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ピンクのイルカが夢を見た 1-12

 放課後のロッカー前。有人はたたとまつみに近づいた。
「それ…」
 声が少し下がる。
「透明なんだ……」
 手にしていた携帯。ストラップに付いた三センチもない小さなマスコット。
「塩矢君、イルカ好きなの?」
 隠し切れない好奇心が瞳に見え隠れしている。
「いや。てっきり、ピンクだと思ったから」
 どきまぎと、言い訳めいた言葉。
 透明なイルカは、まつみのコートの薄いピンクを映してほのかに色づいていた。
 くす。頬から笑うまつみ。
「ピンクのイルカなんているの?」
「いるよ」
 有人はまつみの耳に唇を近づけると、そっと教えた―

                   ※

「初等部の時のトラブルぅ? 昔からそんなの起こすような子じゃなかったよ。まつみと遊ぶようになったのは二年になってからだから、その前のことはわかんないけどぉ」
 歩きながら羽美子は首を横に振り、左右の髪がうさぎの耳にように跳ねる。今日の髪留めは葡萄の実くらいの白い球の固まりなので、余計「白うさぎ」らしい。
「僕は何かあったらしいことは聞いてる」
 慶は眉をひそめる。懸命に思い出しているようだ。
「転校しなきゃならないかもしれなかったのが、結局そうならなかったのは―」

『わたしは親に捨てられたから』

「そんな! ひでえよそれ」
 有人は思わず叫んだ。
 親はどんな時でも最後の砦になってくれる人。
 やわらかい笑み、優しい言葉のまつみからこんな言葉が出たなど信じられない。
「よくあることでしょ」
「あってたまるかよ!」
 信じられない反応に余裕なく梨々果に返す。彼女が睨め付けるような視線で固まったことも無視し、慶に問う。
「それ、どんなことだったんだ?」
「だからはっきりしたことはわからないって。あいつ言わなかったんだよ。いくら男は黙ってったって言いもしないことがわかるエスパーじゃないからさ! 中等部の時じゃないみたいだったから、初等部じゃないかな? あ、でも初等部には寮はないか……?」
 それが原因でずっと寮で暮らしている、とまつみは言ったという。社交的ではないまつみには、いつも回りに人がいる寮という環境は負担なようだ。
「寮は中等部からだよぉ」
 まつみが初等部四年の時、父が岡山で病院を始めるため引っ越したが、まつみと母は東京に残った。中学でまつみが寮生になってから母も岡山に行ったと説明する。
「でもぉ、どしてそんなこと言ったんだろ? あたし岡山に泊まりに行ったこともあるけど、まつみのお母さんもお父さんもすっごくいい人だよぉ。お料理作ってくれて、もうメチャクチャおいしかった! そりゃ、ね!」
 チリン。胸の中で小さな警告音が鳴る。いい人ならなぜ血眼になってまつみを探さない?

「まつみも料理は上手いからな。寮のキッチンは小さくてたいしたものが出来ない、ってぼやいてるよ」
(あいつ、料理上手いんだ)
「人間、外面じゃわかりませんからね」
(梨々香ちゃん)
 独り言めいたセリフはあまりにも挑発的で、有人は頭を抱えたくなった。
 案の定羽美子が食ってかかる。
「じゃあ何ぃ? いくら有名人だからって、梨々果ちゃんはまつみんとこのおばさんたちのことよく知ってるってのぉ?!」
 途端に青ざめ、梨々香は黙って首を横に振る。
「ほらあ! どうしてそういうこと言うのかなあ。あたしはまつみんとこのおばさんのことはよく知ってんの! わかったぁ?!」
 エジプトの女王が借金取りに責められているの図に、有人は反射的に割って入った。
「わかったよ、羽美ちゃんありがとう! オレは梨々香ちゃんが言ったのは一般論だと思うぜ? な?」
 そんなことは言ってない、と眼鏡の奥の深い目がこの上もなく訴えていたが、無言をいいことに笑顔でごまかす。
「で、オレ疑問なんだけど。だったらそんないいお父さんお母さんが、何でこっちへ出てきて必死でまつみのこと探さないんだ」
「そりゃ、無理だと思う」
 羽美子の赤みを帯びた頬がこわばり口を閉じる。軽く言ったのは慶だった。
「あれだけの有名人がそんなことしたら、目立ち過ぎるじゃんか?」
「有名人?」
 三人ともここだけは気が合ったように沈黙した。
「何? そんな有名なのかよ?!」
 わざとおどける。少しして羽美子がすっとんきょうな声を出した。
「塩矢っちホントに知らないのお? お母さん、よくテレビに出てるでしょ」
「女優……じゃねえよな」
 身ぎれいにしようと気は使っているが生来のやぼったさは隠せていない、というのが有人の評価だ。ショービジネスは冗談にもならない。
「料理研究家の松法さとえよぉ!」
 料理番組の準レギュラーで、何冊も出ている家庭料理の本には多くのファンが、と羽美子は矢継ぎ早に説明した。
「……料理番組なんて見ねえし」
「そりゃそうだ! でも普通の雑誌にもよく出てるよ。今度持ってくる」
 いつも通りの調子の良さだが慶の顔は日に日に疲れを増す。まつみを思ってだろう。
(待てよ。今まで考えなかったけど、家出の原因に親との関係はないのか?)
 母親が有名人だというのは意外だった。それなら忙しいのは本当だろう。だが娘が行方をくらませて数日後に一度だけ顔を出し、あとは任せっきりというのはまだ納得出来ない。
 
『…オスがメスや子どもをいじめ殺してしまうなど、実は残酷なところもあるのです。続いて、当水族館のスターその二、アシカに移りましょう―』

 声優めいた明朗な声のアナウンス。改札を抜けてすぐのところに水族館の宣伝モニターの映像が流れていた。
 道路をはさんだすぐ向こうが水族館で、建物は積み木の工場のように甘いデザイン。何でわざわざ遊園地みたいな見映えに? と思ってたちまち気付く。女性受け狙いだろう。モノレールの海側終点駅からすぐのここは、まつみと慶のデートの場でもあるという。

 羽美子がまだ不機嫌に見えるのが珍しい。明るい声を作って呼びかける。
「羽美ちゃんほら! そこ水族館! なんか可愛い建物だよな。おまえ行ったことある?」
「何度も行ったよ! ショップにイルカやアシカのぬいぐるみがたくさんあるんだ! 買っとこうかなぁ、まつみへのお土産に」
 白うさぎはあっさり機嫌を直して目を輝かせた。慶が有人の後ろでからかうようにささやく。
「おまえ女の子扱い上手いじゃん。実は隠れた遊び人だったりして? ホントに彼女いないの?」
「いないって」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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