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ピンクのイルカが夢を見た 1-14

 羽美子が見たがったイルカとアシカのショーはもう終了していた。彼らの普段の姿が見られる地下水槽に降りる。
「こんなもんでいいのか?」
「OK! ただ感想書きゃいいだけだから」
 尋ねると有人は軽い調子で答えた。人魚の涙のスタッフに、実物のイルカを見て感想を書くように指示されたという。ウオッチングツアーへの参加などと比べれば水族館は手ごろだ。まつみと来たことがある慶も何か手がかりを思い出せたらーそういう趣旨で四人はここに来ていた。
「そっちの首尾はどう?」
「相変わらず全然だ。本気で人魚が実在すると思ってるらしいけどよ」
 人魚の涙の連中は、イルカや人魚、海にこだわっている。海のそばに行くことは強く勧めるが、「イルカのように泳ぐように」とは勧められないと有人が首をかしげる。
(まつみ)
 僕は今ーお前のことを考えている。
 そのために。
 羽美子と二人、まつみの言動についてリストを作った。わかったのは、まつみは「どこへ行きたい」と一度も言ったことがないということだ。自分など行きたい所だらけで困るくらいなのに。
 パスポートを持ち出しているというが、海外にも興味がないように見えた。
 そして、付き合っていたにも関わらず慶はそれらに気付きもしなかった。
(だから?)
 おととい慶はサイトから人魚の涙の準会員申し込みを完了させた。
「だけどマーメイドに入ろうっていうのは無駄だと思うよ? 塩矢っちも慶君も。アレ無理だって」
 羽美子が改めて嘘発見器のことを指摘する。梨々香も石像顔のまま言葉を加えた。
「私調べたんですけど、かなり難しいようです。でも、すり抜けて信者になった人も結構いますから、精度がすごく高いわけでもないはずです。挑戦する価値はあるかと思います」
 羽美子がむくれたのが見えたが言った。
「やってみなきゃわからないな」
 困難なほど男にとっては克服しがいがある。それに、
(僕は遅れを取るわけにはいかないんだ)
「じゃあ、羽美ちゃんがまず最初に試してくれるかな?」
 フォローすべく笑いかける。
「や、や、や、何言ってんの?! 嫌だよ~っ!!」
 彼女はいい。問題は?慶はイルカの水槽に向かう有人の後ろ姿を見た。


 実際に見るイルカはこの間の映像のものとはやはり違った。大きな青灰色の体についた無数の傷に、彼らがマスコットでもぬいぐるみでもなく「獣」なのだと有人は実感する。
「おっと……ちっちゃなレディに場所を譲らないとな。こっちおいで」
 後ろにいた三歳くらいの女の子に水槽前を譲ってやる。急降下してきたイルカが目の前を通り、女の子は歓声を上げた。
「ねぇ何飲む?」
 羽美子が注文を取って自販機に行き、ジュースとコーヒーを配る。
 四人は水槽から離れたベンチに腰を下ろした。
「今までまつみがらみのイルカって何匹出て来たんだっけ。多すぎて、オレ訳わかんなくなっちまって」
「まとめて四『頭』です。イルカはほ乳類ですから匹では数えません」
「あ……ごめん」
 無視して梨々果が言うには以下の四ケース。
 ・「家出」直前の有人との会話。夢の例 
 ・まつみの泳ぐ目的 
 ・ピュアドルフィンー七大洋ーマーメイドティアーズ それぞれのマークや教義
 ・なくなった携帯マスコット

「……あいつが何かイルカにこだわってたのは違いないじゃん? だけど、それとマーメイドティアーズが関係あるのかないのか……」
「関係あると思います」
 ミルクコーヒーを手に梨々果がぽそりと言う。
「前から言ってるけど、証拠ないでしょ!」
「…これだけあって、どこに証拠がないんですか」
「だーかーらー! イルカは海のシンボルみたいなもんだから、たくさん出てくるのは当たり前でしょ! どーしてわかんないのかなぁ?」
 オレンジジュースを振って羽美子が首を傾げる。
「では瀬賀先輩は、山野ってインストラクターが滅茶苦茶な勢いで怒ってきたのは、どう考えるんですか?」
「偶然よ」
「偶然ですませるんですか。先輩、本気でまつみ先輩を探す気あるんですか」
「ちょっ!!……あんたこそ! まつみのことなんか何にも知らない癖に!」
「私はまつみ先輩のルームメイトです!」
「っ!? だったら言ってみなさいよ! 今、あの子がどこに居るか。どーなのぉっ?!」 
 平和なイルカの水槽前で、女子二人の間に火花が散り?いや雷鳴が見聞き出来そうだった。蛇とマングース、または塗壁と妖怪退治の女道士か?(どちらがどちらはかはともかく)
「な、な、二人とも、落ち着いて! もう少し考えようよ。人間頭使わないとホントさびるんだって。美容と健康にも良くないからさ! まつみのことが心配なのはみーんな一緒だって」
「そ。オレは手伝うくらいしか出来ねえけどさ。やれるだけのことはやるから!」
 慶も有人も慌てて間に入る、しかない。
「……あたしはぁ。ちゃんとまつみに連絡が取れる方法を探したいって思ってるだけだよぉ」
 梨々香は無言で能面に陰を落す。羽美子がちょとばかり膨れたまま話を振った。
「にしてもさ。塩矢っち、よくまつみの携帯マスコットなんて覚えてたね」
 慶が閃光のように自分をひと睨みしたのを視界の端で捉えた。体がこわばる。
「……や、ちょっとそのことで、まつみと話したことがあったから」
「どんなこと?」
 慶の口調はやわらかかった。恐る恐る顔を動かすと、彼は穏やかな微笑みを作っている。
「イルカ付けてるの、透明なんだ、とかそんなこと。イルカのマスコットなんて珍しいから、目について」
 そんな珍しいかなあ、という羽美子のつぶやきに身が縮んだが、慶は今度は反応しなかった。
「……あいつ、ここでずっとイルカを見てたんだ。水槽にくっついたままで。その表情が悲しそうっていうか、あきらめたような顔で……その時もちょっと気になった。だけどそのままにしちゃってさ。あの時、もっと注意してて何か話してたら、こんなことにはならなかったかもしれない」
「……」
「今、そんなこと言ってもしょうがないけどね。まずは、あいつを見つけないと」
 水槽に顔を上げる。そのこぶしが強く握られていたのを有人は見た。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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