TOP > スポンサー広告 > title - ピンクのイルカが夢を見た 1-15TOP > ピンクのイルカが夢を見た > title - ピンクのイルカが夢を見た 1-15

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ピンクのイルカが夢を見た 1-15

 閉館前の最後に展望ベランダに上がった。右手は曲線を描いた砂浜が続き、左は小さな漁港。その前から海浜公園が広がり向こうにはこんもりとした岬が見える。
 暮れかかった空と海との境はあいまいに溶け、濁った水色がただ延々と目の前に広がる。沖にちらつくのはウインドサーフィンの帆。
 かすかな潮の匂い。響き続ける波の音。
 何もない水平線はどこか嘘臭く有人は落ち着かない。だが、海は世界中につながっている。
(パスポート)
 出国はしていないというが、あの子はどこへ行こうとしているのか。何がまつみを引き寄せているのか。イルカ、人魚、馬鹿馬鹿しくて秘密主義の宗教ー

「塩矢っち。塩矢くん! ごめんね」
 羽美子に後ろから顔を覗き込まれた。
「気分悪かったでしょ?」
 ぎょっとしたが、彼女が謝ったのは携帯マスコットのことではなかった。
「……あたし、なんか怒ったみたいになっちゃって」
 梨々香とのファイトの件だ。
「気にするなよ。相性が合わないってことはあるから」
「そういうんじゃないんだけどなぁ」
 またぷいと膨れる。
「羽美ちゃんがまつみのことどれだけ心配してるかは、みーんなわかってる。オレだってもちろん! な」
 ありがと、とくるりと回り空を仰ぐ。
「あたしね。人が嫌だと思うことを平気で言ったりするのが、すっごくヤなの」
 ゆっくりうなずいてやる。梨々香は買い言葉を返しただけなのだろうが、そういう問題ではない。
「だよな。……けど難しいな。オレも、あんまり気がきく方じゃねえから」
「そんなことないよ! って言うより、塩矢っちはそんなに遠慮しなくてもいいと思う、あたし」
「え?」
 風が強くなってきた。羽美子は頬にかかる髪をはらいながら返す。
「あたしたちみたいにまつみと仲良いわけじゃないからでしょ? でもさ、まつみが帰ってきたらあたしちゃんと言うから」
 のび上がる。
「塩矢くんがどんなに一生懸命まつみのこと探してくれたかって! そしたらきっと、塩矢っちもまつみと仲良くなれるよ」
 熱い。どう答えていいかわからなかった。

 一通り言いたいことを言うと羽美子は跳ねるように売店に向かった。途端に慶が寄ってきてささやく。
「有ちゃん助かったよ。僕一人で彼女たち二人じゃ、ほんと手がおえなかった」
「オレ一人でも無理だ」
 慶はひょいと目配せしてから羽美子を追う。一方有人は、柵をしっかと握って海に望む梨々果に近づいた。


(まつみ先輩)
 どうして私たちはこんな風なんだろう。
 どうして世界はこんなに暗いんだろう。
 逃げる術など思いつかない。
(大人になったら)
 自分の力でなんとか出来るのかもしれない。なんとか……してやる。しなくてはならない。だけどー
 藍色の空にオレンジの雲。現実じゃないみたいにキレイ。
 現実なんて高校生にもなればおおよそわかる。大人の世界にはコネや人脈がたくさん絡まっているらしい。何もない梨々香は最初からひどく不利だ。
 この、自分を憎んでいる社会に漕ぎ出していくためにー
(まつみ先輩。逃げる場所を見つけたんですか? でもそこは「ここ」よりましですか?)
 ぽん。有人が隣で柵にあごを載せた。

「何、見てる?」
 何を見ていたっていいじゃないか。どうせ、私の言葉なんか誰も聞きたくないくせに。
(私なんか、しゃべっちゃいけないのに)
「水槽、ここから見えるんだな。下に」
 下のデッキにイルカとアシカの大水槽の枠が見える。その右は確か近海魚の水槽だ。
「……魚もイルカも、可哀想。こんなに近いのに海に逃げられない」
 水槽と海は一枚の壁で分けられているだけ。
「ラッキーなんじゃねえか。壁一つで鮫も漁師も襲ってこないし、食いっぱぐれもねえ」
 やはり何も言うことはない。波打ち際まで視線を落とした。

「でも、梨々果ちゃんの方が気持ちのやさしい考え方かもしれねえな」
 付け加え、梨々果が目を丸くしたのを有人は見た。
 羽美子が小さなイルカのぬいぐるみを手に戻って来た。慶と、まつみの「夢」のことを話している。 
 羽美子も梨々果も有人同様、
『わたしには秘密の夢がある』
 との言葉を聞いた。羽美子は何かと尋ねたが答えはなく、梨々果は特に聞き出そうとはしなかったという。
「慶君だけにしゃべってないってことは、きっと慶君に関係することだよぉ!」
「そっかな?」
「もっとラブラブになりたぁい! とかだったりして! きゃあっ!」
「何それ? あいつ結構現実派だよ。歯の浮くようなこと言ったら怒られるって」
 風に髪をさらわれ羽美子は祈るように目を閉じた。
「まつみ」
 つぶやいたのは慶だ。肩を寄せて有人は水平線に目をやり、反対側で梨々果が波面を見つめる。
 海鳥が彼らの視界を横切って暮れゆく海を渡っていった。



 有人たちは知らなかった。
 三日後の火曜日。まつみの遺体が展望ベランダから一キロも離れていない海浜公園から発見されることを。

 有人は、自分はもう生きていけないのではないか、と思った。
 それは殺された少女を愛していたからではなくー




(第1部完。第2部へ続く)



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。