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空など飛べないと刑事は言った 10-3

 長い地下街を通って大きな駅に着く。電源を切ったままだった携帯電話をバッグから取り出し、久々に開く。
 行き交う人々の足音が騒がしい。
 携帯の電源を入れれば警察が位置を探知出来る、と「怪盗カルビ」は教えてくれた。だが「目標《ターゲット》」の場所を割り出すために、どうしてもネットで調べなくてはならない。手配が回った今、学生証を見せる必要があるネットカフェも使えない。
 JRに私鉄、地下鉄の数々が乗り入れる大きな駅。ここに居たとわかっても、目的地が警察にわかるとも思えない。
 月音は情報を仕入れるとすぐに電源を切り、改札口へ進んだ。

 十時三十七分。
 捜査本部に若い刑事の悲鳴もどきの声が響いた。
「携帯がぁ! 芳岩幾斗の携帯の電源が入りましたっっ!!」
「場所は?」
 刑事が言ったのは都内有数の大きな駅の名前だった。
「緊急配備! IT隊にも連絡を」
「もういってます!」

 十一時二十分
 自席のパソコンー名付けてラナちゃんーに向かっていた樹馬は、肩越しに上司に呼ばれた。
「呼び出しだ。本部の頓田警部補から」
「え? ですが……」
「ますっち、ここは任せろ!」
 隣席の先輩の言葉に、樹馬は頭を下げてから外へ向った。

 十一時五十二分
 歩道の広い大通りに街路樹が申し訳程度の陰を落とす。
 灰色のビルの低層階にはゆったりとした作りの店舗が入る。ここも、隣も……一フロア以上の高さのショーウインドウ、よく磨かれた床や柱に、時折強く照り返す光。
 高級感にあふれた街の一角に、人が集まっている場所があった。局の名前入りのテレビカメラの隣で、記者たちが思い思いにマイクを持ち、数人の制服警官が彼らに対峙する。報道陣の後ろには一般の人々も集まり始めていた。
 赤い車が車道から乗り入れ警官の誘導で停まる。一人が降り、一人は奥の駐車場へ車を動かして去る。
「従業員を撮るのを止めてください」
 悠然と、だが強ばった顔で車から歩いてきたのは、アクセサリー店の店長兼デザイナーの門倉だった。光沢のある灰色の上着に、無造作な黒いシャツの重ね着が細身に似合う。
「をぐら笑果へのお気持ちは変わりましたか?!」
「もう店を開けるんですか!」
 記者たちは責める言葉で寄せ警官は間に入る。押されながら群れを見渡した門倉と一瞬目が合った時、月音の胸はきゅっと痛んだ。
 野次馬たちの最後尾で首を伸ばし、月音は機会を窺っていた。腕に掛けたバッグにはすぐに出せるよう包丁が備えてある。携帯でこの店の場所を調べる前に、駅直結のデパートで入手した新品だ。
 「出刃包丁」という言葉は知っていたが、実はどんなものか見たことはなかった。店員に探してもらった出刃包丁は人を刺すのには向かなさそうだったので、別の尖ったものを買ったのだ。
 門倉は、これはないでしょう等と叫びながら警官を手前に引っぱり込んで、何やらもめている。マスコミの後ろにやじ馬も寄せ、誰と誰が押し合っているのかわからない。強い風に声もよく聞こえない。
 と、押し付けられたマイクから門倉の声が通った。
「……修学旅行生の方から、東京に行ったらと楽しみにしていたのに開いていなかった、とのメールをいただきました。本当に申し訳ありませんでした。……待っていてくださるお客様がいらっしゃる以上、店は開けます」
 お客様を取材で煩らわせないで、店内にも入らないでくれと頼む声に、記者たちから罵詈雑言に近い反論が返る。
 ーがぶがぶやシュミットは警察に居る。リュンという男は、今ではどうやって探していいのかわからない。それなら標的は「彼」だ。
 百太さんのために。
 耳元で血がどくんどくんいうのが聞こえる。
 突然、足元が消失したような不安に襲われる。背筋も寒い。
 退屈、って何だったけ? 今必要なことは? 百太さん? そう、落ち着くことだ。
 しっかりしろ!
 溺れたように息を吸い直して月音は騒動を見回した。警官は記者にばかり目がいっていて、自分に近づく者はいない。野次馬たちも後ろは見ていない。
(あれ?)
 そんな月音だから気付いた。
 隣の建物前、金属製のスツールに座り、中年男が一人煙草を吸っていた。古臭い上着と短髪に、どこかこの街と馴染まない空気が漂う。のんびりと煙草を楽しみ、だが門倉たちから目を反らすことはなかった。

 少し時間を戻ってー
 警官は、しばらく門倉が何を言っているのかわからなかった。
 無理矢理腕をつかまれて引っ張られ、耳元で強い口調で叩き付けられた。自分たち警察が抗議されているのかとも思った。門倉もまた「笑加の服が」「サークル最後の」「そっちを見るな」と断片の叫びを繰り返し、要領を得ない。理解するまでに二、三分かかった。
 ようやく事の重大さを悟って警察無線に手をやり、止める。
 今ここで警察無線を使ったら、マスコミに筒抜けになる。
 二秒躊躇した後、
「ちょっと連絡!」
 同僚の白い目も構わず群れを突き飛ばして抜けて外に走った。


 十一時五十七分
「付近にいる私服の者は至急本部に架電せよ。繰り返すー」
 反応がない。捜査本部で、山浦警視は渋い顔で電話を睨んでいた。
 後は刑事たちが現場に急行するのを待つしかない。その数分の間、奴を逃がさないでおけるかどうかー
「警視、入電ありました!」
 転送させて受話器を掴む。
「頓田警部補。君か……」
 予想通りのような、それでいて運命があまりにも出来過ぎている気がした。


 同時刻。
 頓田は現場ビル前に停めた車の中で山浦の話を聞いていた。
『野次馬の中に芳岩を発見。門倉が指摘した』
 小倉笑加の服で、オフィスから無くなった物と同じ黄と紺の上下を着用している。電源を入れた短い間に、芳岩が携帯で門倉の店を検索したことも調べが着いていた。
「知っています。指摘がなければ、密かに確保しようとしていました」
『勝手なことをするなっ!』
 今芳岩を捕まえたらマスコミに実況される。未成年の容疑者の顔が全国に放映されたら、取り返しがつかない。時間があれば各社に根回しするが余裕がないんだと山浦は諭す。

『芳岩がターゲットにするのは、多分あの人です』

 頓田はリュンの指摘で門倉の店の前に着き、そして、手配の少年を見つけた。ここまで来るとこの男メイドには驚くのも嫌になってくる。
 何はさておき芳岩の頭に上着を被せて顔を隠し、その後、暴れようと何だろうと連行しようと思っていたのだがー
『奴は危険だ。何を考えているんだか……』
「復讐でしょうな」
『誰かいるのか?』
 後部座席のリュンの突っ込みに、山浦が怒鳴った。
「喜屋武警視の所の…例の子と、升形技官が車に同乗してます。ご存知でしょう、IT捜査隊の……」
『技官でもメイドでも追っぱらえ!』
 樹馬とは先程合流したばかり。子犬のように心配そうな顔の彼と、無表情なリュンの二人に向かい、人さし指を口の前で立てる。と車のドアでバタンと音を立てた。
「二人を車の外に出しました。失礼しました」 
『私服捜査員を急行させている。それまで芳岩を監視しろ。移動したら行方を確認し……』
「頓田様っ!!」
 腕を掴んでリュンが裂くように叫んだ。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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