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空など飛べないと刑事は言った 11-3

〈居酒屋にて〉
 錦矢昇吾の収賄容疑が公式に否定された夜、五人は酒を酌み交わしていた。彼らは錦矢の学生時代の友人だった。資料を集めては警察や検察に提供し、署名を集め、サイトを作って錦矢の無罪を訴えた。
 目標を達成した今、喜び、互いに労いながら、彼は虚しさを感じていた。
(もしかしたら、ぼくは単に毎日の繰り返しに退屈して、「正義」で活躍する自分に酔いたかっただけなのかもしれない……)
 ここ数ケ月、私生活の全てを捧げることが出来たのは、錦矢の人柄あってこそだが。
 昼間全員で錦矢の墓参りをした。無罪を報告したが、風にたなびく香の煙の向こう、本当のところもう伝わることはないとわかっていたからかー
「……笑加ちゃんも、何も殺さなくっても良かったのに」
 思わず口にした。
「昇吾だったら、付き合ってたことなんて無し! って頼めば、ちゃんとそうしたよ」
 仲間たちはそれぞれにうなずいた。
「あの頃さ、あんな美人じゃなかったよな」
「え、綺麗だったろ? もうテレビに出てたじゃん」
「あそこまでバシッ! って感じじゃなかったよ」
「整形でもしたんじゃねえの?」
 一人が言い捨てる。
「そういうんじゃなくて、オーラっていうか、雰囲気から違ったってこと! 笑加ちゃん、レポーターで使ってもらってたのに局アナに落ちた、ってすっげー落ち込んでたのは、昇吾と別れた後だっけ?」
「別れてからだよ」
 口を挟む。
「ぼく、他の女の子からその話聞いたから。付き合ってた時だったら、昇吾から聞くに決まってるからさ」
 目頭が熱くなって言葉を止める。


『笑ちゃんがそう言ってた』
『これ笑ちゃんの旅行みやげ!』
『笑ちゃん、テレビ局受けるつもりなんだって! さすがだよね!』


 はじける笑顔。照れながら弾んでいた声。
 口にしたビールは冷めてことのほか不味い。
「……笑加ちゃんも死んじまったけどな」
 司令塔だった小倉が共犯の少年に殺された理由は、未だにわかっていない。
「今ごろ昇吾、天国で笑加ちゃんに説教してるよ」
 「天国」には抵抗があった。小倉は錦矢を殺し、あれほどの犯罪を起こした張本人だ。
 だが。
 都内の女の子や重役夫人、長野の中学生のように誰でも良かったのではない。少なくとも、小倉にとって錦矢はどうでもいい人間ではなかった。
「ああ」
 だから、うなうずいておく。
「昇吾、笑加ちゃんのこと好きで好きでたまらなかったじゃねえか!」
 そろそろお開きだ。これ以上飲んだら男五人皆泣き出してしまう。


〈フランボア〉
 ちゃんと「計画《プラン》」を立てればよかったんだ。
 一番憎いのは警備員のジジイなんかじゃなくて、あのストーカー「野郎」だった。
 よく準備してから人質を取って、交換条件で奴を刑務所から引っ張り出してー
 考えながら、フランボアはそれが百太の言葉に影響されていたことに気付いた。猛烈に腹が立つ。
 雑誌やテレビで見た「をぐら笑果」は、手の届かない花のようだった。
 そんな人間が自分なんかを利用するなんて、あまりに不公平で、残酷過ぎる。
「……じゃあ、どうすればよかったって言うんです!」
 仕事も友だちも、将来の夢も何もかもを失ったー東京から来た刑事に食ってかかる。
 まだ「三月うさぎの試食会」が在った頃、尋ねて来たことがある中年の刑事だ。
「あたしは、ただ元の自分に戻りたかっただけです!」
 皆と楽しくて仕方なかった、昔の自分に。
「三年経ったけど、あたしはまだろくな仕事にもつけない。楽しいことなんか何もない。いつもいつも誰かに付けられてるんじゃないか? って脅えてる。誰も付けてなんかない、ってわかってるのに恐くて……」
 家まで十メートルの所で、背後にあの中学生の生首を感じたことを思い出して、口が固まる。
 頓田はより穏やかに諭してきた。
「君は若いからそうは思わないかもしれないが、人生はまだまだ長い。一年や二年、回り道はある。多くの人によくあることだ」
(その人生を、今度は刑務所で送らなきゃなんないのよ)
 とパンと首を上げる。
「刑事さん。あたし和歌山なんかに行かないですよね! あいつが、あいつ、また、い、居て……」
「関係者は同じ刑務所には収容しない。その心配はないよ」
 ほっとする。だが。
(あたしは刑務所に行く。好きな服も着られないし、好きな雑貨も並べられない。食べる物だってー)
「刑事さん。刑務所ってジェラート出ます?」
「ジェラートって何かね?」
 絶句。
「わからないが、洒落たものはまず出ないと思っていい」
(やっぱりあの時、駅で食べておけばよかった)
 今居る長野の警察署からはきっとそう遠くない、あの駅。ガラスの向こうの色とりどりのジェラート。ペールピンクはきっとフランボア。楽しそうに顔を寄せながら食べる観光客の女の子たち。
「あたしが何をしたって言うのよ! なんでジェラートも食べられないような羽目に……ちくしょう!」
 思わず怒鳴っていた。
「わかっているだろう。君は何をしてここにいるんだ?」
 頓田の語調が強くなった。
「君のために命を奪われたあの子こそ、何でこんな目に遭うんだと言いたいだろうな。あの子が君を、いや『三月うさぎの試食会』の誰かを、一度でも苦しめたことがあるのか?!」
 頓田の言葉を、考えることはしなかった。
 生首だ。血の伝う断末魔の女の子の首がまた迫ってきて、自分を見る。
 フランボアは両手で顔を覆った。駄目だ、この世のものでない存在は、目を閉じても消えてくれない。
(ごめんなさい! ごめんなさい! 助けて!!)
 頓田が椅子を引き、席を立つ音が聞こえた。
 狭い取調室の中、隣に女性刑事の気配を感じる。あとは天井に、足元に、ブラインドの下りた窓に、至る所にあの子の首。
 可愛い子だったのに。素直に道を教えてくれたのに。
 ひどい顔になっちゃって、恨んでる? 当たり前だよね。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、許してー
「それなら大丈夫だ。君は」
 突然、頓田の声が聞こえた。
 とうに出ていったと思ったのに、まだドアの前でこちらを眺めている。
「何なのようっ!!」
 訳がわからない。叫ぶと頓田は控え目に笑み、今度こそ取調室を出て行った。



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テーマ : ミステリ
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