わせ、ゆっくりと説明し出した。
 自分と頓田の関係は、同じ日の職務後にわざわざもう一度見舞うほどのものとは思われない。それに今、頓田はベット回り等をしきりと観察し、カレンダーの字まで懸命に読もうとしていた。
「あなたはご主人様の様子を窺っている。どういうことなのか、説明していただきましょうかね」
(だからこいつは嫌だったんだ)
 単細胞のコンピューターおたくの樹馬とは違う。
 覚悟を決めるまでの時間は短かった。
「君を男と見込んでの話だ。喜屋武警視に内密に出来るか?」
「内容によります」
 二人は睨み合った。

                   ※

 青いカーテンを開くと東京の空はもう明るかった。また冒険の一日が始まる。
 思ってから月音は、以前家と学校の往復だけをしていた頃は、カーテンを開ける度にまた退屈な一日が始まるのかとがっかりしたのを思い出した。
 遠い昔のようなあの頃は、あれでよかったのだろう。
 今は今日も明日はどうなるのか、見当もつかない。
 この部屋は今日までだから別のホテルを探すのだけれど、いったいどんな所になるんだろう。どの街に留まることになるんだろうか?
 いつまでホテルに暮らして居られるんだろう。
 不安が暗雲のように立ち篭める。
 警察に見つからないか、百太の復讐を果たし損なうことはないか。
 昨夜の「恐れ」とは違う、胸が締めつけられるような「不安」が体を立ち昇っていく。
 シャワーを浴びてから、レモン色のシャツとロイヤルブルーのパンツのセットを身につける。
 かなり汗臭くなってしまったけれど、依然香水の匂いは強く滲み付いている。この香りに包まれている限り、自分は前を向いて進んでいける。

『夢の実現のために必要なことは?』

 何々だったらなあと愚痴るのでなく、必要なものを得るにはどうしたらいいか建設的に考えるべきー雑誌のインタビューで、百太が言っていた。
 そうだ!
(出刃包丁を買おう)
 フルーツナイフでは、余りに頼りなさ過ぎる。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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