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空など飛べないと刑事は言った 11-4

〈和歌山刑務所にて〉 
「葛理はゆらちゃん? 勿論知ってますよ。友だちです!」
「友だち?」
 頓田は思わず問い返した。
「だったんです。大好きな子だったのに、わたしに嫌がらせを……どうしてだったんだろう」
 本当に悲しそうに下を向く。
 会話の相手は元大手食品メーカーの営業だった。「フランボア」こと葛理はゆらが短大時代アルバイトに行ったショッピングセンターに、彼女も仕事に来ていた。たまたま食堂で言葉を交わしたのをきっかけに、彼女は入出者名簿から葛理の電話番号を調べ、ストーカーとなった。(その時従業員入口で警備していたのが土蜘蛛である)
 葛理の生活を一変させたストーカーは女だった。
 これを知った時、頓田は山浦に同性愛かと尋ねた。だが違った。刑務所に収容される原因となった傷害暴行事件も含め、彼女はただ友だちになりたい、と同性につきまとうのだ。
 男が女につきまとえば、周囲が危険を感じるのも早い。だが同性、しかも恋愛感情のない「お友だち志願」では、警察にすらさほどの警戒心は生じさせなかった。
 その結果が今でも寝ついている被害者一人と、体はともかく心に深い傷を負った葛理である。
「君は、葛理はゆらにつきまとったんじゃなかったかね」
「会いに行ったんです! ……わかります? この違い」
 女は諭すように頓田に言った。葛理はどういう人間だったかと尋ねたのに、女は目を輝かせる。
「かわいい子! 明るくて、そばにいるだけで元気になるような子なの、はゆらちゃんは」
 葛理の昔の友人たちの答えとも同じだった。その素質が、目の前のこの女によって傷つけられたのだから、皮肉という言葉でもとても言い表せない。結局葛理は女子中学生への交換殺人を皮切りに、発覚後の逃亡、警察官らへの発砲、赤ん坊を人質に取っての立て篭もりと次々と重罪を重ねた。小倉笑加とは反対で、殆ど計画性も無く。
「はゆらちゃん、どうかしたんですか?」
 女は突然乗り出してきて、額をゴンと面会室の仕切りガラスにぶつけた。
「刑事のあなたが来るなんて……まさか、怪我をしたとか襲われたとかっ?!」
 最初にとある事件の関係者を回っていると伝えたが、具体的なことは言わなかった。刑務所では収容する受刑者絡みのニュースは一切流さないから、この連続交換殺人も、葛理が容疑者に挙げられてからは伝えられていないだろう。
 葛理は無事だ、と言うより早く女がきゅっと姿勢を正した。
「違うのね。刑事さん、はゆらちゃんのこと呼び捨てにしてた。……はゆらちゃんは加害者側なんだ」
 頭も良い。だが。
「何をやったのかは知らないけれど、はゆらちゃんは本当は良い子なんです。気持ちの優しい、友だちがいのある女の子。どうか、それを忘れないでくださいね!」
 頓田は早々と面会室を辞した。
 長く話していたら頭がおかしくなってしまう。刑事の自分ですらこれだ、普通のOLではたまらないだろう。
 頓田は葛理はゆらの気持ちを少し、理解出来た気がした。


〈シュミット〉
「お前のハンドルネームは『メッサーシュミット』から取ったのか」
(またか)
 内心刑事をあざけった。好きなものについてしゃべらせて心をほぐし、雑談から自然に罪を認めさせよう、というのが見え見えだ。もっとも取り調べの刑事に反抗するのはもっと馬鹿げている。背を丸め適当に話を合わせるだけだ。
「零戦など目ではないと言うが、英国のスピットファイアはどうなんだ」
 大戦末期は互角ではなかったか、と写真を前に挑発してくるのもいつもの手だ。彼らはナチス・ドイツ空軍の優秀さを知っちゃいない!ーことは本題ではない。「殺人」などML上のお遊びで、実際に殺すとは思いもしなかった。専務夫人や少女たちが殺された後? ML上で話されている「架空の事件」がニュースで報道されるそれだなんて、常識的な人間の自分が考えるわけないだろうー東京から来た刑事にも力説してみせる。情熱的に訴えるほど、刑事は信用ならないという顔をしてシュミットは焦るが、どうにもならない。
「お父様は寝ついてしまったそうだぞ」
 頓田という刑事は憤怒を抑えたような顔でそう言った。
 嘘をつけ! 
 自分の父親は、息子に冤罪を押し付けられて捕まった、とわかって落ち込むようなタマか?!
(怒り狂ってわめき散らすのが関の山だ)
 あいつはいつもいつも、上から人の頭を押し付けることしかしない。
 あの女のことだってー父親の邪魔さえなければうまくいったはずの女は、村を出て別の男と結婚した。そいつが村議会議員から合併のおかげで市議会議員になり、今では県議へ。彼女も県議夫人だ。時々村へ戻って来るときの服装も今の妻とは全く違う。膝丈のベージュのスカートの布地がいかにも瀟洒で、固くもなくやわらか過ぎず、絶妙な線で腰を包む。レースのついた、そのスカート。
 押し付けられるのはもう嫌だった。重力の錘を外しー空を、飛びたい。
 空を飛びたい、空を飛びたい、空を飛びたい空を飛びたい空を飛びたいー
「お前は空を飛びたかったのか」
 ぎょっと顔を上げる。
(な、なんだ。メッサーシュミットから……そうだよなっ)
 肯定する代わり刑事に尋ねる。
「刑事さんは、パイロットになって空を飛びたいと思ったことは、なかったんですか」
「ある。少しだけ」
(少しか)
 と刑事は思わぬことを言った。
「それより私は、生身で空を飛びたかった」
 はあ?
「飛行機に乗ったり、ハングライダーに吊られたりするんじゃなく。鳥と同じように、この体のままで空を飛びたかったんだ」
(馬鹿な)
「馬鹿だと思うだろう?」
 隠した失笑と頓田の答えが重なった。
「人は、空など飛べない」
 それは冷酷な宣告としてシュミットに響いた。
「飛ぶ機械に乗ることは出来る。鍛練して、とてつもなく高く跳躍することも出来る。だが飛べはしない」
 きりきりと歯を噛みしめる。
「それがわかるのが、分別を持つということだと思う」
 もう答える気もない。
 上目で見ていると、頓田は写真集を閉じ、メモを取っていたノートも仕舞って帰り支度をした。
「……だがね。空を飛びたいと思わなかったら、この事件の解決はもっと遅れたかもしれない」
(?)



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テーマ : ミステリ
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