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空など飛べないと刑事は言った 11-2

「僕がこの仕事についたきっかけ、覚えてますか?」
 かなりの時間が立ってから、やっと樹馬が話し出した。
「前にアンさんのところでしゃべったと思います……学生の時、警察のネットパトロールのボランティアに参加したって……」
「ああ」
「僕はそこで見ていたんです!」
 相変わらずの子犬の目。
「彼らのサークルの前身、『人を殺してみたい人の掲示板』を」
 溺れかけて飼い主に向かってあがくような必死さで。
「……あの頃はもっと書き込む人は多くて。気分が悪くなるようなネタがいっぱいあって、読んでて何度も吐きそうになった。だけど、ただ悪ふざけをしているだけの、よくある掲示板だと思ったんです」
 報告書にも書いた。
「ここには危険性はない、って」
 唇が大きく震える。うるんだ目、だが流れるものはない。
「僕がそう書いた後、あの掲示板は注意リストから外れました。だけど……結局こんなになっちゃったじゃないですか! やっと……やっと警察技官に成ったのに。親を拝み倒して専門学校の学費出してもらって……バイトもして、再度ネットパロールのボランティアもしながら、ウチの受験勉強もして……親への借金も返せてないのに。あいつらが、僕が見逃した連中だってバレたら……」
 一時しのぎだとはわかっていても、彼らの逮捕を遅めるほかはなかったという。
「なぜ最初から正直に言わなかった?!」
 見逃すことはミスだが、今回の行為は、警察職員の立場を利用し裏切った、重大な犯罪だ。
「わかってます! そんなこと。だけど、わかった時にはもう遅かったんですよ!……」
 怪盗カルビを名乗って差出元を偽装ー少しわかる者なら「シュミット」を疑うようにーメールを送信した後だった。
「上書き保存したデータが元には戻らないとの同じです……」
 悄然と首を垂れる。頓田は言った。
「……学生の時の君の判断は正しかったと、私は思う」
「な、何言ってるんですか?! 奴らは殺人サークルを結成してたんですよ」
 樹馬は強く言い返した。いつも感じていた彼の正義感が今でも変わらないことに気付き、胸が痛む。
「最初は普通の馬鹿な掲示板だったんだろう。そこに小倉が入り込み、利用出来そうな人間を一本釣りして『三月うさぎの試食会』に変質させた。『夢の達成』とやらに必要な舞台装置として」
 目的のためには何が必要か。足りないものをリストアップして、獲得のため綿密な計画を立てて実行。チェックをしてまたプランを修正する。
 「をぐら笑果」の声が耳に甦った気がした。
 彼女の夢は名声。そのためには、かつての恋人を殺害することすら手段。
「いずれにせよ、ボランティアだった学生の君に責任はない。問われるとしたら、君の報告をチェックした本職の技官、つまり今の君の立場の人間だけだ」
「っ……」
 行こうか、と声をかけて車を動かした。街路樹の葉が強い光を返して後ろへ去っていく。
「頓田さん。アンさんはこのことを……?」
「知らない。私から言うつもりはない」
 間もなく知るに決まっているが。
「惚れたご婦人に知られて困るようなことは、するもんじゃねえですぜ」
 リュンが毒付く調子で吐いた。
「鳳羽君!」
「わかってる。僕が馬鹿だって。でも君には……君に言われると腹が立つよ!」
 樹馬が仕事を失いたくなかったのは、妹亜のそばに居たかったのもあるに違いない。
「それに、怪盗カルビってネーミングもいただけませんなあ」
 気怠い声。いつもより翳のあるまなざしのリュンがバックミラーに映る。
「鳳羽君! 黙りなさい」
(それは私も思うがー)
 だからこそ言ってはまずいだろう。

〈がぶがぶ〉
「月音はおれたちの間で一番性格が良かったのに……」
 頓田を前につぶやいた。
「おれみたいにすぐにキレたりしないし、フランボアみたいに感情的にもならない」
「落ち着いているなら、『百太』もそうだったんじゃないか?」
「百太! 冗談じゃねえよ! 上から人見やがって……」
 なるほどというように頓田がうなずく。
「そうそう。百太こと小倉笑加の婚約者を襲った男だがね。真留留組に出入りしていたチンピラだったよ」
(!)
「小倉の代わり、だろう」
 最初に実行された交換殺人で、偶然に真留留組との関係が取り沙汰された。小倉はそれを利用して捜査の撹乱をもくろみ、組周辺にない火を焚きつけた。おかげで彼らの抗争は激化し、死者まで出た。真相がわかった以上、組の連中が小倉をタダで済ます訳はない。だが小倉も既に死亡しているので、矛先を門倉に向けたのだろう。
「じゃあ、おれはもう安心ですか?!」
「そうとは言えないな」
 頓田はゆるく首を横に振った。
「君は小倉と同じ殺人グループの一員だった。仲間だった、と見られてもおかしくない」
 ナイフを突き立てられたような気がした。
「お父さんにも注意するように言ってあるし、警察《うち》で警備にも回っている」
 びくっ! ねずみのように肩を震わせた時、頓田が立ち上った。
「さ、そろそろ行こうか」
 連れられて廊下を歩きながら問いかける。
「頓田さん。辛くなったら、走って逃げてもいいか?」
「構わないよ。君の自由だ」
 いい年になって恥ずかしいことが、自分は頓田に甘えている。
 この刑事は、実の父のように格好良い男ではなく、泥臭い「オヤジ」だ。それでも同じように暖かかった。警察の手を離れれば、もう頓田と会うこともない。それが淋しい。
(事件の前、俺はもう駄目だって、落ち込んでた)
 だけど、本当は何もかもがあった。
 この手で壊して、今はなくなってしまった「それら」が。
「さっきの件だが……逃げ帰るのはドアの内側までにしてくれ」
「え?!」
 許可を覆されたのかと慌てるがぶがぶを頓田が部屋に招く。
「逃亡と間違えられる」
 と小さな控え室で腰繩と手錠を外す。
「私が追い着くまでは、部屋の中で待っていてくれよ」
 頬で笑う。冗談か何かのつもりなのだろう。慌てて顔を奥に向けた。
 ドアの向こうには、逮捕後、初めて会う父がいるー



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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