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空など飛べないと刑事は言った 10-5

(百太さん……)
「それとも……笑加を殺したのは君ではないのか?!」
「……」
「君の指紋が屋上のドアや床から出て、刃物にも残っていたというから……警察の発表をうのみにしていたけれど、本当にそうなのか? 教えてくれ! 笑加は誰に殺されたんだ?!」
 懇願が、不愉快だ。
「百太さんを殺したのはぼくだ」
 この役は他の誰にも渡さない。だが。
(百太さんを、殺した?……)
「何故?!」
 月音と門倉は睨み合う。
 大丈夫だ。包丁は投げてしまったけれど、フルーツナイフがまだある。
 店の入口近く、左右に一人ずつ店員がたたずんでいるのも知っている。彼らが動いたり、警察が入って来たりしたら、すぐ門倉を刺せばいい。
「……あなたは、百太さんの素晴らしい計画を誹謗した」
 カメラの前でも、今ここでも。
「人殺しのどこが素晴らしいんだっ!!」
 意味がわからない、響かない言葉。
 体が冷える。クーラーが効いてきたようだ。
 あのひとの服が肌に張り付き、汗まみれの体から熱を奪っていく。
「想像してみてくれ。もし、君のお父さんやお母さんが急に亡くなったらどう思う?」
「別に、どうでもいい」
 門倉は目を見張った。
「本気で言ってるのか」
 当たり前で本気の答えだったから、これ以上返事もない。
 父が居なくなったら、お金を持ってきてくれなくなるから困る。母が居なければご飯が出てこなくて困る。だけど家を出てきた今、どちらも関係ない。
「だから君は簡単に人を殺せたんだな……」
(殺人が簡単だと!?)
 屈辱にぶるりと震える。
 あのひとの最高の計画があって、忠実に実行しようとした自分たちの努力もあって、自分たちの殺人は成功してきたのだ! こいつにこんなことを言われたくない。
「……何度も考えたよ。あいつは過ちを犯して、当然の報いでバレて、ありとあらゆる言葉で叩かれてる。生きていたらプライドの高いあいつはどう思っただろうか、死んでしまって良かったんじゃないか、って、何度も君のやったことを肯定しそうになった。それでも……! たとえどんなに苦しんだとしても……わたしのために、えみりーぬに生きていて欲しかった!!」
 膝から崩れ落ち、定まらない腕で二度、床を叩いた。
 言葉が出ない。大人の男が泣くところなど初めて見た。
「笑加を返してくれっ!」
 冷たい。体の芯から冷たい。
「それが出来ないんなら、罪を認めて警察に自首してくれ」
 立ち上がり、手をはたく門倉。
(するもんか)
 ぼくは百太さんのためにー
 丸みを帯びた体。動かなくなって、それでも放った輝き。
「君が、えみりーぬを殺したと……」
 えみりーぬ、だとー
 怒りが体を駆け抜けた。
 門倉に向かって駆け込むと、後ろに気配を感じた。ドアの所に居た中年の店員が追って来ていた。
 体力でなら勝てる。振り向いて、ナイフをかざすように見せかけて素早く隣の陳列テーブルに這い上がった。踏んだ銀細工が足元でがさついて、少しバランスを崩したが気にしない。店員は足で止めようとしているが、ここまでは届かない。見切って向こうへ飛び移る。
「ぐわっ!」
(馬鹿な)
 足が、まともに胸に入った。
 男の脚は高々と、信じられないほど真っ直ぐに伸びていたー一瞬綺麗だと思ってしまうほど。
 実際には、彼は台の隅を握ってぶるぶるとこらえていたのだが、そんなことは関係ない。
 ガッ!
 両足を抱えられ、次の瞬間、うつ伏せに押し倒された。テーブルの上、腕は後ろ手に捩り上げられ、右手のナイフもたちまち奪われる。
「警察だ。芳岩幾斗、傷害未遂の現行犯で逮捕する。ほかに小倉笑加……」
 呆然と聞いた。
 頭に刑事の上着を被せられ、引っ張られて車に載せられる。
 フラッシュの音、記者の怒号、それから静かな車の中、警官二人に挟まれて座る。
 先ほどとは違う声の警察官に名前や住所などを聞かれ、お腹は空いていないか、喉は渇かないかと尋ねられた。
 空腹など感じていない。百太からもらったお金で、たくさん美味いものを食べたから。
 自分は「負けた」ー警察に捕まったのだ、ということが、実感されてきた。

『あきらめるくらいなら、最初から夢なんて見ない方がいい。これと決めた目標は必ず達成する。これこそ、本当の大人の生き方なのよ』

 雑誌にあった百太の言葉。 
 汗臭い上着の下、両腕を刑事に取られたまま月音は考えた。自分はなぜ負けたのだろう。
 
『今の自分に、足りないものを加えてやれば、必ず夢は叶います』

 どこかの警察施設で降ろされた頃、ようやくわかった。
 今回自分に足りなかったのはー権力《ちから》だ。
 警察はネットから試食会メンバーを割り出せた。携帯の位置も調べられた。普通の高校生の自分たちでは太刀打ち出来なくても当然だ。
 ならば未来、自分は権力者になろう!
 この事件に首を突っ込み始めたのは東大出の女性警視だと、百太が言っていた。
 勉強しよう。何なら東大でも行ってやる。自分は十七、どうせ前科はつかない。
(そういうことだよね、百太さん)
 涙を拭こうともしなかったさっきの男。
 血に沈んだまま照りつけられていたあのひと。
 振り切るように。
 視界を覆われ、腕を取られたまま月音は胸を張って歩いた。


 芳岩幾斗を引き渡したーと頓田が戻って来たのは、車を飛び出してから十分ほど後のことだった。歓声の後、助手席の樹馬が尋ねる。
「付き添って行かなくて良かったんですか?」
「私は乙部を逮捕している。これ以上手柄を独占したら後が面倒だ」
「大人の社会ってのは面倒ですな」
 後部座席でリュンが伸びをする。
「何言ってるんだって! そういうことに細かく気を回せるのが、大人の男ってもんなんだよ。僕はまだ、皆に面倒を見てもらってる方だけど……いつかは頓田さんみたいに、大人の気配りが出来る男に成りたいよ!」
「気配りか。確かに褒めてもらってもいいかな」
 のんびりと言うや否や一枚の書類を樹馬の前に突き付けた。
「升形君。怪盗カルビは君だな」



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テーマ : ミステリ
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