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空など飛べないと刑事は言った 11-6

「そうだ」
 予想に反して彼はあっさりと認めた。
「…父は、そんな仕事には向いていませんでした」
「だからだよ」
 クラシックの演奏家ならどの国に行っても怪しまれない。芸術家がインスピレーションを得るためと称せば、どんな所にも出現可能だ。観光コースとは全く外れたカッパドキアの荒野の中でも。
「母もスパイだったんですか?」
「いや。母上は、何も知らなかった」
 可哀想なことだったと呟く。
「どうしてそんな危険な仕事を父にやらせたんですか」
「たいした仕事ではないはずだった」
 だから素人の彼に回したのだと言う。
「何の仕事だったんですか」
「そんなこと、君に言える筈もないだろう」
「そうですな」
 と突然矢辻若は、わっはっはと笑いした。大物悪役を演じる俳優のような、馬鹿笑いだ。
「リュン君。わたしが憎いか?」
「……いいえ。父は大人でしたから。あなたの仕事を受けると決めた以上、自分の責任でしょう」
 今はまだ、この男を憎むまい。
 熱泉のように吹き出たがる感情を意志の限りで抑え、頭を下げる。
「あなたは俺の命の恩人の一人です」
 人は恨まない。大人になって、きちんと稼げるようになるまで。
 それまでは、「運命」だけを恨む、と決めているから。
「だったら、もっとしゃべってくれてもよかろう」
「わからないことは言えません、っていつも申してますが……」
 矢辻若と妹亜が居なければ、この学校へ通い続けられたかも疑わしい。けれどその前に「彼ら」と出会わなければ、日本へ帰り着くことすら出来なかったのだ。
 あちらの恩人の方が先だから、彼らを特定などさせるものか。
「おじさん、喜屋武さんにもあなたの仕事をやらせているんですか」
「まさか。喜屋武君には……無理だ。見ていればわかるだろう」
 だったらどうして父には、との思いを止めて続ける。
「では、あれは偶然なんですかな。『早生まれ撲滅同盟』が、喜屋武さんの隣の広報課に何かとちょっかいを出してきて、あの人も駆り出されているのは」
「何だ、その訳のわからん集団は。警察には関係ないだろう」
「俺の生みの親がいるんでしょう」
「何でそうなるんだ?」
「父ー鳳羽の父から話は聞いています。十五になったら、本当の親のことを教えるって前から約束してくれてたんです」
 ぎりぎりのタイミング。二ケ月も経たず父は殺された。
 さっと差し出した書類は、東北の病院での出生証明書。一月一日付けで、子どもの名前は「リュン」だが姓が違う。
「早生まれ撲滅同盟の『ディレクター』が、俺の実の親なんですよね」
 やれやれ、と矢辻若は眼鏡を取り出して証明書を眺めた。
「そういうところが、鳳羽の甘さだったんだよなあ」
 ため息らしきものを吐く。ただ言った。
「あの団体も私たちの監視下にある。もし危険な兆候があったら、君の存在は切り札として使える」
 早生まれ撲滅同盟の幹部夫妻が、早生まれの子どもを生んでいた。
 一月一日午前一時過ぎ。
 だから子どもを捨てた。
 彼らの子だと主張した病院は、名誉棄損の裁判を起されると早々と逃げた。親が不明な子として施設に入ったリュンを矢辻若は追った。鳳羽夫妻に引き取りを頼み、養子とされた。子どもが居なかった彼らは、
「授かりものだって喜んでたよ」
(……)
「気になるのか? 連中のこと」
「俺をこの世に生み出した人たちには、興味があるに決まってます」
「いずれ会わせてやれるかもしれないぞ。効果的にな」
 矢辻若は楽しそうだった。リュンは内心でも演技でも笑うことが出来なかった。
「『ご主人様』はこのことを知ってるんですかな」
 言ってから手で口を塞ぐ。矢辻若はまたおかしげに笑った。
「そう呼んでるのは知っとるよ。その格好だしな」
 メイド服の黒レースの裾あたりを手で示す。
「喜屋武君は知らない。君も言わない方がいいと思うぞ」
 うなずくと、物分かりがいいなとリュンを眺める。
「世の中、多くを知れば知るほど危険が増す」
「…ではおじさんなど、危険の極みというわけですな?」
「その通りだよ。私ぐらいになれば、社会的生命を絶たれれば人生が絶たれるのと同じだ。私は、表からも裏からもありとあらゆる情報を集めて、それでもまだ足りない何かのせいで消されるのではと脅えている、哀れな亡者に過ぎない」
(餓鬼にしては血色がいいですな)
 恰幅も良いと内心評する。
「……随分な入れ込みようだな。喜屋武君に」
「あの人も俺の大恩人の一人ですから」
「大人になったら、嫁に貰ってやったらどうだ?」
「冗談は止めてください」
 即座にパシリと返した。
「世代が違います。それに、幹部候補生の喜屋武さんには、ふさわしい相手というのが居るでしょう」
「あの技官の若いのは、どうだったんだ?」
「升形樹馬ですか? 向こうの好意は明らかでしたが、喜屋武さんの方はわかりませんな。ああ、おじさん。俺そろそろ、夕食の準備をしに戻りますので」
「箒を立てられたか。こんな前から準備をするのかね」
「それが俺の仕事です」
 その日のメインディッシュは、三分茹でるだけの麺だったが。

 カップを片付けてから部屋に戻ると、別の中年男が所在無げに座っていた。
「いや、喜屋武警視からの呼び出しには、少し早かったかな……」
「頓田様ー」



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テーマ : ミステリ
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