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ピンクのイルカが夢を見た 2-1

 授業中、携帯の使用が禁じられているのは当たり前だが、こっそり机の下で見ている者は必ずいる。二時間目の最中から既に校内の空気は違った。
 授業終了直前にそのまま着席しているよう放送が入った。休み時間になると、有人たちの三年緑《みどり》組には担任の中川に加え校長までついてくる。
 今日の中川はいつもに増して痩せて見えた。
「つらいことを報告しなければならなくなりました……。みんなが無事を祈っていた松法みな美さんですが、悲しいことに、今朝、遺体で発見されました」
 有人には、その意味がわからなかった。いや、理解するのを拒否していた。
 ー海浜公園の植え込み横に埋められていた遺体が発見され、家族から提出されていた試料により先ほど本人と確認。
 女子がすすり泣き始めた。
(そんなことが、あっていいはずない!!)
 有人の目は乾いたままだった。斜め前方、ずっと空いていたまつみの机に目をやる。何人かが同じことをして、机の上で視線が交差した。
(ぼくのせいなのか……)
 そんなはずはない。あるわけない。ただ見ていただけなのに、あの子が―

「十一時よりチャペルで臨時の礼拝が行われます。参加したい人はすぐに廊下に出なさい。先生方が先導します」
 他の生徒は教室内で冥福を祈ること。担任は残るので、話したい者は遠慮せずに来るように。敷地の外には既にマスコミが来ているので気をつけること。
 中川の言葉は有人を通り抜けていく。
 ー故人の尊厳を傷つけないよう、不注意な言動をマスコミにしないように。
(故人?)
 体が震える。
 まつみは埋められていたと先生は言った。それなら事故で死んだんじゃない。家出が行き詰まって自殺したのでもない。
 殺されたのだ。
 命を奪うほどの「狂暴で凶悪な」憎悪がまつみに向けられたのだ。クラスで一番口数が少なく、やさしい顔で笑う女の子をー
(負けるものか!!)
 どれくらい経ったのか。やっと体を動かし、泣いている女子の後ろから声をかけた。
「先生。今からでも礼拝に行っては駄目ですか」
「塩矢君か……。行きなさい」
 どこにも寄らずまっすぐチャペルに向かうように、と中川は沈んだ声で言った。

 クリーム色の壁。青いカーペット。時折泣き声が聞こえるだけの静かな廊下を歩いていく。と視界の隅で何かが動いた。
(!)
 目が合うと、桐生慶はさっと視線を反らした。廊下の向こうへ去っていく。
 芸術棟方面に向かう慶の後をそっと付けた。理由は自分でもわからない。校舎が全館カーペット敷きであることを初めてありがたいと思った。
 書道室前の日本庭園で、慶は崩れるように石に座り込み頭を抱えた。
 ガラス越し。遠く見る限りでは、震えているらしいということ以外何もわからなかった。
 しばらく見ていてから有人は歩きだした。黄色と赤茶、それぞれの色のカーペットの渡り廊下を過ぎチャペルに着くと、扉から賛美歌が漏れていた。
(違うっ!)
 学校自慢の聖歌隊の澄み切った歌声に有人はがくっと膝を折った。
(こんな、こんなきれいごとで収まるもんじゃないっ!)
 まつみは殺された。憎悪という暴力に命を絶たれたのだ!
「違うっ、違うっ!」
 目の前の扉を力任せに叩き、泥の上にひざまずいたまま有人はもがいた。
「やめろっ! 馬鹿にするな! 違う! もう、もう……」
「ちょっと何してるんだ。大丈夫か⁈」
 扉が開き、視界は渦を巻く。大丈夫だと言いたいのに、顎が動かず口を閉めることも出来ない。苦しい。拒んだにもかかわらず、有人は力ずくで保健室に運び込まれてベットの上に寝かされたのだった。

                  ※

 瀬賀羽美子は泣いた。
 三年白《しろ》組のクラスメートたちが、時々うかがうように自分を見るのには気付いていたが、構わず泣いた。
 まつみが戻って来ないなんて思わなかった。
 大人になって、お互い結婚して。普段はホームパーティーでお客様をもてなしているリビングで、今日は学生時代の友人と気のおけないおしゃべり。それぞれの旦那様の噂話でもして、それから、そういえば高校の時にこんなことがあったねと笑う。
 そんな風に思っていた。
 ジャングルジムで鬼ごっこをしていた頃から高校まで、ずっとそばにいた。自分と同じごく普通の女の子。それがなぜ犯罪なんかの被害者にー
(殺されてた、なんてー)
 世界が壊れていく。天が地に、地が天に。
 わあっー
 知らず声が大きくなり、羽美子は割れるように泣いた。

                  ※

 楡崎梨々香は背を伸ばして二年紅《あか》組中ほどの椅子に座っていた。
 泣き声に囲まれ、頭の先からつま先へ冷たいものが降りていく。
(まつみ先輩のことなんか知りもしないくせに)
 頭では殺されているかもしれないと推測していた。
 だが心は想像すらしていなかったことを梨々香はようやく思い知らされた。
 様々な表情や言葉が繰り返し思い起こされて、刃物で胸が切り刻まれるようだ。
 ー本当に切り刻まれたのはまつみの方だけれど。
 深海水槽の暗黒世界のように自分が冷えていく。
 どうして世の中はこうなんだろう。
 どうしてまつみが命を断ち切られなくてはならなかったのか?
 まつみと一緒に自分も世界から拒絶されたような気がしてー
(だったら私だって……人生を呪ってやる)

 だが。まつみは自分と違って、何があっても外に悪意を向ける類いの人間ではなかった。
 なのになぜ殺害されたのだろう?
 沈む闇の中、一つだけ立ち昇る意思。
(私は……知りたい!)

                  ※ 

 父さん。
 ニュースで知ってると思うけど、松法さんは最悪の状態で見つかりました。
 ぼくは、どうしたらいいのかわからない。
 もしぼくが彼女に興味を持たなかったら、殺されることはなかったんだろうか。そんなどうしようもないことまで考えてしまいます。
 このまま自分を支える自信はありません。
 またメールします。

 追伸 テレビや週刊誌が言ってる奴は、真犯人ではないとぼくは信じています。

                                   有人



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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